[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アルカリ金属でメトキシアレーンを求核的にアミノ化する

[スポンサーリンク]

水素化ナトリウムおよびアルカリ金属ヨウ化物をあわせ用いるとメトキシアレーンを求核的にアミノ化できる

 NaHをヒドリド還元剤として用いる(NaH–NaI複合体)

ヒドリド還元反応は有機合成において基本的かつ重要な分子変換反応であり、還元剤としては、ホウ素やアルミニウム、ケイ素原子を含む共有結合性水素化物が用いられる。

一方、アルカリ金属水素化物は強いブレンステッド塩基性を示すため、ヒドリド源として用いられる例は稀である。南洋理工大の千葉教授らは、NaHとNa(Li)IをTHF中で加熱すると、NaHが塩基ではなくヒドリド還元剤としてとして働く手法を見出した。

各種分析の結果、系中でNaH–NaI複合体を形成し、NaHの結晶構造が小さなユニットに分割されることで、ヒドリド源として振舞うことが示唆されている(1)。著者らは本手法を用い、これまでニトリルの水素化脱シアノ化(図1A) (2)、アミド(図1B)・イミンの還元(図1C) (2)、ハロアレーンの水素化脱ハロゲン化(図1D) (3)反応を見出している。さらに応用展開として、NaH–NaI複合体のルイス酸性を利用し、アミド基を配向基に用いた芳香族C–Hナトリウム化を鍵とするFries型転位反応も報告している(図1E) (4)

今回、著者らはNaH–NaI複合体のさらなる活用法として、メトキシアレーンのメトキシ基を脱離基とした求核的アミノ化による芳香族Nヘテロ環構築に成功した(図1F)。本反応は協奏的な芳香族求核置換反応である。

図1. NaH–NaI複合体を利用した反応

 

“Nucleophilic Amination of Methoxy Arenes Promoted by a Sodium Hydride/Iodide Composite”

Kaga, A.; Hayashi, H.; Hakamata, H.; Oi, M.; Uchiyama, M.; Takita, R.; Chiba, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 11807.

DOI: 10.1002/anie.201705916

論文著者の紹介

研究者:千葉俊介

研究者の経歴(一部抜粋):
2001 早稲田大学理工学部応用化学科卒業 (清水功雄教授)
2003 東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了
2005 東京大学大学院理学系研究科化学専攻COE特任助手
2006 博士(理学)取得 (奈良坂紘一教授)
2007-2012 南洋理工大学理学院化学生物化学科助教
2012-2016 南洋理工大学理学院化学生物化学科准教授
2016- 南洋理工大学理学院化学生物化学科教授
研究内容:新規反応の開発、天然物合成

研究者:滝田良

研究者の経歴(一部抜粋):
2006 博士(薬学)取得 (柴崎正勝教授)
2006-2007 日本学術振興会海外特別研究員(MIT, Prof. Timothy M. Swager)
2007-2010 京都大学元素科学国際研究センター錯体触媒変換化学助教
2010-2014  東京大学大学院薬学研究科助教・講師
2014- 理化学研究所内山元素化学研究室副チームリーダー
研究内容:遷移金属錯体を触媒とする新規反応の開発

論文の概要

本反応は、メトキシアレーンに化学量論量のNaH–NaI複合体と2級アミンを加え、THF中90度で加熱すると分子内 (図2A)もしくは分子間でアミノ化(図2B)が進行する。

分子内アミノ化において、窒素原子上は1例のみ無置換(1級アミン)が報告されているが、主にベンジル系置換基であり、アリール基やアシル基を有するものはアニオンの非局在化により適用できない。なお、ベンジル基をもつ場合、retro-Mannich反応や[1,2]-aza-Wittig反応などの副反応が進行する場合がある(論文参照)。

また本反応は、7, 8, 10員環をもつ大員環Nヘテロ環を構築することができる。分子間アミノ化に関しては、アミノ化剤が環状2級アミンに限られるものの芳香族アミンを合成することができる。

実験結果から、この芳香族求核置換反応はMeisenheimer錯体を経由するSNAr機構(付加-脱離型)やベンザイン機構(脱離-付加型)ではない反応形式で進行していることが示唆された。DFT計算の結果、ナトリウムアミド遷移状態(TS)をとる協奏的な芳香族求核置換反応であることが明らかとなった(図2C)。溶媒であるTHFおよびメトキシ基によってナトリウム原子のルイス酸性が活性化されることが本反応進行の鍵である。

図2. (A) 分子内アミノ化反応(B)分子間アミノ化反応 (C)反応途中のエネルギー図


参考文献

  1. Hong, Z.; Ong, D. Y.; Muduli, S. K.; Too, P. C.; Chan, G. H.; Tnay, Y. L.; Chiba, S.; Nishiyama, Y.; Hirao, H.; Soo, H. S. Chem. Eur. J. 2016, 22, 7108. DOI: 10.1002/chem.201600340
  2. Too, P. C.; Chan, G. H.; Tnay, Y. L.; Hirao, H.; Chiba, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 3719. DOI: 10.1002/anie.201600305
  3. Ong, D. Y.; Tejo, C.; Xu, K.; Hirao, H.; Chiba, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 1840. DOI: 10.1002/anie.201611495
  4. Huang, Y.; Chan, G. H.; Chiba, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 6544. DOI: 10.1002/anie.201702512
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 2013年ノーベル化学賞は誰の手に?トムソンロイター版
  2. JEOL RESONANCE「UltraCOOL プローブ」: …
  3. ボリレン
  4. 脳を透明化する手法をまとめてみた
  5. いつも研究室で何をしているの?【一問一答】
  6. アイルランドに行ってきた①
  7. 非対称化合成戦略:レセルピン合成
  8. インドールの触媒的不斉ヒドロホウ素化反応の開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 学会会場でiPadを活用する①~手書きの講演ノートを取ろう!~
  2. 第8回XAFS討論会
  3. 芳香族カルボン酸をHAT触媒に応用する
  4. GRE Chemistry 受験報告 –試験当日·結果発表編–
  5. ファンケル、「ツイントース」がイソフラボンの生理活性を高める働きなどと発表
  6. ハロルド・クロトー Harold Walter Kroto
  7. 次世代シーケンサー活用術〜トップランナーの最新研究事例に学ぶ〜
  8. 直径100万分の5ミリ極小カプセル 東大教授ら開発
  9. YADOKARI-XG 2009
  10. 「コミュニケーションスキル推し」のパラドックス?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年10月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP