不活性な内部アルケンに対する触媒的ヘテロ-エン反応を鍵としたアリル位のエナンチオ選択的、位置選択的かつE/Z選択的な酸化反応が報告された。
アリル位の立体選択的官能基化
不飽和炭化水素化合物の立体選択的アリル位官能基化は、直截的なキラルビルディングブロック構築法であり医薬品や天然物などの効率的な合成法となりうる。
近年、金属触媒を用いたエナンチオ選択的アリル位C–H酸化反応の開発が進んでいる(1)。しかし、これらは環状アルケンか末端アルケンのアリル位がほとんどであり、内部アルケンに対するアリル位の選択的官能基化は困難な課題として残っていた。
内部アルケンではアリル位が2つ存在するため、立体選択性に加え、位置選択性を制御する必要がある。さらに、得られる化合物が内部アルケンの場合はE/Z選択性も考慮する必要があるため原理的に合計8種類の異性体が生成し、高度な選択性制御が求められる(図1A, 1B)。
一方、(ヘテロ-)エン反応は官能基化されたアリル化合物の合成法として知られる。テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターのTambar准教授らは、エノファイルとしてN=S=O化合物3に着目し、キラルSbCl5/BINOL4触媒を用いて種々の内部アルケンのエナンチオ、位置、E/Z選択的なヘテロ–エン反応を開発しキラルなスルフィンアミド5の合成に成功した(図1C)。
これまで、不斉補助基をもつN=S=O化合物を用いた立体選択的なヘテロ-エン反応は知られているものの[3]、触媒的に達成したのは今回が初めてである。なお、5は立体選択的または特異的に様々な化合物へと誘導できるため、内部アルケンから多様なキラル骨格を効率的に構築する新手法となりうる。
“Catalytic allylic oxidation of internal alkenes to a multifunctional chiral building block”
Bayeh, L.; Le, P. Q.; Tambar, U. K. Nature 2017, 546, 196.
DOI: 10.1038/nature22805
論文著者の紹介
研究者:Uttam K. Tambar
研究者の経歴:
2000 B.A., Harvard University (Prof. Cynthia M. Friend and Prof. Stuart L. Schreiber)
2006 Ph.D., California Institute of Technology (Prof. Brian M. Stoltz)
2006-2009 Posdoc, Columbia University (Prof. James L. Leighton)
2009-2014 Assistant Professor, The University of Texas Southwestern Medical Center
2014- Associate Professor, The University of Texas Southwestern Medical Center
研究内容:新奇反応の開発、天然生物活性物質の全合成、創薬化学
論文の概要
Tamberらは内部cis-アルケンに対しSbCl5/4触媒存在下、TFAおよび3を用いることでエナンチオ選択的、位置選択的かつE選択的にヘテロ-エン反応が進行することを見出した。
本反応は高い反応性を有する官能基をもつアルケンに対しても良好な収率、選択性で進行する(図2A)。遠隔位に電子求引基をもつ非対称アルケンでは、求引基に近い位置にスルフィンアミド基をもつアルケン(5d, 5e, 5f, 5g)が生成する。しかし、電子求引基が隣接する場合ではアルケンのπ求核性の低下により反応は進行しない(5h, 5i, 5j)。
種々の対照実験を通じて反応機構に関する知見を得ることで、各種選択性の発現機構が考察されている(図2B)。
エナンチオ選択性に関しては、不斉触媒SbCl5/BINOL4のもつBrønsted酸性が鍵であり、3と水素結合を介した閉じた遷移状態TS-Aを経由して反応が進行するためだと結論付けられている。また、非対称アルケンに対する位置選択性、および生成物のE/Z選択性は、反応の六員環遷移状態の立体配座から推測できる(図2C)。TS-Aの六員環遷移状態で、立体反発が最小となるような立体配座で反応が進行する。
このため、非対称内部アルケンのアリル位の位置選択性については、2級>3級>1級炭素の順で優先して反応する (図2C)。また、図2Cの遷移状態における右奥の炭素がequatorialになるように反応が進行するため、E体が優先して生成する。
以上のように、触媒的ヘテロ-エン反応により高立体選択的なアリル位置換化合物の合成法が開発された。今後の展望として、3置換アルケンを含むさらなる基質一般性の獲得に期待したい。
参考文献
- (a) Covell, D. J.; White, M. C. Angew, Chem., Int. Ed. 2008, 47, 6448. DOI: 10.1002/anie.200802106 (b) Davies, H. M. L.; Manning, J. R. Nature 2008, 415, 417. DOI: 10.1038/nature06485
- (a) Sharpless, K. B.; Lauer, R. F. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 7154. DOI: 10.1021/ja00775a050 (b) Hori, T.; Singer, S. P.; Sharpless, K. B. J. Org. Chem. 1978, 43, 1456. DOI: 10.1021/jo00401a035
- Whitesell, J. K.; Carpenter, J. F. J. Am. Chem. Soc. 1978, 109, 2839. DOI: 10.1021/ja00243a055