第115回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 理学院 化学系 博士後期課程2年の栗木 亮さんにお願いしました。
栗木さんの所属する石谷・前田研究室は、光エネルギーを活用し新しい化学的概念を創り上げることを一大目標としています。光励起できる新しい触媒を合成し、さらに応用することによって、光エネルギーから化学エネルギーへの効率的変換を目指しています。
同研究室からは以前、中田 明伸さんにスポットをあて、研究を紹介させていただきいています(記事:第68回 光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発)。
今回、栗木さんは高効率的に人工光合成を行なえる光触媒を開発し、その成果をACIE誌に報告しました。また、プレスリリースでも取り上げられていましたので、インタビューさせていただきました。
Robust Binding between Carbon Nitride Nanosheets and aBinuclearRuthenium(II) Complex Enabling Durable,SelectiveCO2 Reductionunder Visible Light in Aqueous Solution
R. Kuriki, M. Yamamoto, K. Higuchi, Y. Yamamoto, M. Akatsuka, D. Lu, S. Yagi, T. Yoshida, O. Ishitani, K. Maeda
それでは本成果をご覧ください!
Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
私たちの研究室では、「光エネルギーを用いて二酸化炭素を資源化(還元)する触媒(光触媒という)の開発」を行なっております。中でも私は、酸化反応部位に半導体を、二酸化炭素還元部位に金属錯体を用いたハイブリッド型の光触媒の研究に注力しています。一般的に半導体は光酸化能が高く、一方で金属錯体は二酸化炭素の還元能力が高いことから、本系は半導体と金属錯体という異なる2種の長所を融合した最新の系だと言えます。この様な系を構築するには、半導体と金属錯体を強固に吸着させ、両間での効率的な電子/エネルギー移動を実現させることが必須です。
今回私は、ナノシート構造を有する有機半導体カーボンナイトライド(C3N4)と金属錯体を、ホスフォン酸部位を介して吸着させることで、特異的に両者を強固に複合化できることを見出しました。この性質を活かすことで、可視光照射下、及び水溶液中にて、二酸化炭素をギ酸へと、高選択(~99%)かつ高い触媒回転数(~2100)にて還元することに成功しました。これらはいずれも、ハイブリッド型光触媒系では過去最高の性能です(従来の最高値はそれぞれ75%と800程度)。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
固体表面に錯体を強固にさせる技術は、耐久性向上といった観点から光触媒や色素増感太陽電池といった様々な分野において重要視されています。これらの系の殆どは、TiO2を始めとする酸化物等の無機半導体を固体部位として用いられてきましたが、水溶液中での容易な脱離が系の構築を困難にしてきました。新たな選択肢として、私は有機半導体カーボンナイトライド(特にナノシート構造を有するもの)に注目し続け、研究を推し進めてきました。最終的にはこれが成果に繋がりました。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
概念的な話になってしまいますが、、、
ハイブリッド型光触媒系はまだまだ報告例が少なく、分かっていないこと、達成されていないことばかりです。そのため、研究結果を発散させないためにも、「目標設定を適切に定めること」は非常に大切で、また難しいことだと感じます。私達の大きな目標の一つは、ハイブリッド型光触媒系を発展させ、植物の光合成同様に、水の酸化反応と二酸化炭素の還元反応を同時に達成することです。これは、「水と二酸化炭素を、光エネルギーを用いて酸素と資源に変換する」という、究極的にクリーンな反応系であると言えます。これを達成するには、「錯体–半導体間を強固に吸着させること」、「水溶液中で高い性能にて二酸化炭素還元反応を進行させること」が必要です。この様にトップダウン的に考えることで、適切に目標を定め、論文に繋げることが出来ていると思います。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
幸運なことに私の指導教員の前田先生と石谷先生は、それぞれ半導体と金属錯体のスペシャリストです。そのため、私は半導体と金属錯体といった少し系統が異なる2種の物質を融合した魅力的な系の構築、及びその発展を行うことが出来ています。この経験から、様々な分野間で融合し協力し合うことの重要さを実感しています。今後は、もっと視野を広げた他分野間の繋がりを大切にし、化学を発展させて行きたいと考えています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
偉そうなことは言えませんが、本論文の経験から、「色々な側面から実験結果を見ること」は大切だと感じます。実験結果一つをとっても、良い側面、悪い側面、色々あると思います。具体的には、例えば今回私が報告したカーボンナイトライド–金属錯体間の吸着に関してですが、飽和吸着量に関しては無機の酸化物半導体と比べて優れていません(これは悪い側面です)。しかし、一部の錯体は非常に強固に吸着しています(これは良い側面です)。この論文は、いわば良い側面に注目して系の構築を推し進めた結果です。一つの側面に捉われず、様々な側面から自分の研究結果を見直すことが大切ではないでしょうか。
関連論文
・R. Kuriki, H. Matsunaga, T. Nakashima, K. Wada, A. Yamakata, O. Ishitani, K. Maeda, J. Am. Chem. Soc., 2016, 138 (15), 5159–5170.
・R. Kuriki, K. Maeda, Phys. Chem. Chem. Phys., 2016, 19 (7), 4938–4950.
・R. Kuriki, O. Ishitani, K. Maeda, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016, 8 (9), 6011–6018.
・R. Kuriki, K. Sekizawa, O. Ishitani, K. Maeda, Angew. Chem., Int. Ed., 2015, 54 (8), 2406–2409.
関連リンク
・新開発の光触媒でCO2を高効率に再資源化―緑色植物の光合成を人工系で実現―(東京工業大学プレスリリース)
研究者の略歴
栗木 亮 (くりき りょう)
所属
2016年4月-現在 東京工業大学理学院化学系, 石谷・前田研究室 (博士後期課程)
2017年4月-現在 日本学術振興会特別研究員 (DC2)
研究テーマ
有機半導体と金属錯体からなる二酸化酸素還元光触媒系の創製