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真理を追求する –2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞–

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去る7月5日、TEPIA先端技術館にて2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の授賞式が行われました(トップ画像:日本ロレアル株式会社提供)。ケムステでは毎年、受賞者の方のひとりにインタビューをさせていただき、同賞ならびに受賞者の方々を応援させていただいています。
とは言っても、最近になってケムステ記事を読み始めた方も中にはいらっしゃると思います。みなさん、同賞をご存知でしょうか。

ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」:日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的として、2005 年 11 月、日本ロレアルが日本ユネスコ国内委員会との協力のもと創設しました。対象者は、物質科学または生命科学の博士後期課程に在籍または、同課程に進学予定の女性科学者です。原則、各分野からそれぞれ 2 名 (計4名) 決定し、賞状と奨学金 100 万円が贈られます。昨年までに43名の若手女性科学者が受賞しており、受賞以降は、国内外で研究をはじめ、結婚・出産、次世代の育成など多様なキャリアを切り拓いています。

(日本ロレアル株式会社 HPより引用)

このように、物質科学分野および生命科学分野における若手女性研究者、特に博士課程の女性学生に送られる賞のなかでも最高峰とも言える賞であり、今年で12年目を迎えています。過去11年目までのケムステ記事一覧は以下のとおりです。

ちなみに例年2月頃に書類選考があり、突破すれば5月頃に面接選考となります。応募してみたいという女性学生のみなさん、時期が近づきましたら日本ロレアル株式会社のHPをぜひチェックしてみてください。

栄えある今年度の受賞者は以下の通りです。おめでとうございます!

中央は、「日本特別賞」受賞のロボットいきもの工房TRYBOTS代表 近藤 那央さん

 

[物質科学分野]

秋山 みどり(あきやま・みどり)さん

所属機関:東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 フッ素および有機化学融合材料・生命科学講座 特任助教(2017年4月~)
出身大学:東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 野崎研究室
研究内容:らせん型金属二核錯体の合成と発光特性

小川 由希子(おがわ・ゆきこ)さん

所属機関:物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 (2017年4月~)(日本学術振興会特別研究員‐SPD)
出身大学:東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 小池研究室
研究内容:構造変化を利用した新しい高機能マグネシウム合金の開発

[生命科学分野]

別所 奏子(べっしょ・かなこ)さん

所属機関:名古屋大学 生物機能開発利用研究センター 博士研究員 (2017年4月~)
出身大学:名古屋大学生命農学研究科 高次生体分子機能研究分野
研究内容:栽培イネが芒を失った理由の解明と、育種における芒(のぎ)の有効活用

渡邉 美佳(わたなべ・みか)さん

所属大学:北海道大学大学院医学院 皮膚科学教室 皮膚科医
研究内容:17型コラーゲンが皮膚維持に果たす役割の解明

4名のみなさん、この度はおめでとうございます!今年のケムステでは、物質科学分野でご受賞の秋山みどりさん(東京大学大学院工学研究科・特任助教)にインタビューをさせていただきました!

筆者は秋山さんと近い分野で研究をしていたこともあり、以前より秋山さんを存じ上げておりました。今年3月の日本化学会年会で初めてお会いし、お話させていただいたのですが、知的さと活発さを兼ね備えた女性科学者という印象を強く受けました。

そんな素敵な秋山さんとお友達になれてとても嬉しかったです。秋山さんは現在、東京大学大学院工学研究科化学生命工学専攻で助教として働かれています。所属するフッ素および有機化学融合材料・生命科学講座は、旭硝子株式会社の出資により今年4月に設置された社会連携講座だそうです。(野崎京子特任教授、HPはこちら) 新しい環境でスタートを切られた秋山さんの、今後のさらなるご活躍を楽しみにしております!

前置きが長くなりました。それではインタビューをお楽しみください!

どんな研究を行っていますか?

「らせん型金属二核錯体の合成と発光特性」

分子が光を吸収すると、光の分だけエネルギーの高い励起状態になります。このエネルギーを放出する際に、光として放出すると発光が起こります。発光する分子は、例えば有機発光ダイオードの材料として利用されます。光を吸収した分子が、そのエネルギーを熱として放出すると、分子は発光しません。吸収したエネルギーを光として放出できるかどうかは、励起状態の構造によって決まります。

本研究では、らせん型の分子ヘリセンに金属をつけることで分子の性質がどう変わるかを調べました。その中で、ルテニウムを1つだけ有する分子は全く発光しなかったのに対し、ルテニウムを2つ有する分子はりん光という寿命が長い特殊な発光を示すことを発見しました。ルテニウムを2つ非対称な位置につけたことで励起状態の構造が変わり、吸収した光エネルギーを光として放出できるようになったと考えています。

今回開発した分子はらせん型であり、分子構造が右巻きと左巻きに区別される化合物です。このため放出する光に右・左の情報を与えることができる(円偏光)と考えられ、今後分子の改良によって発光効率が上がれば、3次元ディスプレイやセキュリティシステムの光源としての応用が期待できます。

受賞者へ1問1答!

Q1. なぜ「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」に応募したのですか?

選考の過程で面接に進むことができれば,著名な先生方に研究発表を聞いていただきディスカッションできる滅多に無い機会です。さらにもしも受賞できたら,女性研究者の知り合いの輪が広がり貴重な経験になると思ったからです。

Q2. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?

正直なところ,当初はただただ「美しい構造の分子が作りたい」という気持ちで研究をスタートしました。それだけに,りん光発光を観測したときはとても驚きワクワクしました。研究を進める中で意図した結果が出た時も嬉しいですが,このように思いがけない発見があるのが,科学の面白いところだなと感じています。

Q3. あなたにとって「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」とは?

これまでの研究活動を認めていただき自信を与えていただいたと同時に,卒業して研究者人生をスタートした自分を激励していただいたと感じています。

また授賞式では,異なる分野でご活躍する奨励賞受賞者の方々,科学を世界に広めようとアクティブに活動されている特別賞受賞者の方,さらには審査に当たってくださった女性科学者の大先輩である先生方と交流でき,とても刺激的でした。この授賞式に参加できたこと自体もとても大きな財産になりました。

Q4. 幼いときはどんな子供でしたか?

とにかく負けず嫌いで,自分のことは自分でやりたい子供でした。服の着替えや工作といったあらゆる場面で,誰かに手伝ってもらうと激怒して最初から一人でやり直しをしていました。

また,身体を動かすことが大好きでした。学生時代はずっとバスケットボールに打ち込んでおり,その中で学んだことが,現在の研究者としての自分にも強く影響を与えています。

Q5. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えてください

高校の物理の授業が「疑問に思い,仮説を立て,実験で検証し,何故その結果になったか考える」という,科学の基本的な思考プロセスを教えてくださるものでした。その授業が大好きだったので,ぼんやりと「実験科学をやってみたい」と思うようになりました。

Q6. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?

真理の追究です。科学とは「仮説→検証→考察」を繰り返して,「自然がどういう仕組みになっているか」を突き詰める学問だと考えています。

Q7. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?

研究室にいる間はほとんどありません。強いて挙げるなら,試薬瓶のフタを開ける握力と,徹夜が可能な体力,スポーツ大会での運動能力(レクリエーションも研究のうち)については,男性が羨ましくなることがあります。

学会等で研究室外の方と交流があると,女性であるというだけで(男性からも女性からも)覚えてもらいやすい感覚があり有り難いです。しかしそれに甘んじていないで,性別ではなく研究成果で覚えていただけるよう邁進したいです。

Q8. 先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないと言われる日本の現状についてどう思いますか?

多ければ良いというものではないと思いますが,コミュニティに女性が多い方が,設備や制度,周囲の理解という点で女性が働きやすい環境になると思います。多くの人は高校生の段階で大方の進路を決めるでしょうけれども,身近に科学者として働く女性がいないために科学者が選択肢に入らないのではないでしょうか。中高生のうちに,企業やアカデミアで働く女性科学者と交流できる機会が増えればよいのかなと思います。

Q9. どのような科学者になりたいと思いますか?

ぶれない軸を持ちつつも多角的な視点で物事に当たり,新しい科学を生み出したいです。

Q10. 科学者を目指す、後輩の女性達にひと言メッセージをお願いします。

今やりたいことに全力で取り組んでほしいと思います。それができる「学生でいられる時間」はとても貴重です。何に取り組んだとしても,そこから得られるものはきっと将来自分を助けます。女性も科学者も全く関係ないメッセージになってしまいましたが,まだ学生でいる方々に一番伝えたいことです。

最後に,この場をお借りして御礼をさせてください。受賞対象となった研究は,東京大学大学院・野崎京子教授のご指導の下で行いました。各種発光測定について,青山学院大学・長谷川美貴先生,石井あゆみ先生,土屋佑斗さんにご指導いただきました。理論計算に関して京都大学・倉重佑輝先生にご教授いただきました。学会でのディスカッションを通して,多くの先生方にご指摘,ご助言をいただきました。ありがとうございました。

[略歴]

秋山 みどり

2008年3月 : 筑波大学附属高等学校 卒業
2012年3月 : 東京大学工学部化学生命工学科 野崎研究室 卒業
2014年3月 : 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 工藤研究室 修士課程 修了
2017年3月 : 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 野崎研究室 博士課程 修了
2017年4月~ 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 フッ素および有機化学融合材料・生命科学講座 特任助教

 

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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