[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アルデヒドを分液操作で取り除く!

[スポンサーリンク]

アルデヒドは入手しやすく安定であり、高い反応性を持つため炭素-炭素結合形成に使いやすい、などの特性を持つ化合物です。とりわけ多段階合成における有用な中間体ですが、反応後は大抵カラム精製で除去する羽目になります。

精製の手間を少しでも減らしたい皆さんに、先日のOPRD誌に掲載されていた実験テクニック、アルデヒドを分液操作で除く手法をご紹介しましょう!

“Liquid–Liquid Extraction Protocol for the Removal of Aldehydes and Highly Reactive Ketones from Mixtures”
Boucher, M. M.; Furigay, M. H.; Quach, P.; K.; Brindle, C. S.* Org. Process Res. Dev. 2017, Article ASAP. DOI: 10.1021/acs.oprd.7b00231

原理自体は、アルデヒド精製法として知られる手順[1,2]と同じです。つまり、アルデヒドと亜硫酸水素ナトリウムを反応させてbisulfite adductとし、再結晶などで精製してから逆反応を起こして回収してくるという手順です。

今回のOPRD論文ではbisulfite adductの水溶性に着目し、分液除去するための手順へ変更が加えられています。主には最初のbisulfite adduct形成過程に様々な検討・工夫が凝らされています。

  1. 化合物をメタノールに溶かして飽和NaHSO3水溶液を加え、30秒シェイク
  2. 有機溶媒(ヘキサン もしくは 10%酢酸エチル/ヘキサン)で分液抽出

おおまかなScope & Limitationは以下の通り。

  • 脂肪族アルデヒド除去の場合は、MeOHの代わりに倍量のDMF溶媒で30分攪拌する必要あり(bisulfite adduct形成が非効率なため)。反応性ケトンも除去可能。
  • bisulfite形成の効率差を利用して、アルデヒド/低反応性ケトン間の分離も可能
  • 電子豊富オレフィンをもつ化合物はSO2との反応副生物を生じる可能性有り(SO2溶解度の低いヘキサンを抽出溶媒にすることで解決可能)
  • アミン化合物はNaHSO3と塩を組むため回収率が下がる

カラムが大変なラージスケール反応などでは、検討価値のある手法だろうと思います。

関連文献

  1. “A Novel, Nonaqueous Method for Regeneration of Aldehydes from Bisulfite Adducts” Kjel, D. P.; Slattery, B. J.; Semo, M. J. J. Org. Chem. 1999, 64, 5722. DOI: 10.1021/jo990543v
  2. “2-Methyl-3-phenylpropanal” Buntin, S. A.;  Heck, R. F. Org. Synth. 1983, 61, 82. DOI: 10.15227/orgsyn.061.0082

外部リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 乙卯研究所 研究員募集 第二弾 2022年度
  2. 「サイエンスアワードエレクトロケミストリー賞」が気になったので調…
  3. 世界最高の活性を示すアンモニア合成触媒の開発
  4. 異分野交流のススメ:ヨーロッパ若手研究者交流会参加体験より
  5. 幾何学の定理を活用したものづくり
  6. 【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波による化学プロセス革新 〜…
  7. OIST Science Challenge 2025 に参加し…
  8. Happy Mole Day to You !!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 京大北川教授と名古屋大学松田教授のグループが”Air Liquide Essential Molecules Challenge”にて入賞
  2. マテリアルズ・インフォマティクスの推進を加速させるためには?
  3. クロスカップリング反応にかけた夢:化学者たちの発見物語
  4. カーン グリコシド化反応 Kahne Glycosidation
  5. 一流化学者たちの最初の一歩
  6. 高電気伝導性を有する有機金属ポリイン単分子ワイヤーの開発
  7. 層状複水酸化物のナノ粒子化と触媒応用
  8. ホウ素の力で空気が酸化に参加!?
  9. 狙いを定めて、炭素-フッ素結合の変換!~光触媒とスズの協働作用~
  10. 第42回ケムステVシンポ「ペプチドと膜が織りなす超分子生命工学」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年8月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー