[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

スルホキシイミンを用いた一級アミン合成法

[スポンサーリンク]

Buchwald–HartwigカップリングあるいはC–H/N–Hカップリングによって得られるN-アリールスルホキシイミンのS-N結合をラジカル開裂させることで一級のアリールアミンを合成した。

スルホキシイミンの合成と利用

スルホキシイミンはスルホンの類縁体として農薬や医薬品として注目を集めている6価の硫黄化合物である。硫黄原子が立体中心をもちうる構造のため、不斉反応にも有用な化合物である。スルホキシイミンは、スルホキシドのイミノ化あるいはスルフィルイミンの酸化により得られる。

これまで非触媒的な手法や遷移金属を用いた触媒的手法、また、多段階反応を短工程化した合成法など多岐にわたる反応が報告されている(図1A)。

最近では、トリフルオロメチル化やシアノ化、アロイル化、アリール化など、スルホキシイミンの触媒的N–H結合変換反応1)の開発が勢力的に行われている(図1B)。このように、容易にスルホキシイミンに炭素官能基が導入できるため、S–N結合を温和な条件で開裂させることができれば、多様な化合物への窒素導入法の1つとなる。

今回、アーヘン大学のBolm教授らは、N-アリールされたジベンゾチオフェン骨格をもつスルホキシイミン1のS–N結合を開裂させ、アリールアミン3を得る手法を開発したため紹介する(図1C)。

図1. スルホキシイミンの合成法およびN–H結合変換反応と新規アリールアミン合成反応

 

“Dibenzothiophene Sulfoximine as an NH3 Surrogate in the Synthesis of Primary Amines by Copper-Catalyzed C–X and C–H Bond Amination”

Li, Z.; Yu, H.; Bolm, C. Angew. Chem., Int. Ed. 2017 accepted

 DOI: 10.1002/anie.201705025

論文著者の紹介

研究者:Carsten Bolm

研究者の経歴:

1984 M.S., University of Wisconsin–Madison, USA (Prof. Hans J. Reich)
1987 Ph.D., Philipps-Universität Marburg, Germany (Prof. Manfred T. Reetz)
1987-1988 Posdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. K. Barry Sharpless)
1993 Associate Prof., Philipps-Universität Marburg, Germany
1996 Prof, RWTH Aachen University, Germany

研究内容:反応開発、メカノケミストリー、硫黄の化学

論文の概要

著者らはN-アリールスルホキシイミン1のS–N結合開裂において、アジドのアミンへのラジカル還元2)を参考にした (図2A)。

1に対してトリス(トリメチルシリル)シラン(TTMSS)とラジカル開始剤AIBNをトルエン溶媒中、100 °Cで加熱すると、TTMSSラジカルが1に攻撃しスルホキシド2N-シリルアリールアミニルラジカル4が生成した。4が加水分解されることで一級アリールアミン3を与えた。反応には過剰量のTTMSSを用いる必要があるものの、様々な3が良好な収率で得られた。ただし、ブロモ基を置換基にもつ1はラジカル条件にて脱ブロモ化が進行してしまうため3は低収率にとどまった。

なお、前述したようにN-アリールスルホキシイミン1は銅触媒によるジベンゾチオフェンスルホキシイミン(5)とハロゲン化アリール6とのBuchwald–Hartwigカップリングにより得られる(図2B)。

今回、著者らは官能基化されていない芳香族化合物(C–H結合)をアリール化剤として用いたC–H/N–Hカップリング反応によるN-アリールスルホキシイミン8の合成にも挑戦した。

反応条件検討の結果、5とアリールアミド7を酢酸銅(II)触媒存在下、ピリジン溶媒中、100 °Cで加熱することでカップリング体8が得られた。その後、8に対してS–N結合ラジカル開裂条件を適用することで、アミノアミド9を与えた。様々な7を用いて反応条件を適用したが、7 のC–Hカップリングの反応性と、カップリング体8のS–N結合の切れやすさは相反しており、収率は中程度にとどまった。また、3位に置換基をもつ8からは9が2つの位置異性体混合物として得られた。なお、S–N結合ラジカル開裂後に得られるスルホキシド2を回収すれば、5の合成に再び利用することができる。

以上、安定で合成容易なスルホキシイミンを“NH3”の代替剤と考え、カップリング続くS–N結合のラジカル開裂という、一級アミンの新規合成法を開発した。

図2. N-アリールスルホキシイミンのS–N結合ラジカル開裂を利用した一級アリールアミン合成法

参考文献

  1. (a) Teng, F.; Cheng, J.; Bolm, C. Lett. 2015, 17, 3166. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b01537 (b) Hu, W.; Teng, F.; Yu, J.; Sun, S.; Cheng, J.; Shao, Y. Tetrahedron Lett. 2015, 56, 7056. DOI: 10.1016/j.tetlet.2015.11.025 (c) Zou, Y.; Xiao, J.; Peng, Z.; Dong, W.; An, D. Chem. Commun. 2015, 51, 14889. DOI: 10.1039/c5cc05483d (d) Sedelmeier, J.; Bolm, C. J. Org. Chem. 2005, 70, 6904. DOI: 10.1021/jo051066l
  2. (a) Benati, L.; Bencivenni, G.; Leardini, R.; Minozzi, M.; Nanni, D.; Scialpi, R.; Spagnolo, P.; Zanardi, G. Org. Chem. 2006, 71, 5822. DOI: 10.1021/jo060824k (b) Postigo, A.; Kopsov, S.; Ferrei, C.; Chatgilialoglu. Org. Lett.20079, 5159. DOI: 10.1021/ol7020803
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 近況報告PartI
  2. アカデミックから民間企業への転職について考えてみる
  3. “関節技”でグリコシル化を極める!
  4. 【書籍】機器分析ハンドブック2 高分子・分離分析編
  5. 海洋天然物パラウアミンの全合成
  6. アミロイド線維を触媒に応用する
  7. 半導体領域におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用-レジス…
  8. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑤

注目情報

ピックアップ記事

  1. スケールアップ検討法・反応・晶析と実験のスピードアップ化【終了】
  2. 第五回ケムステVシンポジウム「最先端ケムバイオ」を開催します!
  3. Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基礎と実験データの把握-
  4. ダンハイザー シクロペンテン合成 Danheiser Cyclopentene Synthesis
  5. NPG asia materialsが10周年:ハイライト研究収録のコレクションを公開
  6. リッター反応 Ritter Reaction
  7. 半導体領域におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用-レジスト材料の探索、CMPの条件最適化編-
  8. 第42回ケムステVシンポ「ペプチドと膜が織りなす超分子生命工学」を開催します!
  9. 超分子カプセル内包型発光性金属錯体の創製
  10. 「女性用バイアグラ」開発・認可・そして買収←イマココ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年8月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー