2016年,理化学研究所の候らは,希土類ハーフサンドイッチ触媒を用いたメトキシスチレンの重合において,連鎖重合と逐次重合を同時に起こすことに成功した.本研究の鍵は候らの希土類ハーフサンドイッチ触媒の活性の高さと,モノマーのメトキシ基の置換位置にある.
“Simultaneous Chain-Growth and Step-Growth Polymerization of Methoxystyrenes by Rare-Earth Catalysts”
Xiaochao Shi, Masayoshi Nishiura, Zhaomin Hou*
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 14812 –14817. DOI: 10.1002/anie.201609065
希土類ハーフサンドイッチ触媒
希土類ハーフサンドイッチ錯体* は、シクロペンタジエニル基(Cp)を一つ有する錯体であり,高い反応性や,特異な反応を起こすことが解明されてきている1.
(* シクロペンタジエニル基(Cp)支持配位子を二つ有するメタロセン型の錯体をサンドイッチ型錯体と呼ぶことからこのように呼ばれる)
得られたポリマーについて
ビニルモノマーはC=C結合が反応点となり,重合する.
今回用いたモノマーはメトキシベンゼンで,通常思い浮かべるのは連鎖重合ですが…
本報告では逐次重合も同時に進行するとのこと。
どんなポリマーが得られるのかというと、
逐次重合ってどういうものだったっけ…とか考え直してしまう人もいるのではないでしょうか.
私も参考書を読み直しました笑
なぜこのようなポリマーを与えるのかは,反応機構の項で考えることとします.
が,この段階で注目しておいて欲しいのは,ベンゼン環のC-H結合が付加しているなーというところと,
更によく見ると,メトキシ基から見てオルト位のC-H結合だなーというところです.
一つの触媒系で同時に連鎖と逐次重合を行う系は存在しなく,新規ポリマーを得ることに成功しています.
反応考察
触媒系は希土類ハーフサンドイッチ触媒と助触媒としてトリチルボレートを組み合わせています.助触媒についても今後まとめられたらいいなと思ってます.ビニル基から見てオルト,メタ,パラ位にメトキシ基が置換した立体異性体で重合を行うと,o-メトキシスチレンでは,連鎖重合が起こり,他二つでは連鎖と逐次重合のどちらも起きています.
推定反応機構
- C-H結合活性化とC=C結合の挿入が起こり,アニソール-エチレン交互の配列を有するオリゴマーが形成され,オリゴマー同士が結合を形成していく逐次重合反応
- メトキシスチレンのC=C結合の挿入反応による連鎖重合反応
二つの種類の重合反応が同時に起こり,ポリマーが得られる.
o-メトキシスチレンでは,オルト位の立体障害により,C-H結合活性化が起こらずに,連鎖重合のみが起こります.
今後の展望
メトキシスチレン以外のモノマーに対する重合活性などが気になりるところです.新規ポリマーを無数に合成可能な重合反応なので,続報を楽しみに待ちましょう.
参考文献
- M. Nishiura and Z. Hou, Nature Chem, 2010, 2, 257. DOI:10.1038/nchem.595