鹿児島が本日梅雨明けしたそうですが、本州はいまだ梅雨ですね。筆者は梅雨はあまり好きじゃありません。というのも湿度のせいでレーザーの調子が狂いがちで実験に支障が出ることが多かったからです。
しかしこの三年はこの問題から解放されています。…なぜなら梅雨のない外国で生活しているから!
というわけで、今回の記事では「海外留学」について少し書いてみようと思います。はじめのハードルは海外留学というチョイスを人生の選択肢に入れてみること、だと思います。“留学に興味ないこともない”といった読者を対象に、筆者の体験談を踏まえた ~きっかけ編~ お楽しみいただければ幸いです。
なぜいま留学なのか?
サイエンスに国境はありません。そして、交通・情報技術が発達してきて世界に出るのが昔に比べて簡単になってきている現在、人生のうち数年を海外で過ごしてみる、ということを選択肢に入れてみるのも悪くないでしょう。また、社会のグローバル化が加速していることを考えると、サイエンスに限らず国際感覚を実体験として持っていることの価値はますます上がってくるかもしれません。
卒業はまだ先だし、興味はないことはないけど考えるのはまだいいや…と思っている方もいると思います。しかし、後回しにしていると忙しくなってきて、意外とゆっくり考える時間がないのが常です。落ち着いて情報を集められるのは実は今だけかもしれません。興味が少しでもあるようなら、なるべく早い段階で情報を集めてみましょう。情報を集める過程で気持ちが盛り上がっていったり逆に興味がだんだんなくなっていったりすると思うので、迷っている人にとってはいい試金石になると思います。何より、情報を集めるだけならノーリスクです。
はじめはどうやって情報を集めるべき?
一番おすすめするのは、経験者に体験談を聞いてみることです。留学と一口に言っても「学位取得後にポスドクとしていく」、「学生として行って海外で学位を取る」などいろいろなケースがあると思うので、自分が描くケースの人に話を聞ければベストだと思います。筆者は学位取得後に研究員として留学しているケースですが、指導教官および身内に留学経験者がいたため、比較的早い段階から留学という選択肢が頭にありました。
また、体験談が詰まった書籍やブログもありますので、時間があるときに眺めてみたりするのもいいかもしれません。最近の本だと、「研究留学のすゝめ!(羊土社)」などは赤裸々な体験談が豊富で読み物としても面白いと思います。
[amazonjs asin=”4758120749″ locale=”JP” title=”研究留学のすゝめ! 〜渡航前の準備から留学後のキャリアまで”]情報を集めてみて外国で生活することに興味を持てるようだったら、留学先の候補をぼんやり考え始めてみることが次でのステップかと思います。これは日頃論文を読んでいて引っかかる研究室があれば、HPなどを訪れてみてちょっと調べてみるようにするなど、はじめは意識するだけでいいと思います。実は意識するだけでもいくつかメリットがあって、留学という選択肢を脳裏に持った状態にしておくことにより、筆者の場合は
①留学先を探すという目線で論文を読むようになり身が入った
②英語の勉強のモチベアップ、特に外国人と交流する機会に積極的に話に行くようになった
③海外でも通用するように研究を頑張らねばという気分になった
といった効用があったように思います。
留学のメリット・デメリット
もう少し具体的なことを考えてみる段階にくると、メリットとデメリットを比較してみるのが定石でしょう。この辺りの話はググったらいくらでも出てきますので、それらを書き直すようなことはここではしません。代わりに筆者の実体験を元にベスト3、ワースト3を以下に箇条書きにしてみました。
【メリット】
・多様な価値観に触れられたので視野が飛躍的に拡がった
もちろん日本にいてもいろいろな人がいますが、抜本的に文化が違う人と日常的に接するのはこの上ない刺激で、物事の考え方が拡がった気がします。日本を偏見なく相対化する視野を持てたのは価値があると思っています。
・世界的な人的ネットワークができた
特にニューヨークに留学しているからかもしれませんが、本当にいろいろな国籍の友人が世界中にできました。同時に、自分の研究者としてのレベルを世界的な位置づけで相対化できたことや、世界の研究の動向を間近に感じられているのもとても良い刺激になっています。
・英語力の向上
もちろん環境により差はあると思いますが、英語は一定レベルまではほぼ間違いなく上達します。背水の陣なので特にメールでのやり取りや、普段のちょっと言い回しなどは反復される回数が多いので本当の意味で身に付くと思います。
【デメリット】
・文化の違いによるストレス
日本語が通じないのはもちろん、カルチャーショックは多かれ少なかれ随所であります。あと、ふとした時に湯船につかりたくなったり、本物の日本食を食べたくなったりすることはあります。しかし、たまに一時帰国したときに格別の喜びを味わえたりします。
・非常事態での不安
これは極端な例ですが、急性膵炎を発症して救急車で運ばれたことがあります。おそらく訊ねられたくない英語フレーズワースト3には入るであろう「What kind of pain? (どのように痛みますか?)」を聞かれました。変な受け答えのせいで間違った診断をされていないか極めて不安でしたが、無事全快したので振り返ってみれば貴重な経験です。なお、この経験を通じてpancreatitis(膵炎)という単語を身をもって学びました。
・家族や友人と疎遠になりがち
日本まで飛行機で13時間そして10万円はほぼ確実にかかるので気楽に帰れません。そして時差が13-14時間なのでリアルタイムの連絡も取りにくくて仕方がありません。ただ、一昔前のことを考えれば今ははるかに通信が発達しているのは確かなので、人によってはそこまで気にならないかもしれません。
しかし、全部もろもろひっくるめていい経験だ、と割り切ることができる人にはこれらは問題にすらならないでしょう。総合的には、筆者は今のところ留学して本当に良かったと考えています。というか、もともと行きたい気持ちを抱えていたので、もし行けていなかったら絶対後悔していました。留学は行くリスクもありますがいろいろな意味でその後の可能性が拡がると思うので、キャリアによっては留学しないことがリスクにもなり得る、という考え方もあるかもしれません。
英語のコミュニケーション
これが留学に二の足を踏む原因となる人も多いと思います。筆者も英語はかなりネックでした。しかし、サイエンスの場では(少なくとも自分の周りでは)英語を母国語とする人は半分くらいなので、サイエンスの公用語はブロークンイングリッシュです。わからなければわかるまで聞き返せばいいや、と割り切れるようになってからはだいぶ楽になりました。特にサイエンスの議論では、相手もこっちのいうことをわかろうと一生懸命聞いてくれる場合が多いので思ったより大丈夫でした。伝えようという意思を持って誠意をもって喋れば、最終的には伝わります。
とはいえ特に初めはしんどい思いをする場面も多かったです。しかし、ある時期から壁を越えてコミュニケーションの自由度が上がってきて、割とストレスなく議論ができるようになってくると、一気に楽しくなってきました。
最後に
考え方は人それぞれなのでなるべく公平な目線で記事を書こうとしたのですが、振り返ってみると結構留学を薦める論調の記事になってしまいました。ただ、はじめの方に書いた通り、選択肢として意識してみるだけならノーリスクです。トップ画像の背景は筆者がニューヨークへはじめて飛び立った道中に窓から撮った写真なのですが、当時のドキドキ感、ワクワク感は筆舌に尽くしがたい感情で、一生忘れないと思います。この記事が、海外留学に関してちょっとでも興味を持つきっかけになってくれていたら幸いです。
関連リンク
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