そろそろ100回目が近づいてきました。第97回のスポットライトリサーチ。今回は首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻 有機化学研究室(野村 琴広研究室)の國澤 実希子さんの研究にフォーカスしました。
國澤さんが所属する野村研究室は、環境調和型の精密有機合成を可能にする触媒の開発、およびこの触媒を活用した有機高機能材料の創製を行っています。これまでに、ハーフメタロセン触媒などの新規金属触媒の設計・合成や、この触媒を用いた精密な高分子合成を達成されています。他にも、光をエネルギー源とする触媒の開発や、反芳香族化合物の有機半導体への応用などの様々な研究がされています。
今回紹介する研究成果は、同研究室が開発した、電導性ポリマーを精密に合成する手法です。既にプレスリリースとして発表されていましたので、研究の詳細について取材させていただきました。また、本成果はACIE誌のハイライト論文として取り上げられています!
Synthesis of Poly(arylene vinylene)s with Different End Groups by Combining Acyclic Diene Metathesis Polymerization with Wittig-type Couplings
T. Miyashita†, M. Kunisawa†, S. Sueki, K. Nomura (†equally contributed)
Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 5288. DOI: 10.1002/anie.201700466
国澤さんと、共筆頭著者の宮下さんについて、野村先生から次のようなコメントをいただきました。
今回の論文の共著者である宮下君と國澤さんは“しっかりと信頼性の高い結果”を積み重ねることができる学生さん達です。宮下君はたくさんの実験に取り組み、卒業研究から修士までの3年間で3報の論文に相当する成果を生み出し、今回の成果のきっかけを掴んでくれた学生さんです。しっかりとした性格で皆さんから信頼も高く、企業で活躍してくれるものと期待しています。國澤さんは修士課程に入学してすぐにたくさんの実験に取り組み、着々と成果を積み重ね、秋には国際会議の発表にまで至った優秀な学生さんです。とても明朗活発なご性格で、昨秋の台湾での国際会議の際には留学生も含めた観光・グルメスポットへのツアーを企画・実行するなど、日常生活でもグループにとても貴重な存在です。これからますます活躍してくれることを期待しています。
それでは、ご覧ください!
Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
今回私たちは、分子エレクトロニクスへの応用が期待されるπ共役ポリマーの両末端に異なる官能基を導入することに成功しました。
共役ポリマーの特性は、ポリマーの主鎖の種類や長さだけでなく、末端の影響を受けることが知られています。高機能の発現には、構造欠陥や不純物の少ない材料の合成が必要で、末端の均質化(特定の官能基を導入)も重要となります。
私は、オレフィンメタセシス重合と続くアルデヒドとの反応によって、これまでに例の無い、両末端に異なる官能基を定量的に導入する手法を確立しました。これにより、ポリマーの特性と末端基との関係を詳細に解明できるだけでなく、他の材料との接合によって、より緻密な材料設計が可能になると期待されています。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
実は、本テーマは研究過程でのある発見から始まりました。当研究室では従来、Ru触媒を用いた共役ポリマーの非環式ジエンメタセシス重合、続くMo触媒を用いた末端官能基化を報告していました。しかしこの手法は、過剰量のSchrock型のMo触媒が必要となることが欠点で、前任者の宮下先輩は、one-potでの触媒的な官能基化ポリマーの合成手法の開発に取り組んでいました。この過程で、最初からMo触媒で重合をする場合は、ポリマーの片末端のみが綺麗に官能基化されている事に気が付きました。
ここから私がテーマを引き継いだのですが、最初は触媒の取り扱いが難しく、再現性をうまく取ることが出来ませんでした。なので、とにかく丁寧に実験を行うことを心がけました。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
やはり、研究過程での偶然の発見を論理的に証明することは、想像以上に難しかったです。
私は、合成したπ共役ポリマーの末端にポリエチレングリコールを結合させる反応、リビングラジカル重合などで異なる高分子を組み合わせたトリブロックコポリマーの合成、さらに異なる光特性を持つ末端官能基の導入と発光スペクトルの測定など、少しでも証拠になりそうなデータをひたすら集めました。
これだけ沢山のデータを揃えたにもかかわらず、初めに論文投稿したときは、そんなはずはないと却下されてしまい、とても悔しかったです。しかしその分、データを追加して投稿した今回の論文が出ると聞いた時の嬉しさは格別でした。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
高校の時から有機化学は好きだったのですが、今回の経験から「これからも有機化学と付き合っていきたい!」という思いがさらに強まりました。
将来、化学を仕事にしたら、嫌なことに出会う場面もきっとあると思います。そんな中でも、今感じている、有機化学が好きという気持ち、有機化学を通じて世の中を驚かせたいという思いはずっと忘れずにいたいです。
また、有機エレクトロニクスは、まだまだ発展していく研究分野なので、大学院を卒業しても、何らかの形でこの研究分野に貢献していきたいです。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
自身にとって初めての論文をハイライトで取りあげていただけたことや、プレスリリースも出来たことが、とても嬉しいです。
この成果は、私1人だけの力では成し遂げる事はできませんでした。研究のサポートをしてくれた有機化学研究室のメンバーの協力は勿論のこと、研究に集中できる環境を作ってくれた家族、有機化学の楽しさを教えてくれた、前大学の研究室の方々、全ての皆様のお陰だと思っています。これからも感謝の気持ちを忘れず、次の研究テーマにも全力で取り組んでいきたいと思います。
この場をお借りして、本研究に関して多くのご指導と触媒を合成して下さった野村先生、研究現場で親身に相談に乗って下さった末木先生・宮下先輩に、感謝申し上げます。
関連リンク
- 高機能な導電性ポリマーの精密合成法の開発~有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待~(プレスリリース)
- 首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻 有機化学研究室(野村 琴広研究室)
研究者のご略歴
名前:國澤 実希子
所属:首都大学東京大学院 理工学研究科 分子物質化学専攻 有機化学研究室 博士前期課程2年
研究テーマ: メタセシス重合による末端官能基化共役ポリマーの精密合成手法の開発
略歴 : 1993年神奈川県相模原市生まれ。2016年東京農業大学応用生物科学部醸造科学化を卒業後、同年首都大学東京大学院理工学研究科分子物質化学専攻(有機化学研究室)に入学。