第78回のスポットライトリサーチは、大阪大学南方研究室の大学院生博士後期課程の岡崎真人さんにお願いしました。
岡崎さんの所属する南方研究室では“ものづくり”の基礎研究に主眼をおき、シンプル(入手容易)な原料から使える物質(分子)の新しい合成方法の開拓を目的とし、効率性、選択性、およびグリーン性を備えた方法論を重視して研究しています。有機合成に有用なビルディングブロック、機能材料を指向したフラーレンの誘導体、および天然物に導ける骨格などの幅広いターゲットに対して、自研究室の方法論を駆使して合成にチャレンジしています。関係ないですが、個人的にはトップページの南方先生の顔を模したロゴマーク?が好きです。
さて、今回紹介する研究は、以前合成を報告してたジベンゾ[a,j]フェナジンという化合物を応用展開した日・英・ポーランドの国際的な共同研究。本研究はChemical Science誌に掲載され、大阪大学よりプレスリリースをされたため、本スポットライトリサーチでのインタビューに至りました。
主宰教授である南方先生は岡崎さんに対し、このようにコメントされています。
岡崎君は、学部4年次から私の研究室に配属され、ヨウ素酸化剤を用いることにより、ビナフチルジアミンの新奇な骨格転位ともなったジベンゾフェナジンの新しい合成法を見出してくれました。
これは武田准教授との協働による非常に興味深い結果であり、この化合物を電子アクセプターユニットとして、その特性を活かした誘導体を緻密に設計し、MCLやTADF特性を有する物質群の合成を実現してくれました。これは彼のたゆまぬ努力と化学への深い洞察力の賜物です。
これらの成果が認められ、この3月に博士学位を取得する見込みで、その後、社会での研究活動に大いに期待できる人材であります。
それでは今回プレスリリースした研究についてインタビューさせていただいたので、ぜひご覧ください。
Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?
我々のグループはこれまでに、独自に開発したジベンゾフェナジン[1]を電子アクセプター、平面性が高く剛直なフェノキサジンを電子ドナー部位に用いた分子が、新機構を経る熱活性化遅延蛍光 (TADF) を示すことを明らかにしています[2,3]。
本研究では、二種類の配座異性体を形成できるフェノチアジンを電子ドナー部位として導入することによって、TADF特性を損なうことなく、「すり潰す」「加熱する」「溶媒蒸気に晒す」などの外部刺激に応答して発光色が三色に変化する発光メカノクロミズム (MCL) [4]特性を発現させることに成功しました[5,6]。
このMCLの発現は、導入した二つの電子ドナー部位に誘起される相互変換可能な複数の配座異性体の形成が鍵になっています。三色以上のMCLを示すTADF材料はこの分子が初めての例であり、センシング材料や多機能性発光デバイスへの応用が期待できます。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
内容の全てにわたってという感じですが、MCL特性の発現機構を解明するための実験には思い入れがあります。
MCL特性は初めから狙っていたわけではなく、TADF材料を合成していた際に偶然見つかったものです。DFT計算と既知の文献から、フェノチアジンの配座の変化がMCLの発現に関わっているということは初期の段階で予想できましたが、実験で証明するためには長い時間を要しました。仮説を立証するために、違う電子ドナー部位を有する誘導体を合成し、種々のスペクトルを測定・比較することによって、他の可能性を一つずつ潰していきました。MCLに関しては初めて勉強することが多く、測定法の原理や操作を理解することは大変でしたが、結果的に多くのことを学ぶことができたので良かったと思います。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
再現性良く同じ状態の結晶を得ることが難しかったです。
今回合成した分子は、再結晶の条件によって結晶の並び方および分子の配座が変化し、発光色が変化します。
例えば、ヘキサン/クロロホルム (3:1) の二層系では黄色発光を示す結晶、塩化メチレンのみで自然蒸発させると橙色発光を示す結晶が得られます。溶媒の種類、溶媒の比、温度、二層系にするかどうかなどの様々な条件を検討した結果、なんとか再現性の高い条件に辿り着くことができました。化合物を精製する際によく利用される再結晶法ですが、非常に奥が深いと感じました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
4月から化学メーカーで働く予定ですが、新しいモノを創る楽しさをいつまでも忘れないようにしたいです。
私が大学で化学を勉強しようと思ったきっかけは高校の化学の授業です。担当の先生の話が上手だったというのもありますが、有機化学の原子を並べ替えるだけで新しいモノが創れるという点にとても魅力を感じました。研究室に配属されて運良くそのような研究をさせて頂いていますが、やはり新しい化合物を合成した時はすごくワクワクします。今後は、有機合成をベースに他の分野に関しても知識を広げ、世の中の役に立つ製品を創りたいと思っています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回紹介した研究は「化学」と「物理」を融合したテーマですので、多くの人の協力のおかげで完成しました。本研究を通じて、人との繋がりは研究を遂行する上で非常に重要であるということを実感しました。
本研究を進めるにあたり、終始温かい激励とご指導を頂いた南方聖司教授、武田洋平准教授に心より感謝申し上げます。また、共同研究でご協力頂きました共著の先生方、測定の際にお世話になりました大阪大学の先生方にこの場を借りてお礼申し上げます。
そして、研究室生活において、いつも温かく接して頂いている南方研究室のスタッフ、学生の皆様には心より感謝しております。ありがとうございました。
参考文献
- Takeda, M. Okazaki, S. Minakata, Chem. Commun. 2014, 50, 10291–10294. DOI:10.1039/C4CC04911J
- Data, P. Pander, M. Okazaki, Y. Takeda, S. Minakata, A. P. Monkman, Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 5739–5744. DOI:10.1002/anie.201600113
- 平成28年4月7日 大阪大学 Press Release「〜従来の3倍の効率を達成!軽量・柔軟・高コントラストな照明に光〜新しい熱活性化遅延蛍光 材料の開発に初めて成功」
- Sagara, S. Yamane, M. Mitani, C. Weder, T. Kato, Adv. Mater. 2016, 28, 1073–1095. DOI:10.1002/adma.201502589
- Okazaki, Y. Takeda, P. Data, P. Pander, H. Higginbotham, A. P. Monkman, S. Minakata, Chem. Sci. DOI:10.1039/C6SC04863C
- 平成29年1月13日 大阪大学 Press Release「こすったり、加熱すると発光色が3色に変化する 熱活性化遅延蛍光材料の開発に初めて成功!」
研究者の略歴
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 南方研究室 博士後期課程3年
研究テーマ「ビナフタレンジアミンの酸化的変換による含窒素多環芳香族化合物の合成および機能性発光分子への応用」
【略歴】
1990年香川県観音寺市生まれ
2012年3月大阪大学工学部応用自然科学科応用化学コース卒業
2012年4月大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士前期課程入学
2014年3月大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士前期課程修了
2014年4月大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士後期課程進学
第43回複素環化学討論会最優秀講演賞、第4回CSJ化学フェスタ2014優秀ポスター発表賞