[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

最近の有機化学論文2

[スポンサーリンク]

前回に引き続き、注目の有機化学に関する論文を紹介いたします。

【有機反応】δ位選択的なsp3C–H結合の炭素結合形成反応

Site-Selective Alkenylation of δ-C(sp3)‒H Bonds with Alkynes via a Six-Membered Palladacycle

Xu, J.-W.; Zhang, Z.-Z.; Rao, W.-H.; Shi, B.-F. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 10750–10753. DOI: 10.1021/jacs.6b05978

化合物の位置選択的な官能基化は、今日の有機合成化学において最も重要な反応の一つである。その中でも配向基(directing group)を用いた位置選択的なC‒H 官能基化が注目されている。特に、アミン類の位置選択的C‒H 官能基化は医農薬品や生理活性物質の合成において強力な合成手法になるため近年盛んに研究されている。

本論で浙江大学のBing-Feng Shi教授らは、パラジウム触媒によるピコリルアミド保護されたアミンのデルタ位選択的なC‒H アルケニル化を報告した。従来の遷移金属触媒を用いたC‒H 官能基化では、配向基に対してガンマ位のC‒H が選択的に官能基化されやすい。これは、中間体である五員環メタラサイクルの生成が速度論的に好ましいためである。

それに対して、本触媒系は官能基化されやすいガンマ位のC‒H が共存する中で、デルタ位を選択的にアルケニル化できるという特徴をもつ。この手法を用いて、生理活性天然物中によく見られるキラルなピペリジンの合成にも成功した。

関連論文

  1. Liu, B.; Zhou, T.; Li, B.; Xu, S.; Song, H.; Wang, B. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 4191. DOI: 10.1002/anie.201310711
  2. Li, M.; Yang, Y.; Zhou, D.; Wan, D.; You, J. Org. Lett. 2015, 17, 2546‒2549. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b01128
  3. Maity, S.; Agasti, S.; Earsad, A. M.; Hazra, A.; Maiti, D. Chem. Eur. J. 2015, 21, 11320‒11324. DOI: 10.1002/chem.201501962

【有機反応・有機合成】多環性芳香族化合物の新しい合成法

“Combining Traceless Directing Groups with Hybridization Control of Radical Reactivity: From Skipped Enynes to Defect-Free Hexagonal Frameworks”

Pati, K.; Passos Gomes, dos, G.; Alabugin, I. V. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 11633–11637. DOI: 10.1002/anie.201605799

オリゴアルキンを用いた連続ラジカル環化反応は原子効率に優れ、天然物や多環芳香族化合物を効率的に合成できる可能性を秘めている。

2008 年にフロリダ州立大学のAlabugin教授らは、水素化トリブチルスズとラジカル開始剤であるAIBN(アゾイソブチロニトリル)を用いた連続ラジカル環化により初めて3 つの環構造(5 員環2 つ、6 員環1 つ)を一挙に構築することに成功した[1]。2012 年には4 つの環構造(5 員環2 つ、6 員環2 つ)の構築にも成功している[2]。

また2015年に彼らは、反応後に脱離する配向基としてメトキシもしくはヒドロキシ基を導入し、効率的に連続ラジカル環化を行った。結果、芳香環である6 員環を初めて3 つ構築することに成功したが、依然として5 員環形成は避けられなかった[3]。

本論文で、Alabugin らは以前から彼らの反応において問題となっていた終端の5 員環形成を抑制し、6 員環のみの構築に留めることに成功した。彼らはアルキルラジカルの反応性がビニルラジカルに比べて低いことを計算化学により想定した。実際に末端にアルキルラジカルが発生しうる10 以上の基質を用いて反応を行ったところ、5 員環は形成されず、6 員環のみが構築された。また生成物に対してメタンスルホン酸を作用させることで、末端のエステル基部位で新たに6 員環が形成されることがわかった。

彼らが開発した手法は6 員環のみの構築が可能であり、基質範囲が限定的であるもののヘリセン構造を効率よく生み出すことが可能である。この手法を用いて新たな多環芳香族化合物が合成されることを期待したい。

関連論文

  1. Alabugin, I. V.; Gilmore, K.; Patil, S.; Manoharan, M.; Kovalenko, S. V.; Clark, R. J.; Ghiviriga, I. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 11535. DOI: 10.1021/ja8038213
  2. Byers, P. M.; Alabugin, I. V. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 9609. DOI: 10.1021/ja3023626
  3. Pati, K.; Gomes, G. P.; Harris, T.; Hughes, A.; Phan, H.; Banerje, T.; Hanson, K.; Alabugin, I. V. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 1165. DOI:10.1021/ja510563d
Avatar photo

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 日本精化ってどんな会社?
  2. ライバルのラボで大発見!そのときあなたはどうする?
  3. GRE Chemistry 受験報告 –試験対策編–
  4. 株式会社ナード研究所ってどんな会社?
  5. DOIって何?
  6. 非対称化合成戦略:レセルピン合成
  7. 創薬におけるモダリティの意味と具体例
  8. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に

注目情報

ピックアップ記事

  1. アステラス病態代謝研究会 2019年度助成募集
  2. アミンの新合成法2
  3. パラジウム光触媒が促進するHAT過程:アルコールの脱水素反応への展開
  4. バートン・ザード ピロール合成 Barton-Zard Pyrrole Synthesis
  5. 2013年ケムステ人気記事ランキング
  6. 2012年分子生物学会/生化学会 ケムステキャンペーン
  7. Chem-Station開設5周年へ
  8. Merck 新しい不眠症治療薬承認申請へ
  9. フィンランド理科教科書 化学編
  10. 全フッ素化カーボンナノリングの合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー