フラストレイティドルイスペア(FLP)を用いた”不活性”カルボニル化合物の直接α-アミノ化反応が開発された。アミドやエステルなどでも反応が進行し、不斉反応にも展開できる。
カルボニル化合物の立体選択的直接α-アミノ化反応
α-アミノカルボニル化合物はアミノ酸の構成要素であり、生物活性物質に頻繁にみられる。キラルなα-アミノカルボニル化合物の合成は、(キラルな)カルボニル化合物を求核的なエノラート等価体へ導き、(不斉触媒存在下)求電子アミノ化剤を作用させるのが常法である。しかし、エノラート等価体の生成には化学量論量の「塩基」もしく「酸」を必要とする。
近年、エノラート形成とアミノ化剤の活性化を同時に促進し、エノラート等価体に導くことなく直接的に不斉α-アミノ化反応を進行させる酸/塩基協働触媒(e.g., 遷移金属触媒[1]、有機触媒[2])が数多く報告されている (図1A)。よくデザインされた触媒ではあるものの、触媒に酸性部位と塩基性部位を併せ持つため、自身の酸塩基反応による”相殺”条件下で働く基質しか用いることができず、反応の適用範囲が限られる。例えば、既存の不斉α-アミノ化反応はカルボニル化合物として、カルボニルのα位に電子求引性官能基をもつもの、エノール化しやすい基質に制限されている。
今回、ボストンカレッジのWasa助教授らは、嵩高く互い反応しあうことのないルイス酸/塩基対(フラストレイティドルイスペア:FLP)を触媒に用いることで、広範なカルボニル化合物のα-アミノ化反応の開発に成功したため紹介する(図1B)。さらに、塩基にキラルなアミンを用いることでエナンチオ選択的なα-アミノ化反応も実現した。
“Frustrated Lewis Acid/Brønsted Base Catalysts for Direct Enantioselective α‑Amination of Carbonyl Compounds”
Shang, M.; Wang, X.; Koo, S. M.; Youn, J.; Chan, J. Z.; Yao, W.; Hastings, B. T.; Wasa, M. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 95.DOI: 10.1021/jacs.6b11908
論文著者の紹介
研究者:和佐雅幸 Wasa Masayuki
研究者の経歴:
2009 B.S. Brandeis University, USA
2013 Ph.D, The Scripps Research Institute, USA (Prof. Jin-Quan Yu)
2013-2015 JSPS Postdoctoral Fellow, Harvard University, USA (Prof. Eric N. Jacobsen)
2015- Assistant Prof. Boston College, USA
研究内容:FLPを用いたC–C, C–ヘテロ原子結合生成反応の開発
論文の概要
著者らは最近、強いルイス酸B(C6F5)3と嵩高い塩基1,2,2,6,6,-ペンタメチルピペリジン(PMP)を用いたカルボニル化合物とイミンの直接マンニッヒ反応を報告している[3)。今回の報告はそのイミンを、求電子アミノ化剤であるジアルキルアゾカルボキシレート2に置き換えた関連研究である。
反応は図1Bの想定機構に基づいて最適化されている。つまり、
- 孤立した強いルイス酸のカルボニル化合物1への配位がカルボニル化合物のα位C–H結合の酸性度をより向上させる
- 嵩高い塩基により脱プロトン化が進行し、ホウ素エノラートとアンモニウムカチオンのイオン対が生成
- アンモニウムカチオンのH+がブレンステッド酸として働きアミノ化剤2を活性化
- アミノ化剤2がエノラートと反応し目的のα-アミノカルボニル化合物3を与える、という機構である。
酸としてB(C6F5)3を、塩基に嵩高いPMPやN-メチルモルホリン、バートン塩基を用い、これらが孤立した酸/塩基触媒として作用することで、ケトンのみならず、”不活性”カルボニル化合物(エステル、アミド、チオエステル、チオアミド)の直接α-アミノ化に成功した(図2A)。
さらに、不斉α-アミノ化反応にも挑戦し、キラルな1,2-ジアミン4を塩基の触媒に用いることで、エナンチオ選択的なα-アミノ化も達成した(図2B)。4のアンモニウムイオン部位と電子求引基をもつN–H部位が3と水素結合し、構造が固定された反応中間体を形成するため立体選択的反応が進行したと推定している。
例えば、本反応によりキラルなα-アミノケトン3bが収率78%, 93:7のエナンチオ選択性で得られる(絶対立体配置はR体と決定)。
しかし、残念ながらエナンチオ選択的なα-アミノ化反応に関しては、ケトンのみしか適用できず、”不活性”なカルボニル化合物には適用できない。塩基性の強いグアニジン誘導体などをキラル塩基に用いた改良法が待たれる。
カルボニル化合物と求電子剤を用いた反応は多岐に渡るため、このFLP触媒によりそれらの反応に広範囲なカルボニル化合物が適用可能になることを期待したい。
参考文献
- Hasegawa, Y.; Watanabe, M.; G. I. D.; Ikariya, T. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 2158. DOI: 10.1021/ja710273s
- (a) Bøgevig, A.; Juhl, K.; Kumaragurubaran, N.; Zhuang, W.; Jørgensen, K. A. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 1790. DOI: 10.1002/1521-3773(20020517)41:10<1790::AID-ANIE1790>3.0.CO;2-Y (b) Saaby, S.; Bella, M.; Jørgensen, K. A. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8120. DOI: 10.1021/ja047704j (c) Yang, X.; Toste, F. D. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 3205. DOI: 10.1021/jacs.5b00229
- Chan, J. Z.; Yao, W.; Hastings, B. T.; Lok, C. K.; Wasa, M. Angew Chem., Int. Ed. 2016, 55, 13877. DOI: 10.1002/anie.201608583