[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

無金属、温和な条件下で多置換ピリジンを構築する

[スポンサーリンク]

活性アルキンと、アルキンとニトリルの鎖状化合物から、形式的な[2+2+2]付加環化により位置選択的に多置換ピリジンを合成した。ブレンステッド酸を加えることで、金属触媒を用いず、0 ℃から室温で反応が進行する。

多置換ピリジン骨格の構築法

ピリジン骨格は、天然物・医薬合成の両面で中心的な役割をもつことが多い。それゆえ、高度に置換されたピリジンの簡便な合成手法は多方面に大きな恩恵を与える。多置換ピリジン合成法として、1881年にHantzschが報告した、縮合反応(Hantzschピリジン合成)に端を発し(図1A)(1)、今回紹介する[2+2+2]付加環化様の反応が代表的な方法のひとつとして知られている。形式的な[2+2+2]付加環化によるピリジン合成は、容易に入手可能な二つのアルキン部位と一つのニトリルが反応するという、先の縮合反応に比べて原子効率的であり、端的に言えばわかりやすい手法である。しかしながら、三つの結合部位をまとめるには、エネルギー的に大きな不利があった。この問題は金属触媒を用いることにより解決されたが、依然として化学選択性・位置選択性に課題が残されている(図1B)(2)。一方で、金属を用いない形式的[2+2+2]付加環化によりピリジン骨格を構築する方法も報告された。Danheiserはニトリルとアルキンをすべて鎖状につないで反応させることで、分子内反応、高温ではあるものの、金属を用いず位置選択的に多置換ピリジンの合成を行った(図1C)(3)

今回、ウィーン大学のMaulide教授らは、活性アルキン1と、アルキン部位とニトリルを有する鎖状化合物2から、高度に置換されたピリジンを構築する反応を見出したため紹介する(図1D)。反応の進行に必要な添加剤はブレンステッド酸のみであり、0 ℃­­­から室温で反応が進行する点、分子間反応でも置換基を位置選択的に導入できる点がアピールポイントである。

2016-11-03_11-13-47

図1. 様々な多置換ピリジンの合成手法

“Metal-Free Synthesis of Highly Substituted Pyridines by Formal [2+2+2] Cycloaddition under Mild Conditions”

Xie, L.-G.; Shaaban, S.; Chen, X.; Maulide, N. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 12864. DOI: 10.1002/anie.201606604

論文著者の紹介

2016-11-03_11-14-29

研究者:Nuno Maulide
研究者の経歴:
2003 B.S., Instituto Superior Técnico, Portugal
2004 M.S., Ecole Polytechnique, France and Université catholique de Louvain, Belgium
2007 Ph.D., Université catholique de Louvain (Prof. István E. Markó)
2007 Postdoc, Stanford University, USA (Prof. Barry M. Trost)
2009 Max-Planck-Research Group Leader, Max-Planck Institut für Kohlenforschung, Germany
2013- Full Professor, University of Vienna, Austria
研究内容:アミド活性化・シクロブテンの化学・硫黄の化学

論文の概要

Maulide教授らは、金属触媒を用いず、かつ温和な条件下で、活性化されたアルキン1と、アルキン部位とニトリルを有する鎖状化合物2の形式的な[2+2+2]付加環化により、高度に官能基化された五置換ピリジン4を合成した(図2)。電子豊富な1は、化学量論量添加されたブレンステッド酸によりプロトン化され、安定なケテニミニウムもしくはケテンチオニウム1’を生成する。これらは2のニトリルによって捕捉され、三つの反応点が鎖状につながった中間体3となり、ここから形式的な[2+2+2]付加環化により五置換ピリジン4を与える。

本反応における1は、イナミドとチオアルキンを用いることができ、アルキル鎖や芳香環を有した場合で反応の進行が確認されている。一方の2としては、フェニル基を有する場合に加えて、ビニル基やシクロプロピル基が置換した場合、鎖状部がエーテルである場合や芳香環を含む場合でも良好な収率で五置換ピリジンが得られる。また、イナミド1はハロゲンを有する2との反応から、対応するハロゲン化ピリジンが生成し、これらは続くカップリング反応により様々な炭素鎖基を導入することができる(図2a)。また、1にチオアルキンを用いた場合、生成物はRaneyニッケルにより容易に脱硫することができる(図2b)。

電子豊富な活性アルキンと添加した酸により強い陽イオン(求電子剤)を生成させ、求核性の弱いニトリルでも捕捉可能とすることで三つの反応点を互いに近づけた(分子内反応とした)。すなわち結果として、温和な条件で反応が進行するように工夫した点が本論文の特筆すべき点である。なお、類似の文献が同時期に報告されているため、こちらも合わせて参照されたい(4)

2016-11-03_11-16-57

図2. 金属触媒を用いず温和な条件で進行する多置換ピリジン合成法 *収率はカップリング反応、脱硫反応における収率である

参考文献

  • Allais, C.; Grassot, -M.; Rodriguez, J.; Constantieux, T. Chem. Rev. 2014114,10829. DOI: 10.1021/cr500099b
  • Varela, J. A.;Saá, C. Chem. Rev. 2003103, 3787. DOI: 10.1021/cr030677f
  • Sakai, T.;Danheiser,R. L. J. Am. Chem. Soc. 2010132, 13203. DOI: 10.1021/ja106901u
  • Wang, Y.; Song, L.-J.; Zhang, X.; Sun, J. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 9704. DOI: 10.1002/anie.201603889
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. タンパク質の定量法―ビシンコニン酸法 Protein Quant…
  2. 内部アルケンのアリル位の選択的官能基化反応
  3. クリック反応の反応機構が覆される
  4. 水素社会~アンモニアボラン~
  5. Cell Pressが化学のジャーナルを出版
  6. ストックホルム国際青年科学セミナー・2018年の参加学生を募集開…
  7. タンパク質の定量法―ブラッドフォード法 Protein Quan…
  8. 株式会社メカノクロス – メカノケミストリーの社会実装に向けた企…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  2. 第31回光学活性化合物シンポジウム
  3. 香料化学 – におい分子が作るかおりの世界
  4. 第13回 化学を楽しみ、創薬に挑み続ける ―Derek Lowe博士
  5. Chemistry Reference Resolverをさらに便利に!
  6. 【サステナブルなものづくり】 マイクロ波の使い方セミナー 〜実験例・実証設備などを公開〜
  7. 檜山クロスカップリング Hiyama Cross Coupling
  8. ルチッカ大員環合成 Ruzicka Large Ring Synthesis
  9. ワッカー酸化 Wacker oxidation
  10. ゴジラ級のエルニーニョに…出会った!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP