拡張Pummerer反応として、 [3,3]-シグマトロピー転位を経由するアリールスルホキシドとフェノール類とのビアリール合成法が報告された。温和な条件、簡便な操作のみ要し、汎用性が高い。
遷移金属触媒を用いないビアリール結合形成反応
ビアリールは生物活性物質や機能性材料の頻出骨格であるため、効率的なビアリール結合形成反応は長年多くの合成化学者の研究対象となっている。
パラジウム触媒を用いたアリール金属とハロゲン化アリールとのクロスカップリングは、最も信頼性のあるビアリール合成法として頻用される。
近年ではより直接的で迅速なビアリール形成を可能にする手法の開発が注目を集めている。その一つに、パラジウム、銅やロジウム触媒を用いて二つの芳香環C–H結合を活性化し直接ビアリールへ変換する、C–H/C–Hクロスカップリングが報告されている1。
これらの金属触媒反応に対して、金属触媒を用いないC–H/C–Hクロスカップリングの研究もされており、主に以下の二例が知られる (図1)。
一つはラジカル機構で進行する反応であり、ヨードソベンゼンビストリフルオロアセタート2aや負極酸化2bを用いることで直接ビアリールカップリングが進行する。
もう一つは、[3,3]-シグマトロピー転位を駆動力とする直接ビアリール合成である。Kürtiらは2013年、ニトロアレーンとアリールGrignard試薬とのBartoliインドール合成型のビアリールカップリングを報告した3a。2016年にはキノンアセタール(Z=(OMe)2)やイミノキノン(Z=NTs)とフェノール類とのビアリール合成法も開発された3b,3c。イミノキノンの反応ではキラルブレンステッド酸触媒を用いることで軸不斉カップリングができる。
今回、京都大学の依光教授らは、硫黄化合物の性質を生かした[3,3]-シグマトロピー転位型の直接ビアリール合成法を開発したので紹介する。
“Metal-Free Approach to Biaryls from Phenols and Aryl Sulfoxides by Temporarily Sulfur-Tethered Regioselective C−H/C−H Coupling”
Yanagi, T.; Otsuka, S.; Kasuga, Y.; Fujimoto, K.; Murakami, K.; Nogi, K.; Yorimitsu, H.; Osuka, A. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 14582. DOI: 10.1021/jacs.6b10278
論文著者の紹介
研究者:依光英樹
研究者の経歴:
–2002 博士(工学), 京都大学大学院工学研究科 (大嶌幸一郎教授)
2002–2003 JSPS博士研究員, 東京大学大学院理学系研究科 (中村栄一教授)
2003–2008 助手, 京都大学大学院工学研究科 (2007より呼称変更のため助教)
2008–2009 准教授, 京都大学大学院工学研究科
2009–2015准教授, 京都大学大学院理学研究科
2015–教授, 京都大学大学院理学研究科
研究内容:反応開発、硫黄を用いた有機化学
論文の概要
依光教授らは硫黄の特性を生かした有機合成を展開している。その一つに、2014年にトリフルオロ酢酸無水物を用いたアルケニルスルホキシドとフェノール類との“拡張Pummerer反応“と名付けたベンゾフラン合成法がある4。
この反応では[3,3]-シグマトロピー転位がC–C結合形成の鍵となっている。本論文では、アリールスルホキシドを用いてAの[3,3]-シグマトロピー転位を進行させ、生じる中間体Bを芳香族化させることでビアリール形成反応へ展開した(図1)。
本反応は、電子豊富なアリールスルホキシドを用いる必要があるが、複素芳香族化合物を含む広範なアリールスルホキシドとフェノール類が高収率でカップリングする。本反応は構築困難な嵩高いオルト四置換ビアリールの合成も苦にせず、さらに大スケール反応も問題なく進行する。嵩高いトリナフタレン体の合成例は驚くべき点である。
反応の応用展開として、オルト位に残るスルフィドとヒドロキシ基との環化反応を用いた高度に縮環した複素芳香族分子の迅速合成が示されている。先ほどのトリナフタレン体からはヘテロヘリセンの合成もでき、レベルの高い合成的応用展開がなされている。
反応条件の温和さ、簡便性と、魅力的な応用展開ができることから、ビアリール合成において本反応が今後用いられる機会は多いのではないだろうか。
参考文献
- Liu, C.; Yuan, J.; Gao, M.; Tang, S.; Li, W.; Shi, R.; Lei, A. Chem. Rev. 2015, 115, 12138. DOI: 10.1021/cr500431s
- (a) Dohi, T.; Ito, M.; Morimoto, K.; Iwata, M.; Kita, Y. Angew. Chem., Int. Ed. 2008, 47, 1301. DOI: 10.1002/anie.200704495 (b) Morofuji, T.; Shimizu, A.; Yoshida, J.-i. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 7259. DOI: 10.1002/anie.201202788
- (a) Gao, H.; Ess, D. H.; Yousufuddin, M.; Kürti, L. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 7086. DOI: 10.1021/ja400897u (b) Gao, H.; Xu, Q.-L.; Keene, C.; Yousufuddin, M.; Ess, D. H.; Kürti, L. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 566. DOI: 10.1002/anie.201508419 (c) Wang, J.-Z.; Zhou, J.; Xu, C.; Sun, H.; Kürti, L.; Xu, Q.-L. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 5202. DOI: 10.1021/jacs.6b01458
- (a) Kobatake, T.; Fujino, D.; Yoshida, S.; Yorimitsu, H.; Oshima, K. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 11838. DOI: 10.1021/ja1030134 (b) Ookubo, Y.; Wakamiya, A.; Yorimitsu, H.; Osuka, A. Chem. Eur. J. 2012, 18, 12690. DOI: 10.1002/chem.201201261 (c) Murakami, K.; Yorimitsu, H.; Osuka, A. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 7510. DOI: 10.1002/anie.201403288