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マイクロ波が生産プロセスにもたらす可能性

1970年代につくられた生産プロセスは、革新がないまま老朽化を向かえ、設備更新の時期が迫っている。そのような状況下で、マイクロ波プロセスは、従来の化学プロセスとは全く異なる機構で反応を促進する極めて高効率な化学プロセスとして、次世代の生産プロセスとして期待されている。

マイクロ波とは、波長約1 mm~1 m(300 MHz~300 GHz)の電界と磁界が直交した電磁波であり、通信、乾燥、電子レンジなど工学分野から我々の身の回りの家電製品まで広く利用されている。マイクロ波加熱は、マイクロ波の振動電磁場との相互作用により誘電体、磁性体を構成する双極子、空間電荷、イオン、スピンなどが激しく振動・回転することによって起こる内部加熱であり、短時間で目的温度に達することが可能である。

マイクロ波の化学は、1986年のTetrahedron Lettersに掲載されたR. GedyeR. J. Giguereによる有機反応から始まった[1]。現在に至るまで、マイクロ波化学は、有機合成、錯体合成、ナノ粒子合成、高分子合成等に適用され、急速-選択加熱、内部均一加熱、非平衡局所加熱の特殊加熱モードによる、反応時間短縮、高収率、選択性向上などの効果が報告されてきた。

30年経った現在、国際学術論文発表数は数千報以上にものぼり、ラボスケールにおいては新規ププロセスとして期待され、マイクロ波効果の制御が可能になれば、革新的な新規反応場を用いた魅力的な化学プロセスと認識されている。しかしながら、未だ、化学プロセスとして大型産業化された報告は無い。

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マイクロ波プロセスを産業展開する場合、乗り越えなければならない障壁がいくつか存在する。

1つめは、最適なマイクロ波反応系の構築。最適な系を設計できない場合は、単なる加熱手段となる可能性が高いからである。

2つめは、マイクロ波リアクターのスケールアップ。電磁波であるマイクロ波の浸透深さ、化学反応下におけるリアクター内の電場解析などの観点から、マイクロ波化学反応装置設計が難しい。

3つめは、マイクロ波プロセスの制御システム構築。

これは、マイクロ波化学プロセスは、新しい概念で実現しているため、通常プロセスの制御とは異なった全く新しい制御方法が必要なためである。これらの障壁を越えて初めて、安全性を確保したプロセスとして産業界にも応用展開可能になると考えられる。

 

マイクロ波反応系構築

単位体積あたりのマイクロ波による熱変換エネルギー(W/m3)は,以下の式で表される。

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それぞれは導電損失,誘電損失,磁性損失と呼ばれ,導電体,誘電体,磁性体がマイクロ波と相互作用した損失を示す。一般的な加熱では,水やアルコールに代表されるように誘電損失を用いるケースが多い。誘電損失は,マイクロ波の電界強度の平方,誘電体の複素誘電率の虚部(誘電損失係数),周波数に比例し,その誘電損失係数は温度依存性,周波数依存性を強く示す。

よって、マイクロ波に適した反応系を構築するためには、反応基質、溶媒、触媒の複素誘電率、複素透磁率の温度依存性、周波数依存性を測定することが重要で、そこではじめて何に、どのような周波数を照射するのが最適かを設計することが可能になる。

反応系構築後のラボ実験においては、フラスコ、攪拌羽根、温度計などの実験器具の材質のマイクロ波吸収能を把握しておくことも重要である。特にマイクロ波吸収能が小さい系の場合は、ガラス容器や熱電対などがマイクロ波を吸収してしまう可能性がある。

 

 

次回は、「マイクロ波装置のスケールアップ」「各アプリケーションへの展開」について言及していく。

 

*本記事は大阪大学特任准教授、マイクロ波化学CSO塚原保徳氏からご寄稿頂きました記事に少し改変を加えた寄稿記事です。ケムステではこのような寄稿記事の募集も行っています。

 

塚原保徳 Yasunori Tsukahara

img_profile_02大阪大学大学院工学研究科特任准教授/マイクロ波化学株式会社 共同創業者 取締役CSO

2003年大阪大学大学院理学研究科博士後期課程修了、2004年大阪大学大学院工学研究科・特任研究員、2006年大阪大学大学院工学研究科特任准教授。専門はマイクロ波化学、無機化学、光化学。2007年マイクロ波化学プロセスの事業化を目的にマイクロ波化学の前身となるマイクロ波環境化学株式会社を設立。現在、国内外の化学メーカーとの共同開発や合弁事業を多数手掛ける。生産効率を上げるだけではなく、物性の向上が実現できるため、次世代製品の材料開発に必要な技術としてさまざまな業界から期待されている。

 

関連文献

  • Gedye, R.; Smith, F.; Westaway, K.; Ali, H.; Baldisera, L.; Laberge, L.; Rousell, J.Tetrahedron Lett. 1986, 27, 279. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)83996-9

関連リンク

 

関連書籍

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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