久々に実験関係の製品の紹介です。
金属スカベンジャー(捕捉剤)ってご存知でしょうか。あまり大学では使わないかもしれませんが、化合物に含まれる残存金属を捕捉して除去してくれるものです。例えば、遷移金属触媒反応は化合物を合成する際にとっても有効な手法ですが、合成した化合物の残留金属が気になるところです。通常の精製方法ではppmオーダー以下までは除くことが困難な場合で、化合物の生物活性試験を行ったり、正確な化合物の物性を測定するときなどの障害となります。これは稀な話ですが、新反応開発の際に、原料に微量に含まれていた残留パラジウム金属が実は次の反応の触媒だったなんてこともあります。
そんなときに活躍するのが金属スカベンジャー。それら残留金属を医薬品でいえばFDA認可レベルまで取り除いてくれます。偶然にも金属スカベンジャーを使う機会がありましたので、スカベンジャーの種類とともに紹介したいと思います。
バイオタージが金属スカベンジャー?
入手したのは、バイオタージの金属スカベンジャーツールキット。トップの図にあるものです。バイオタージといえば、マイクロ波合成装置のInitiatorや中圧自動生成装置のIsoleraが有名な理化学機器のイメージでしたが、試薬のようなものも売ってるんですね。このスカベンジャーキットは適切なスカベンジャーを選択するスクリーニングキットで、異なる成分のスカベンジャーのセットとなっています。それでも結構良いお値段するんですよね。金属に対して0.5当量から1当量もいれる必要があります(訂正:はじめは化合物だと思っていましたが、殆どが金属に対してでした。)。残留金属が少ないと考えればほんの少しでよいですが、やっぱり多めに入れちゃう感じです。触媒量でどうにかなればいいのに。ただし、細胞レベルの生物活性試験に使う程度の量(数mg以下)ならばどんなに多めにいれても数mgいれれば十二分です。
キット内容はこちら。
MP-TMT 3 g
SCX-2 3 g
Si-TMT 3 g
Si-TMT 500 mg/6 mL カートリッジ5本
Si-Thiol 10 g
Si-Trisamine 10 g
記号ばっかりで全くわからないですよね。まあ、使用者側からいったらなにも考えずに使ってみて、ICPなどで残留金属が減っているか確認すればいいと思うのですが、折角なんで少しだけ機能を紹介したいと思います。
金属スカベンジャーの種類
化学的には、樹脂に担持されたスカベンジャー部位が金属配位性の高い構造をしていて、金属に配位して金属を化合物から引っぺがすという単純な機構です。
MP-TMT(Macroporous polystylene-2,4,6-trimercaptotriazine):2,4,6- trimercaptotriazineのチオールと窒素原子が金属に架橋しながら配位する性質をつかったもの。パラジウム触媒を用いたカップリング反応のなどの後処理に有効。
Si-TMT:TMTのシリカ担持品。
Si-Thiol:これは名前のとおりチオール基が先端についたもの。Pd、Pt、Cu、Hg、Ag、Pbなどの金属以外にもチオールと反応するものならばなんでも除去できる
Si-Trisamine:Trisamineのシリカ担持品。アミノ基が3つ配位して金属を取り除く。もちろんアミンと反応する酸クロリド、塩化スルフォニルまたは無水物なども取り除ける。
このようにそれぞれ、構造や一般的な用途が異なるものの、実際はやってみないとわからないところがあるので、試してみてはいかがでしょうか。リンク先のデータシートにより詳しい物性や反応への応用が記載されています。
使い方は、非常に簡単でした。金属コンタミを疑う化合物に同量程度の金属スカベンジャー(粉状)を混ぜて、濾過するだけ。どのくらい撹拌すればよいかはわからなかったので、とりあえず数時間程度撹拌しました。粉状のものの他に全てのスカベンジャーがカートリッジ状になっているものもあるようです。ちなみに、本当に金属が取り除けたかは微量元素分析を行うか、測定データが変わったことでないとわかりません。実際、試してはみたものの効果の程はいまいちわかりませんでした。試した化合物の生物活性試験を待ちたいと思います(オチが微妙ですみません)。化合物の金属コンタミが気になる人はぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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