原子1個につき1ビットの情報を持たせることのできる記憶デバイスが開発された。
内容はネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」9月号から。最新サイエンスを日本語で読めるNatureダイジェストから、個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。
情報の最小単位が原子に!次世代メモリー誕生
「この原子メモリは1平方インチ辺り502テラバイトという桁外れの面記録密度を持つ。」
「集積回路の実装密度は18カ月ごとに2倍になる」という有名なムーアの法則が、あと数年で崩れるというニュースがあったばかり(関連記事:2021年、ムーアの法則が崩れる?)そのような背景のもと、機能の最小単位である分子を飛び越えて、原子でメモリをつくってやろうと試み、成功したのがデルフト工科大学の物理学者Sander Otte准教授。
塩素原子1個と空孔1つを「1ビットの情報」とすることで8000以上の原子ビットからなる約1キロバイトのメモリーを作り上げたのです[1]。簡単に紹介する動画が同准教授の研究室ウェブサイトに公開されていました。
そのデータ容量の効率は現存のハードディスクの3桁を超えるといいます。本記事では今回の研究を簡単に紹介し、今後の課題について述べています。量産化できないことや超低温に保たねばならないことなど、まだまだ問題は山積みですが、困難なテーマを乗り越えていくことから生まれるものが新しいサイエンスです。半導体でもついこの前まで、現状の大きさにできるなんて、不可能だ!と考えられていたことを忘れてはいけません。
鏡像型DNAを複製できる酵素、登場!
左巻きのDNAを複製することができるポリメラーゼが作製された。鏡像生化学への一歩となる。
我々のDNAは右巻きのらせん構造である。構成されるアミノ酸が単一の鏡像体から成り立っているからです。なぜアミノ酸が単一の鏡像体かというと、生命の起源の研究に結びついてしまいますが、今回は、その話でなく、「鏡像体(左巻きの)DNAが複製できた。」という話。鏡像体DNAの合成は既に数十年前に達成されていましたが、難しかったのは複製プロセスを取り仕切る「DNAポリメラーゼ」の鏡像体の複製2。
記事は、その解決方法と研究者へのインタビューで成り立っています。最終目標は鏡像型の細胞を作成すること。それには大きな課題がありますが、わかりやすい夢がある研究だと思います。
arXivがリニューアルを計画
プレプリントサーバのarXivがリニューアルを計画しているが、利用者たちは現状に満足しており、大幅な変更を警戒感をもっている。
化学系ではプレプリントサーバ「ChemRXiv」の設立が決まったばかりなのでピンとこないかもしれません。一方で、化学分野以外の科学では必須の”ツール”としてもっとも有名なものがarXiv(アーカイブ)。実際アクセスした人はわかると思いますが、そのページはお世辞にも最新論文の卵が掲載されているとは思えない外観です。
このリニューアルが近々検討されているというのが本記事の内容ですが、どうやら使用者はそんなに前向きではないとのこと。理由はいろいろな支援を受けることで、arXivの中立性が保てなくなる可能性があるから。
うまい落としどころがみつかるとよいですね。
その他
それ以外にも多くの最新科学記事が紹介されています。今月号の特集は、「iPS細胞の10年」として、山中因子の発見から10年の研究を紹介しています。iPS細胞関連の研究を俯瞰して改めて振り返ることができ、オススメです。
超有名科学者を毎回紹介している「私とNature」コーナーは、大阪大学の長田重一教授。細胞の自殺として知られているアポトーシス研究の第一人者です。このコーナーは過去も含めて無料公開されているので、見逃した方はぜひ御覧ください。
Natureダイジェスト紹介1周年
さて、まとめをみると、昨年の10月号から紹介し始めたので、おかげさまで本シリーズもついに1年を迎えました。
化学のコアな話もとってもよいですが、トップクラスのサイエンスは格段に面白く、こんなことができるようになったのか!という驚きとともに、まだまだ大量に残されている科学の課題も垣間見ることができます。出来る限り読み続けたいですね。
ちなみに、個人アカウントは公費払いは難しいようですが、研究室単位で読みたい場合、公費での支払いが可能みたいです。個人アカウントはオンラインのみですが、研究室で申しこめば、プリントされた雑誌として毎月届きます。
と、その情報を探していたら、ちょうど「Natureダイジェスト研究室購読キャンペーン」をやっているようです。どうやら、申し込みをすれば、9月号を無料でいただけるとのこと。期間は9月1日から10月24日まで。詳細はこちら。
月刊化学や現代化学などの化学系月刊誌とともに、研究の合間にみなさんで読む雑誌として検討してみてはいかがでしょうか。
関連論文
- Kalff, F. E.; Rebergen, M. P.; Fahrenfort, E.; Girovsky, J.; Toskovic, R.; Lado, J. L.; Fernández-Rossier, J.; Otte, A. F. Nat Nanotechnol 2016. DOI: 10.1038/nnano.2016.131
- Wang, Z.; Xu, W.; Liu, L.; Zhu, T. F. Nature Chem. 2016, 8, 698. DOI: 10.1038/nchem.2517
過去記事はまとめを御覧ください
外部リンク
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