「ポンプ」と一言でいっても様々ありますが、研究室にもポンプはたくさんありますね。HPLCに内蔵されているプランジャーポンプや、エバポレーターを減圧するダイヤフラムポンプ、真空ラインに使われるオイルポンプなど、どれも研究環境には欠かせない製品です。最近の合成化学ではフラスコでものをつくるバッチ合成だけでなく、流しながらものをつくるフロー合成がよく研究されており、反応物や試薬を送り出すものとしてもポンプは大活躍しています。
さて最近そんなポンプ市場から、小さいながらハイテク製品をみつけましたので紹介します。ひとことで言うと、
「ダイヤフラムポンプなのに脈動がない高性能小型ポンプ」
です。株式会社タクミナというポンプ専門の企業が開発した新製品です。では、企業の紹介と今回のポンプの概要をみていきましょう。
精密ポンプのリーディングカンパニー・株式会社タクミナ
同社は、大阪に本社があり、精密ポンプ・流体制御機器の製造・販売を行っています。ポンプという地味な製品であることから知っている方はほとんどいないでしょう。しかし、東証二部にも上場している中小企業でもかなり大きな部類に入る会社です。話は少しそれますが、こういう会社を認識することは、就職希望の学生でも難しいんですよね。こういう会社の優れた製品を紹介できるような化学材料コンテンツの製作を今後検討しています。
さて、同社の主力製品の1つに「スムーズフローポンプ」というものがあります。
上記の通り、ポンプらしいごっつい見た目をしていますが、実はとっても繊細で、匠な技術が詰まった製品。まさにちょっと古いですが、「下町ロケット」の世界ですね。こんなもん研究室でどうやって使うの!といわれる方。実はこれは、フロー合成の第一人者の京都大学の吉田潤一研究室で導入され、すでに使用されているらしいのです[1]。今回紹介するのはこのシリーズの最小版、Qシリーズです。
スムーズフローポンプQシリーズとは?
トップの画像にもありますが、Qシリーズは以下の様相。一転してかわいい感じです(ピンク色は可愛さ強調のため?)。これがどれだけの能力を秘めているのか?一部だけ紹介しましょう。
- ダイヤフラムポンプである
ダイヤフラムポンプは定量性が高く、液漏れがしない、というメリットがある反面、デメリットは脈動があるということ。ダイヤフラム(膜)と2つの弁で構成されていて、これらが往復運動をしながら送液するためです。同じ”往復ポンプ”である心臓を考えてみるとわかりやすいでしょう。心臓音がまさに脈動です。こんな感じに送液されたら、一定速度というわけにはいきません。そのため、脈動が困る場面ではダイヤフラムポンプ(往復ポンプ)はほとんど使われていませんでした。それを解決したのがこのポンプ。小さいながらも無脈動、定量、高精度な送液を実現しています。実際デモしてみましたが、本当に脈動はほとんど感じられませんでした。なお、かなりの少量スケールを流しても一定量で送液してくれます。
低脈動をうたっている製品はアズワンなどにもありますが、「スムーズフローポンプ」のようにほぼ無脈動で液を送れるダイヤフラムポンプはほかにありません。
- シリンジポンプの代わりに
ラボ用で定量性が高く、脈動がない手軽なポンプというと、従来シリンジポンプしか選択肢がありませんでした。しかし、シリンジポンプは構造上、送液できる量が限られており、例えば数日間一定量を送液し続けるって場合は、シリンジポンプではちょっとむずかしいですね。さらに、実生産にも使えないです。このポンプの場合は、Qシリーズで実験室レベルで試してみて、上位のスムーズフローポンプを使えば、工業的にも用いることができます。
- 操作は簡単、掃除も楽
また、校正や流量変更の操作もとっても簡単です。いろいろと条件を変えてデータを取りたいときに便利かもしれません。使った後のお掃除もダイヤフラムポンプポンプなので開けて洗浄するだけ。プランジャーポンプのように傷がついたら終わりってことはありません。
とここまで書きましたが、タクミナのウェブサイトに非常にわかりやすい説明(こちら)があり、そこをみたほうがよさそうです。
メリットばかりに見えますが、ひとつだけいえば、高圧で送液したい場合はちょっとむずかしいこと。ただ、実際に、研究室で使っているディスポーザブルの充填カラムに、展開溶媒をこのポンプを使って送液してみましたが、それぐらいの圧力は問題なく耐えるようでした。また、上位シリーズでしたらごっつい様相になりますが、ダイヤフラムポンプでも高圧でも問題ないようです。
- 国産である
国産メーカーをやっぱり応援したいもの。また、海外メーカーの製品と比べると、開発も製造も国内であるため、アフターサポートの面でも安心。チューブポンプやシリンジポンプなどでも、高精度の製品は海外メーカーのものが多く、修理や消耗品の入手が時間がかかるときがあります。
で、どういう用途につかうの?
素晴らしい最新技術が使われた化学製品や材料にもありがちなのですが、どのような場合に使うのか?ということです。
答えは明確ではないですが、特に制限はなく、とにかく何か一定量を送液したい場合にはすべてに使えます。マイクロリアクターをはじめとするフロー合成がイメージし易いですが、それ以外にもタクミナのウェブサイトに目的別の利点が記載されていましたので、そちらを転載します。
- 高粘性液を変質させずに移送したい
- スラリーを潰さずに移送したい
- 塗工液の供給を改善したい
- 複数の液体を均一に混合したい
- 流量比例制御を簡単にしたい
- 長距離配管での移送を安定させたい
- 移送液の使用量を管理したい
- スプレー工程の精度を向上させたい
- フィルトレーションのトラブルを解消したい
- 分散機への供給を一定にしたい
なんにしても百聞は一見にしかずですから、実際に手にとって試してみるのが一番です。簡単にデモさせてくれたので、興味がある方はお問い合わせてみたらいかがでしょうか?すでに、デモを行い、記事執筆を了承いただいているのでお問い合わせの場合は「ケムステを見た!」といえばスムーズかもしれません。
お問い合わせはこちら!
株式会社タクミナ
〒541-0047 大阪市中央区淡路町2-2-14 北浜グランドビル10階
TEL: 06-6208-3973 (営業統括課)
E-mail:お問い合わせフォーム
関連文献
- 著者にタクミナの方も名も連ねているので共同研究と思われます。Nagaki, A.; Nakahara, Y.; Furusawa, M.; Sawaki, T.; Yamamoto, T.; Toukairin, H.; Tadokoro, S.; Shimazaki, T.; Ito, T.; Otake, M.; Arai, H.; Toda, N.; Ohtsuka, K.; Takahashi, Y.; Moriwaki, Y.; Tsuchihashi, Y.; Hirose, K.; Yoshida, J.-I.;Org. Process Res. Dev 2016, 20, 1377. DOI: 10.1021/acs.oprd.6b00158