5億4千年前起きた生物の爆発的進化「カンブリア爆発」。進化論では説明できないこの事象解明の糸口が、最近の新たな発見によりつかめつつある。
ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」5月号から。
本シリーズも8回目。アクセスをみているとなかなか人気が高いようです。Natureダイジェストから個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は関連記事を御覧ください。
カンブリア爆発の「火種」
エディアカラ紀のまでの生物は単純な生態系でした。5億4千年前に急激な生物進化により、今日の動物と同じ解剖学的特徴をもつ生態系が広がった。なぜ、その時点でそのような生態系が爆発的に生まれたのか、その「火種」はなんだろう?それが数十年間、生物学者の論争の的となっています。いまだ正確な原因はわかっていないが、最近の研究結果より酸素濃度の上昇が「火種」とする論争が再発している。記事では、その経緯と、単純に酸素濃度の上昇だけでは説明できない証拠の発見などについて詳細に説明しています。
「生命の起源」と同じく、幾つも説があり、証拠をつかむことが困難な古代生物学。この記事を書いている今ちょうど「複雑な多細胞生物、従来説より10億年早く誕生か 化石研究」というニュースが報道されました(DOI:10.1038/ncomms11500)。
15億年以上前の多細胞生物の化石が発見されたそうです。真偽はわかりませんが、これが本当ならば上記の年表も覆ることとなります。答えを導き出すという意味では化学はなんとやりやすいことかと思います。
半合成マラリア治療薬が市場で大苦戦
ノーベル医学生理学賞も受賞したマラリアの特効薬アルテミシニンを半合成したは良いものの、供給過剰で売れない。
もう一つの記事は化学関連から。今年は、北里大学の大村先生に加えて、マラリアの特効薬アルテミシニンの発見者Youyou Tu氏にもノーベル医学生理学賞が与えられました(関連記事:【速報】2015年ノーベル生理学・医学賞ー医薬品につながる天然物化学研究へ)。アルテミシニンはマラリア治療薬としてなくてはならないものとなっています。その供給法はクソニンジン(Artemisia annua)という植物を栽培し、そこから抽出すること。
クソニンジンを栽培し過ぎるとアルテミシニンの供給過多になり、栽培農家が減少します。その結果、供給不足になると、またその栽培に注目しはじめるという繰り返し。つまり、安定供給に不安があります。そのため、フランスの大手製薬会社サノフィ社は、酵母発酵で生成したアルテミシニン前駆体(アルテミシニン酸)をアルテミシニンに化学的に変換する、「半合成アルテミシニン」の合成法を開発しました。
しかし、毎年60トン(世界で必要とされる量の30%近く)を生産する能力があるにも関わらず売れなかったのです。これは現在栽培によるアルテミシンの供給過剰にあるからだと言われています。記事では、そのマラリア治療薬に関する国際的な試みや、サノフィ−社の「半合成アルテミシニン」工場の行方と、今後について述べています。
その他の記事
その他にも、「アルツハイマー病マウスで記憶が回復」が特別公開記事として無料で読むことができます。
また、日本人研究者へのインタビューとして、九大の細川貴弘助教と、産業技術総合研究所の深津武馬主席研究員の研究に関する記事が紹介されています。昆虫の体内でしか生きていけず、昆虫にとっても欠くことできない共生細菌はなぜそのような関係になったのか?この謎に迫る研究成果を報告された両氏のインタビューも無料公開されていますのでぜひお読みください(「カメムシの腸内共生細菌は進化の途上」)
研究テーマの息抜きに
卒研生(4年生)は5月になり、新しく研究室に配属され、個別の研究テーマをもらったと思います。今後は自身の研究の周辺を徹底的に勉強し、世界でもっとも詳しくならないといけません。自分の研究分野だけでもフォローできないぐらいの先人たちの研究を勉強し、疲れたときにでも、最新の全く異なるサイエンスが山盛りのNature ダイジェストを読むことはよい気分転換になると思いますよ。
もちろんバリバリ最先端研究に勤しんでいる大学院生や、研究者の方もオススメです。
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外部リンク
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