前編では自己評価欄がどういうもので、どういう指針で書くのがよいのか、という一般論(というよりは個人的見解)を、陥りがちな失敗例とともに紹介しました。
そのうえで後編は、内容面での工夫・改善の仕方を、具体例を挙げながら各論的に解説してみたいと思います。
「オリジナリティ」の片鱗と「喫緊性」を示そう
前編の最後でも少し触れましたが、
「誰もが認める大きな問題(少子高齢化や環境問題など)を取りあげ、その解決に研究者として取り組みたい」
というアピール形式は本当によく見かけるテンプレです。
とはいえ誤解して欲しくないのですが、これがアピール方針として間違っているわけではありません。多くの場合、欠けているのは「他人を選ばせない理由」だからです。
どうすればそれを盛り込み、説得力を増すことができるのでしょうか?
筆者個人は、以下の2つが決定的だと考えています。
・長い目で見た「オリジナリティ」
・短い目で見た「喫緊性」
審査員の多くはプロ研究者なので、「将来こいつがオリジナルな研究をやりそうか?」ということは、少しでも知りたいのだと思います。片鱗でも良いので「オリジナリティ」を見せる努力をするのが良いでしょう。ぶっ飛んだ奴やん!やってくれそうな奴やん!おもろい奴やん!と思って貰えれば申し分ないのですが、そこまでいかなくとも良いかもしれません。
実はこれは、自分自身で簡単にチェックできます。「主語を自分以外の人間に置き換えた文章にしてみる」のです。置き換える人間は、身近な友達でも、研究室の同僚でも誰でもいいでしょう。
これで違和感無く成り立ってしまうような内容なら、つまりはどこかの誰かが書きそうな文面だということになります。判明した時点で練り直すことをお薦めします。おそらくは、自己分析の掘下げと具体的根拠の付与がまだまだ足りていません。
また、申請書が同等レベルであれば、後回しにしても良い内容のほうには当然投資されません。「今このタイミングで」自分が選ばれなくてはならない理由を説得的に示しましょう。
「事例は普通、思考は特殊」
何度も述べてきたような「誰でも書きそうな文面化」を防ぐには、以下の2つが効果的だと考えます。
・自分の体験に基づくエピソードを付け加える (=過去の経験に際して得た学び・思考・哲学醸成)
・将来像の実現に向けたエピソードを付け加える (=未来に向けた具体的取り組み)
主張に説得力を与えるには、とにかく具体例と根拠をしつこいぐらいくっつけて書くことが重要なのです。口で言うだけなら誰だってできるからです。
しかしながら目立とうとするあまり、「変わったエピソード披露」に終止しているケースも少なからずあります。
筆者個人は、エピソード自体が特殊である必要は無いと考えています。ありふれたエピソードであっても、着眼点が独自であれば、十二分に良いアピールになります。自身の経験をどう切り取り、どう捉え、どういう考えて現在の自分が出来上がったのか?ということを、物語的に示すことが重要なのです。
たとえば”目指す研究者像”の項目に「国際感覚のあるグローバルな研究者」という主旨のことを書きたいとします。いかにも皆が書きそうな内容ですね(笑)。
しかし例えば、下記のように書いてみるとどうでしょうか?留学などのエピソードは必須ではないことがおわかりでしょう。実際の取り組みも盛り込まれており、本気度が伝わるのではないでしょうか。
「X年前、大学同級生である中学人留学生の家庭を訪問する機会を得た。親友に通訳してもらいながら、彼の家族といろいろな話をしたことで、『中国一般家庭の科学的理解は~~であり、日本とは~~~の点で差異が大きい』ことを痛感した。また、研究室の中国人研究生の考え方とも~~~との点で大きな違いを感じた。この経験を通じて私は、世界で普通に暮らす方々にも届けられる技術・サイエンス・科学コミュニケーション法を確立したいとの信念を抱くに至った。まずは言語習得が最重要事項だと考え勉強を進め、TOEIC 9xx点・中国語検定x級の取得に至った。現在でも海外留学生や海外から訪れる教授達と積極的に英語・中国語でコミュニケーションをとるよう努めており、研究現場でも実用に堪えうる言語力を磨き続けている。」
現在進行形の研究生活と関連づける
体験/経験を書く際、その出口が「単なる感想」に終止してしまっているケースも多く見られます。
例えば「私はテニスが得意で、全国大会ベスト8に2年連続で入った」ということをアピールに使いたいとします。これを単に「充実感・達成感を得た」と終えてしまうと、実効性に欠けるアピールの典型になります。自己満足語りに興味をもってくれる人はどこにも居ないのです。
学振向けのアピールなのですから、ちゃんと研究生活に繋げるのが良いと思います。
例えば
「私は中高大とテニスを継続しており、全国大学生対抗試合ではベスト8に2年連続で入ることができた。この成果をもたらした厳しい訓練を通じ、体力・集中力・忍耐力が育まれ、今では研究面での粘り強さに役立っている。実際に、1年の短期間で数百以上の条件検討を丁寧にやり遂げ、これまで先輩達が見逃していた~~~という結果を見いだすことができた」
などと書けば、目的指向型のアピールになるでしょう。
しつこいようですが、「だからこそ私は学振に資する人間です!」という暗黙的結論を読みとれるように書くのがポイントです。
数値アピールは裏切らない
自己評価欄には「特筆すべき重要事項」を書く欄があります。あるだけ全て盛り込みましょう。これらは全て客観的な証拠・根拠があるものでなくてはいけません。嘘はダメです。
・学会などの発表賞
・成績優秀を示すデータ(優の取得率xx%、院試通過順位、奨学金返還免除など)
・特殊な経歴(飛び級など)
・資格(TOEIC、情報処理など)
・課外活動(ボランティア・サークルなどでの評価・受賞)
・メディアへの露出
書き方にしても、「○○に合格した」とだけ書くよりも、
「○○に合格(受験者XX名中YY名の選抜を経て、上位ZZ名に入る成績)」
と具体的な数字を挙げて書くと、強く差別化できます。
現代的な評価基準も押さえておこう
昔はあまり取りざたされなかった一方、最近になって声高に叫ばれるようになった資質としては、
・グローバル化潮流における国際的対応力
・市井との対話・アピール力
・異分野とのコミュニケーション力
などが挙げられるように思います。
日本の将来にとって有益な研究者はこういう人なのだ、という国の考えが透けて見えるような気がしますね。ラボに閉じこもってばかりではダメな時代と言うことです。将来性を示すことが重要という観点から、こういったポイントは積極的に盛り込んでみると良いでしょう。「誰もが書きそうな文面化」を避けて説得力を持たせるために、エピソード付与・数値アピールも忘れずに。
おわりに
以上、筆者の添削経験に基づき、自己評価欄で押さえておくほうが良いと思われるポイントをまとめて見ました。
自由度高い欄であるからこそ、文面の実効性の高低は如実に表れます。逆に言えば、上手く書ければ他人よりポイントを稼ぎやすい項目でもあるとも思います。実際どこまでウェイトを置いて評価されるものなのかは未知数なのですが、しっかり書いておくに越したことはありません。
自己評価欄は研究計画欄と異なり、「ラボ独自の知見」という傘を借りてくることができません。
こういった姿勢の下に取り組むことを通じて初めて、「オリジナルとはなかなかに難しいんだなぁ」ということを痛感する人も多いのではないかと思います。それを論理的文章に反映させるのは尚更です。
これから学振に応募される皆さんも、いろいろ悩んで、工夫してみてください。きっと将来の肥やしになると思います。陰ながら応援しております。
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- 自己評価導入へ~学術振興会特別研究員~
- 学振の自己評価欄について
- @Markchloroさんによる学振書類書き方 まとめ