第32回のスポットライトリサーチは、信州大学繊維学部応用生物科学科新井研究室アソシエイト研究員の小林直也さんにお話を伺いました。
小林さんの所属する新井研究室では「天然タンパク質に深く学び、役立つ人工タンパク質を創製する」ことを目標に掲げて、タンパク質工学および構造生物学関連の研究を展開しており、最近では人工タンパク質の創製研究にも特に力を入れています。
その中でも、今回は、「人工タンパク質を用いて、ナノスケールでのブロック遊びをしよう!」という遊び心や好奇心を大事にして、超分子化学および幾何学的な視点を活かした研究に取り組んだ結果、インパクトのある成果に数えられる成果になったのではないかと思っています。
今回の結果は昨年アメリカ化学会誌に掲載され、信州大学よりプレスリリースされたことからスポットライトリサーチを依頼させていただました。
“Self-Assembling Nano-Architectures Created from a Protein Nano-Building Block Using an Intermolecularly Folded Dimeric de Novo Protein”
Kobayashi, N.; Yanase, K.; Sato, T.; Unzai, S.; Hecht, M.H.; Arai, R. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 11285. doi: 10.1021/jacs.5b03593Introduced as the JACS spotlights (DOI: 10.1021/jacs.5b08954)
研究室主宰者の新井先生に小林さんについて聞いてみたところ、
「小林君は、私がPIとして研究室を立ち上げてまもない時期に参画し、機器や試薬、技術等もいろいろ不足していた当初から6年以上に渡って苦楽を共にしてきた同志です。小林君は、抜群の情報収集能力でトレンドをつかみ、さらに時代の先を見据える優れた研究センスを持っているようで、特に今回の研究はその本領を発揮して、小林君自身が提案した研究コンセプトが見事に結実した画期的な成果ではないかと思います。また、本研究を中心とした成果によって、今年の日本蛋白質科学若手奨励賞の受賞も決定しており、今後の活躍や成長が大変楽しみな若手研究者です。
とのことで、研究室の初期メンバーとして十二分の結果を残されたようです。それでは、インタビューを御覧ください。
Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
本研究は、円柱状のシンプルな構造をもつ人工タンパク質を利用して、新しい人工タンパク質複合体、言わば、超分子ナノ構造体を創出した研究です。
独自の二量体新規人工設計タンパク質WA20と三量体形成ファージタンパク質Foldonを遺伝子工学的に融合することで「タンパク質ナノブロック(Protein Nanobuilding Block: PN-Block) 」を開発し、1種類のタンパク質ナノブロックから自己組織化により樽型(ラグビーボール型)や正四面体型(テトラポッド型)等の複数の超分子ナノ構造複合体の創出に成功しました(図1)。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
できるだけシンプルなアプローチで多様性を生み出すというコンセプトで、タンパク質複合体のデザインを行いたいと考えました。そこで、一般的なものづくりの効率化の基礎となる標準化・規格化といった考え方を取り入れるように工夫しました。辺と頂点というシンプルな幾何学的構造要素を持つ人工タンパク質を標準化・規格化されたブロックパーツとして設計開発し、その組み合わせから多様な超分子ナノ構造体の創出に挑みました。
また、人工タンパク質ナノブロックを組み合わせた「かたち」のデザインは,実用性だけでなく,おもちゃのブロック遊びのような素朴かつ知的な面白さがあり,化学の楽しさ,遊び心を伝えていく研究例としても非常に魅力的なのではないかという思い入れを持っています。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
各会合状態のタンパク質複合体の単離精製とその評価系についてです。今回、1種類のタンパク質ナノブロックのみから構成されていることより、その会合体どうしはサイズ以外の性質では分画することができないので、ゲルろ過クロマトグラフィーを何度も繰り返すという、非常に地道で労力の大きい精製法に頼るほかありませんでした。その際に、各会合体の精製過程において、native PAGEによる簡便な評価系を確立したことが、地味ではありますが、その困難を乗り越えるための大きなきっかけになったと考えています。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
あらゆる生命体も化学の法則に従っているはずで、生物だけのための特別な化学はないはずです。自然界に由来しない人工タンパク質分子を実際に創ることを通して、人工的に設計されたタンパク質分子複合体等の自己組織化分子集合体から生命のような振る舞いをするシステムを創り出すことを目指して、今後も化学と関わっていきたいと思っています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
本研究は、研究のコンセプトから自ら提案して始めた研究であり、また特に注目の論文としてJACS Spotlightsに選ばれ、さらに、自分自身で描いた研究コンセプトのイラストが掲載号のJACS表紙も飾り、大変良い記念となりました。最後になりましたが、本研究は、信州大の新井亮一先生、佐藤高彰先生、柳瀬慶一氏、法政大の雲財悟先生、分子研の古賀信康先生、古賀理恵先生、プリンストン大のMichael Hecht先生はじめ、多くの方々の御指導や御協力のおかげでなしえたものです。心より感謝致しますとともに、お忙しいところ最後までお読み頂きました読者の皆様に御礼申し上げます。
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研究者の略歴
小林 直也(こばやし なおや)
所属:信州大学繊維学部応用生物科学科 新井研究室 アソシエイト研究員
略歴:2011年3月 信州大学繊維学部応用生物科学科卒業。2013年3月 信州大学大学院工学系研究科応用生物科学専攻修了。2016年3月 信州大学大学院総合工学系研究科博士課程単位取得退学。
研究分野・テーマ:タンパク質工学及び合成生物学。主に、タンパク質ナノブロックの設計開発による自己組織化ナノ構造複合体の創出をテーマに研究中。