がんなどの疾患の末期、患者の筋肉量が著しく減少し、痩せて衰弱する。「悪液質」と呼ばれるこの状態はほぼすべての慢性疾患の末期にみられる状態。この作用機序が少しずつ明らかになってきた。
ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学gnとめ雑誌である「Natureダイジェスト」3月号から。今回も個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介します*。過去の記事は関連記事を御覧ください。
最期の病
進行がん患者の80%がなるという、いわゆる”最期の病”である悪液質。これまで研究者の関心は、元になる基礎疾患に集中しており、この病の対策は見過ごされてきました。しかし、現在では悪液質を治療可能な別個の疾患とみなすようになってきています。記事では悪液質の作用機序や処置法、そして医薬候補化合物について紹介しています。
医薬品候補化合物としては以下の2つ。しかしながら、両者とも悪液質を根本から治療するとうい特筆すべき効果がみられないといった状況です。
「もう一度やり直せるなら、妻にタピオカプディングを無理矢理食べさせることに時間を費やすのではなく、愛しているよと言うことに時間を費やしたい」
これは転移性乳がんでやせ衰えた妻をもつ男性が妻の死後、最期の時間を後悔して述べた言葉です。家族や患者が最期を幸せに過ごせることにつながる、この悪液質の治療法および治療薬の開発に期待したいものです。
マグネシウムで記録破りの強度を実現
マグネシウム合金中にナノサイズのセラミック粒子を分散させる。この手法の開発が、これまで課題であったマグネシウム合金の強度の向上に成功し、ついに限界の壁を打ち破った。
ごく最近になり、パソコンや携帯電話にも使われ始めたマグネシウム合金。重さは鉄の1/4、アルミニウムの2/3と最も軽い実用金属として知られ、モバイル時代のニューフェイスとして活躍しつつありますが、強度や塑性といった機械的性質はまだ他の金属に劣ります。
米国カリフォルニア工科大学(UCLA)のXiaochun Li教授らは最近、溶融マグネシウム中にセラミックナノ粒子を比較的高い体積分率で分散させることにより長年の課題を克服し、比強度や比剛性が構造用金属中最高となるマグネシウム複合材料を実現しました[1]。記事では、マグネシウム合金の歴史的使用例や、今回開発されたマグネシウム複合材料および他のナノ複合材料について詳しく解説しています。
セラミックナノ粒子を分散させたマグネシウムナノ複合材料は、分散させていないものに比べて、約8倍の降伏強度があるそうです。さらに、結晶粒を小さくすることで、14倍まで向上させることに成功しています。実用的に使えるかはこれからですが、「軽量」かつ「高強度」を目指す研究にとって画期的な出来事であったことは間違いないようですね。
その他の記事
今月号の無料公開記事は「再生医療製品の早期承認制度は果たして得策か」というもの。日本のiPS関連を発端とする再生医療製品の早期承認制度について言及しています。また、今月号の日本人科学者へのインタビューは京都大学生命科学研究科の遠藤求准教授。24時間の概日リズムを刻む体内時計でも植物の体内時計に注目し、組織ごとに異なる役割があることを明らかとしています。
その他にも一般的にも話題となっている、新しい4つの新元素発見や、囲碁のプロを人工知能が打ち負かしてしまった話、いつもどおりゲノム編集に関する記事も豊富です。
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関連文献
- Chen, L.-Y.; Xu, J.-Q.; Choi, H.; Pozuelo, M.; Ma, X.; Bhowmick, S.; Yang, J.-M.; Mathaudhu, S.; Li, X.-C.;Nature 2015, 528, 539. DOI:
外部リンク
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