[スポンサーリンク]

一般的な話題

薬物耐性菌を学ぶーChemical Times特集より

[スポンサーリンク]

 

薬物耐性菌。ニュースなどで一度は聞いたことがあり、ケムステの読者ならばご存知であると思います。

今回は化学情報誌「ケミカルタイムズ」の特集から、薬物耐性菌について紹介したいと思います。まずは、ケミカルタイムズとはなんぞや?というところから。

 

ケミカルタイムズとは

ケミカルタイムズ(Chemical Times)とは試薬メーカー関東化学が年4回発行している化学情報雑誌です。65年以上前の1950年に発行され、本年2016年No.1号で通算239号。様々な化学情報を配信しています。

本年からデザインおよび内容がリニューアルされ、毎号ある化学に関するテーマで特集を組むことになったそうです。詳しくは巻頭言をご覧いただければわかると思いますが、今後は「カップリング反応」(240号)、「再生医療」(241号)、「標準物質」(242号)というテーマの特集を組むとのこと。

2016-01-08_21-37-27

旧デザインと新デザイン

さて、この度関東化学にお願いをしまして、このケミカルタイムズの内容を一部引用させていただきながら、特集を紹介していくことにしました。では早速、今回の特集は上述したように「薬物耐性菌」となり、4つの記事が紹介されています。

 

薬物耐性菌の基礎知識

薬物耐性菌とは、薬、主に抗菌薬(抗生物質)に耐性を獲得した菌のことをいいます。近年ではMRSA(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)耐性菌が最も有名であると思います。

それよりもっとも昔から知られているのはβ-ラクタマーゼ産生菌。β-ラクタム系(ペニシリン系及びセファロスポリン系)抗菌薬を加水分解することによって不活化してしまうものです。近年、より分解しにくいβ-ラクタム系の抗生物質が開発されてきましたが、それらも分解してしまう、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL:Extended Spectrum β-Lactamases産生菌が出現しています。また、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)は高度な耐性を有し、治療がかなり困難であること、世界的に大流行をみせていることから大問題になっています。

グラム陰性菌には外膜と内幕が存在し、これらに挟まれた部分はペリプラズムと呼ばれる空間を形成しています。グラム陰性菌にとって、外膜は自身に抗菌薬が流れ込む際の最初の防御壁となるわけです。

外膜には、様々なタンパクから流れるポーリンよばれるチャネルが存在し、これによって薬剤が菌体内へ流入します。βーラクタム薬が環境中に存在する場合、βーラクタム薬は菌体表面のポーリンによって形成された親水性チャネルによって外膜を通過し、菌体内部に取り込まれます。このようにして菌体内に取り込まれたβーラクタム薬はペリプラズム内部において、PBPs(penicillin-binding proteins)と結合し、ペプチドグリカン合成を阻害することで菌体に作用します。

このような一連の流れに基づき、βーラクタム薬に対する耐性機序は次のように分類できます。

  1. β−ラクタム薬を加水分解することができる酵素がペリプラズム内に分泌される。
  2. 外膜に存在するポーリン孔の変化または消失により外膜の浸透性が低下し、β-ラクタム薬の流入量が減少する
  3. 排出ポンプにより、β-ラクタム薬が排出される

2016-01-09_16-04-27

記事では、このβ-ラクタマーゼ産生菌およびCPEについて、広島大学院内院内感染症プロジェクト研究センターの研究者らは医学的・生物学的見地からの基礎知識を紹介しています。記事はこちら

 

臨床検査室が実施すべき検査法

別の記事では、三重大学医学部附属病院 および三重県立総合医療の臨床検査技師が、臨床検査室の技師の立場から、薬剤体制菌検出のために実施すべき検査法について紹介しています。化学者には聞き慣れないものばかりですが、スクリーニングや確認試験などの手法について紹介しており、なかなか貴重な情報です。

 

2016-02-07_14-09-13

 

感染症検査最前線

また、最新の感染症検査機器についても紹介されています。感染症検査における「三大技術革新」である、自動同定・感受性機器、遺伝子解析技術、そして質量分析法に加えて、光散乱法や蛍光分光法に関する機器類と検査法について説明しています。記事はこちら

2016-01-09_16-05-21

次世代型の遺伝子検査システム

臨床検査技師に求められる感染制御活動

最後の記事は臨床検査技師の感染症制御活動について。亀田メディカルセンターに所属する臨床検査管理部の部長が医療現場の薬剤耐性菌に対する活動を紹介しています。

2016-01-09_16-07-31

亀田メディカルセンター

 

ケミカルタイムズを読んでみてはいかが

今回の記事は、かなり化学から離れたものが多く、正直いって難解なものが多くありました。化学的な見地から言えば、薬剤耐性菌に関しても作用機序や薬の働きなどしか学びませんが、検査法や分析機器、現場の対応など知っておくと良い情報もあると思います。というわけで、時間のあるときにでもケミカルタイムズを読んでみてはいかがでしょうか。

過去のケミカルタイムズ記事

外部リンク

本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. エチレンを離して!
  2. ルイスペア形成を利用した電気化学発光の増強
  3. 定型抗精神病薬 「ピモジド」の化学修飾により新規難治性疼痛治療薬…
  4. エチレンをつかまえて
  5. 構造式から選ぶ花粉症のOTC医薬品
  6. バイエルスドルフという会社 ~NIVEA、8×4の生みの親~
  7. 『主鎖むき出し』の芳香族ポリマーの合成に成功 ~長年…
  8. 化学研究で役に立つデータ解析入門:回帰分析の活用を広げる編

注目情報

ピックアップ記事

  1. デーヴィス酸化 Davis Oxidation
  2. 第106回―「分子の反応動力学を研究する」Xueming Yang教授
  3. 114番元素と116番元素が正式認可される
  4. 製薬産業の最前線バイオベンチャーを訪ねてみよう! ?シリコンバレーバイオ合宿?
  5. 「坂田薫の『SCIENCE NEWS』」に出演します!
  6. 高収率・高選択性―信頼性の限界はどこにある?
  7. 第23回 医療、工業、軍事、広がるスマートマテリアル活躍の場ーPavel Anzenbacher教授
  8. (+)-ゴニオトキシンの全合成
  9. 分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学
  10. 酵母菌に小さなソーラーパネル

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
29  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー