Tshozoです。 先日、下記の2冊の本を古本屋で見つけて即買いしてしまいました。
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この本を読んで想いを新たにしたのですが、この世はまさに化石燃料まみれなわけです。
何せ、食料のほとんどは天然ガスや石炭が原料の水素をもとにしたハーバー・ボッシュ法経由での尿素や硝酸から出来る肥料や合成物である農薬に依っておりますし、我々はそれを食んで育った牛や豚や鳥を口にし、化学繊維で出来た衣服を身に着け、大量のエネルギーを使って極微細構造を持つ半導体を製造し、天然ガスで発電された電力でインターネットを使いこなし、石炭で還元された鉄鋼・石油由来のタイヤ・天然ガス又は石油由来の機能性・汎用性樹脂で構成された車で、これまた石油経由のアスファルト又は石炭経由のコールタールで固められた道路の上を走る、飛行機もいつの間にやら合成繊維からできたカーボンコンポジットでほとんどが構成され、ついでに怪我とか病気になったら元を辿れば石油が原料の大部分を占める薬で治す、と・・・石炭まみれ、石油まみれ、天然ガスまみれ。というか我々の身体の何割かくらいは石油で出来上がってる気がします。
巷はバイオ資源とか何とか言ってますが、比率からしたらまだまだ吹けば飛ぶレベル。言うまでもなく現実はこっちが大主流なわけです。
1970年代のオイルショック、2000年~2010年あたりに紛糾したピークオイル、いずれも政治的な理由が原因と見られていますが、結局技術的には省エネの機運が高まったものの「脱石油」という点で根本的に解決されたことは無く(LNGのシェアが拡大した結果とはなりましたが)、そうした騒動を乗り越えても石油はやはり現代の最大の物質パイプラインであるということに変わりはありません。
石油製品パイプライン 一部の医薬品原料を除き、現代のほぼ全てのC化学はこれを根幹とする
こちらより引用(元々はOHSAの1996年版に記載された図)
「石油の世紀」の中でのロンメル将軍の最も重要な一言
「燃料不足、たった
ちなみに石油とか石炭は生物の死骸や炭化物で出来てるとの説が有力ですので、誰が言ったか忘れましたが、これらを利用した炭素化学というのはある意味ネクロマンシー、「死霊術」とも言えなくもないわけです。筆者ももちろんその一派で、その魔術の恩恵を享受している側に居るのは間違いありません。・・・ということでこうしてみると原子力発電はこの世界に存在することが非常に奇妙なエネルギー形態であるという感覚を受けます。
別にこうしたことの是非を云々するつもりはなく、どちらかと言えば筆者は感動する側です。
ただの「燃ゆる水」だった石油を、性質を調べ倒して現在のレベルまでブラッシュアップ出来るなど、100年以上前に誰が一体予想できたでしょうか。それもこれも、石油を安定的に供給し、加工し、用途を開拓する商売形態と仕組みを創り上げた企業群があったからに他なりません。
日本で言うと供給するよりも加工して材料に仕上げる企業群が比率を多く占めるのですが、今回はその供給する側に居る企業体のお話。
動機と諸々
なんでこういう記事を書こうかと考えたかと言いますと、2年前のこちらの記事(「「石油化学」の新ネーミング募集!」)を思い出したためです。
この結果、石油化学は「循環炭素化学」と変更されたのですが、その後上記の2冊の本を読んだ結果、石油化学の本質はたとえ名称が変わっても
- 化石燃料資源を供給するそのパワー
- 高度に精製加工を行う技術
- それを売りさばく商品開発能力
の3点であると思い、それらの根幹を持つ国際石油企業の歴史を少しまとめてみたくなったわけです。
その関連の企業群 各社HPよりロゴを引用
個人的にはENIのロゴが好き
なお日本国内で石油掘削から精製(一部)まで行っているのは実質は国際石油開発帝石殿のみで、ハリバートン社、シュルンベルジェ社など探査・掘削エンジニアリング会社の技術が洗練されつつあることからその競争力維持もなかなか難しいところです。加えて最近ではシェールガス等、一部の採掘手法や極深掘削技術などの先端手法を除き、石油精製技術自体に開発ネタや学問的な興味が若干減少し気味な状況は否めないのかもしれません。
また昨今の資源価格不安定化は、関連企業の業績不透明化→雇用不安定化につながることから、特に日本国内での工学系学生の関連企業への志望傾向としては、上の図に挙げるような石油資源関連会社はあまり上位に挙がってきていない気がします(筆者注:学生殿の人気はまぁ流行があるので趨勢の根拠に挙げるのはよくないかもしませんが)。
なお、商社各社のように採掘を行わずに権益のみを買ってうまく売りさばくことに集中する企業体も存在します。
ですが特に米国ではこうした企業群、つまりエクソンモービルを筆頭にシェブロン, コノコフィリップス, シェル, BPといった企業への工学系の学生の関心は安定して高く(2015年でそれぞれ9位、31位、60位、13位、48位にランクイン・特にテキサス等南部の大学の学生にとっては重要な位置を占めているもよう)、この産業が米国のビジネスの中心であり続けていることを示す結果でしょう。
ということで下記、歴史を少し振り返りつつグダグダと書いていってみますのでお付き合いください。
“セブン・シスターズ”の系譜
セブンシスターズとはいわゆる「国際石油資本」のことで、1970年代にAnthony Terrell Seward Sampsonが記した “The Seven Sisters”という本に基づく名称です。 米国のスタンダードオイルニュージャージー(SONJ), スタンダードオイルニューヨーク(SONY), スタンダードオイルカリフォルニア(SOCAL), ガルフオイル, テキサコと、欧州のロイヤル・ダッチ・シェル, アングロペルシャ石油会社(BP)で合わせて7企業、”セブン・シスターズ”と呼ばれました。
フランス国立石油公社のトタルもこれらと同等のパワーを持っており、これらの企業体が原油の掘削から加工・販売までをほぼ独占し、実質的にこれらの企業体が世界経済を支配していたと言っても過言ではなかった時期がありました。
この世界経済を統べていた(いる)炭素化学産業を切り拓いた創始者のうちで最も重要な人物が、ジョン・D・ロックフェラー。上に挙げた書物の真の主人公で、第一次~二次世界大戦前まで最もパワーを持っていました。加えて世界最大の化石資源会社であるエクソンモービル、シェブロンの実質的創業者でもあります。現在の世界のビジネスの標準型を創り上げた、西側世界で最も偉大な人物と書いてよいでしょう。ドラゴンクエストで言えば大神官ハーゴン、ファイナルファンタジーで言えば月の民であったゼロスにも相当する方ですね。
ジョン・D・ロックフェラー ご尊顔 Wikipedia DEより引用
NHKで放送された「映像の世紀」で初めて動いているところを見ました
なお実質的創業者と書いたのは、エクソンモービル、シェブロンはそもそもロックフェラーが創り上げた当時世界最大の石油会社「スタンダードオイル」の分割された企業体から成っているからです(下図)。
スタンダードオイル社は1911年あたりに色々あって解体されたのですが(詳細は上述「石油の世紀」にお任せします)、分裂した組織体の経済活動が支障を受けることはさほど無く、「タコの頭とタコの足」はほぼ全て意思を以て生き残り、現代もなお世界最大の企業体として存在しているわけです。
蛇足ですがガソリンスタンドで見る『ESSO – エッソ』は”SO=エスオー“、Standard Oilの頭文字を取ったものであるということは結構な方がご存知無いようです(筆者周囲限定)。なおロックフェラー家は現在もなお健在で、現当主はDavid Rockefeller, Sr.。2015年で100歳を迎えられています。ここ十数年のうちにエクソンモービルとシェブロンが合併して新生SOが産まれそうな気がするのは筆者だけでしょうか。
セブンシスターズの合従連衡の経緯 簡易まとめ
解体したStandard Oilは結局ExxonMobil, Chevronとして再合流しているのがわかる
画像内のロゴは各社HPより引用 人物写真は各国Wikipediaより引用
これらセブンシスターズは上図のように合従連衡を繰り返し、時代が変わった現在でも引き続き凄まじいPowerを誇るのですが、当時と少し異なるのは原油一本槍ではなく、エネルギー+化学品を総合的に供給する企業体に変貌しつつあるということ。
何故こうした変化がみられるのかと言うと、資源を持つ国々がそれぞれ自身で石油会社(国営石油会社)を作り、セブンシスターズとは別に石油を売っていく流れが止められなくなっているためです。いわゆる資源ナショナリズムというやつですね。
・・・ということで、上記の図を作ったところで力尽きたので今回はここまで。次回は現在のセブンシスターズが置かれている状況を整理していきたいと思います。