[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

細孔内単分子ポリシラン鎖の特性解明

[スポンサーリンク]

 

 

第16回目となるスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学系研究科 北川研究室 博士課程2年の北尾 岳史さんにお願いしました。Pacifichem2015の学生ポスター賞受賞者の一人です。

所属する北川研究室では、形状の揃った多孔性材料の内部で高分子を組み立て、新たな機能や融合的特性を引きだすという大きな枠の研究が継続されています。北尾さんの担当されたテーマは、まさにそのメインストリームにそったものです。

TBS「未来の起源」でも紹介された経歴を持っており(北川研HPで公開されている動画)、まさに将来が期待される若手研究者の一人です。改めてケムステでもご紹介させていただく機会を得ました。是非ご覧ください!

 

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください

「単分子鎖状導電性高分子のキャリア移動特性の解明と制御」です[1]。

単分子鎖の導電性高分子がもつキャリア移動物性を明らかにすることは、基礎化学の観点からだけでなく、未来の分子ナノデバイス実現のために重要です。しかし、高分子は通常のバルク(固体)状態では無秩序な絡まり合い構造を有しており、それを明らかにすることは非常に困難です。

そこで本研究では、導電性高分子であるポリシランを多孔性金属錯体(PCP/MOF)がもつナノ空間内に拘束することで、単分子鎖状態をつくりだし、導電性高分子のキャリア移動特性を明らかにしました。また、PCPがもつ高い設計性を活かし、細孔サイズを変えることで、単分子鎖状態でのキャリア移動特性の制御に初めて成功しました(トップ図)。さらに、ナノ細孔内に拘束されたポリシランは、バルクとは異なり、光安定性が大幅に向上することを明らかにし、そのメカニズムについて解明しました。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

ある日、ポケットにポリシランが入ったままであることに気づかず(もちろんサンプル管に入った状態で)、間違って自宅に持ち帰ってしまったことがありました。次の日の朝、ポケットからポリシランを取り出した私を見て、先輩が冷たい目で私を見ていたことを覚えています。

「こいつは毎日ポリシランと一緒に帰っているのか」

その先輩はそう思って引いていたそうです。。。

もちろん、ポリシランに対して、そこまで歪んだ感情は持っていません。しかし、ポリシランという材料についていろいろと調べていくうちに、ポリシランに対する思い入れや「愛」が芽生えたことは確かです。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ポリシランを細孔内に拘束できる適切なPCP(細孔サイズ、表面環境など)を探し出し、さらに、導入方法を最適化するのには骨が折れました。どうやら細孔サイズが大きいからといって、必ずしもポリマー鎖を拘束できるとは限らないようです。ポリマー導入の際、「祈りながら実験をしたら穴に入るんじゃない?」という信心深い、もとい、無茶な提案もありましたが、根気強く導入方法を変えることで問題を解決することができました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私にとって化学は生きるための手段として必要なものだと思います。しかし、純粋に化学が面白いと思う瞬間もありますし、化学を単なる「飯の種」として見るのももったいない気がします。今後、化学を通じていろいろな世界を経験し、様々な人と繋がりをもつことができれば良いなと思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

自分が面白いと思う研究をすることはもちろん大事ですが、それと同じくらい、他人にも面白いと思ってもらうことは非常に重要だと思います(過度のアピールはダメですが)。そのためにも、自戒の念を込めて、過去の研究に真摯に向き合い、自分よがりの研究にならないように心がけることが必要なのではないでしょうか。

 

参考文献

  1. Kitao, T.; Bracco, S.; Comotti, A.; Sozzani, P.; Naito, M.; Seki, S.; Uemura, T.; Kitagawa, S. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 5231-5238. DOI: 10.1021/jacs.5b02215

関連リンク

研究者の略歴

sr_T_Kitao_1北尾 岳史

所属: 京都大学大学院工学研究科 北川研究室 博士後期課程二年

テーマ: 金属錯体ナノ空間を用いた共役高分子の集積構造制御

経歴: 1989年大阪府堺市生まれ。2012年3月京都大学工業化学科卒業、2012年4月同大学修士課程に入学、2014年4月同大学博士課程に進学。2013年錯体化学会第63回討論会学生講演賞。2014年第63回高分子学会年次大会ポスター賞。2015年第95回日本化学会春季年会学生講演賞。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第38 回化学反応討論会でケムステをみたキャンペーン
  2. 米国版・歯痛の応急薬
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~半導体の歴史編~
  4. Al=Al二重結合化合物
  5. 細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発
  6. ストックホルム国際青年科学セミナー参加学生を募集開始 ノーベル賞…
  7. 誰でも参加OK!計算化学研究を手伝おう!
  8. 有機化学実験基礎講座、絶賛公開中!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 硫黄―炭素二重結合の直接ラジカル重合~さまざまなビニルポリマーに分解性などを付与~
  2. 千葉 俊介 Shunsuke Chiba
  3. 極小の「分子ペンチ」開発
  4. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請
  5. 世界初の有機蓄光
  6. 4つの異なる配位結合を持つ不斉金属原子でキラル錯体を組み上げる!!
  7. 天然物化学
  8. NIMS WEEK2021-材料研究の最新成果発表週間- 事前登録スタート
  9. ケムステが文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞しました
  10. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー