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化学者のつぶやき

イオンペアによるラジカルアニオン種の認識と立体制御法

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光学異性体は異なる薬理作用をもつことが多く、それらを作り分ける不斉合成法の開発は医農薬分野において非常に重要な課題の一つであることは言うまでもありません。近年、キラル有機分子触媒を用いた不斉反応の研究が世界中で精力的に行われています。

その中で、イオン性のキラル有機分子触媒と反応活性なアニオン種、もしくはカチオン種とのイオン間相互作用を利用した「キラルイオン対型不斉反応」に注目が集まってます。

その先駆的な例として、2007年名古屋大学の大井らは光学活性なアミノホスホニウム塩が、不斉ヘンリー反応に有効な触媒として働くことを明らかにしました(図1)。[1]アミノホスホニウム塩はイオン性ブレンステッド酸の一種であり、イオン間力と水素結合を介した協働的相互作用によって対アニオンを精密に立体認識する役割を担っています。実際、現在までにアミノホスホニウム塩をキラルイオン対触媒として利用した多くの不斉反応が達成されています[2]

図1

図1 イオン性キラルブレンステッド酸を触媒とした不斉ヘンリー反応

 

大井らは、高いアニオン認識力を有する「キラルイオン対型イオン性ブレンステッド酸」と「光レドックス反応」を組み合わせることで、ラジカルアニオン種の立体選択性を制御した不斉反応が可能になると考えました。イオンペアによるラジカルアニオン種の認識と立体制御を行った初の例となり[3]、不斉触媒ラジカル反応の新しい方法論を提供するものと考えられます。

前置きが長くなりましたが、今回は昨年公開された以下の論文について紹介したいと思います。

“Synergistic Catalysis of Ionic Brønsted Acid and Photosensitizer for a Redox Neutral Asymmetric α-Coupling of N–Arylaminomethanes with Aldimines”

Uraguchi, D.; Kinoshita, N.; Kizu, T.; Ooi, T.; J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 13768.

DOI: 10.1021/jacs.5b09329

 

「キラルイオン対型イオン性ブレンステッド酸」+「光レドックス反応」

彼らは、Ir触媒を用いた光レドックス反応によりラジカル種が発生することが知られているN-アリールアミノメタンとアルジミンを反応剤に用い、不斉触媒を種々検討しました。

その結果、上述したイオン性ブレンステッド酸触媒を作用させることでN-アリールアミノメタンとアルジミンとの不斉ラジカルカップリング反応が高立体選択的に進行することを見出しました(図2)。

2016-01-04_02-31-02

図2. N-アリールアミノメタンとアルジミンとの不斉ラジカルカップリング反応

触媒サイクル

著者らが提唱したこの反応の触媒サイクルは以下になります(図3)。

まず可視光を照射することでIr(Ⅲ) 4aを基底状態から励起し、励起したIr(Ⅲ) 4bとジフェニルアミン1aの一電子酸化還元反応によりIr(Ⅱ) 4cとラジカルカチオン種1bが生成します。このラジカルカチオン種1bは塩基Bの作用により脱プロトン化され、活性なアミノメチルラジカル1cに変換されます。

一方、イミン2はIr(Ⅱ) 4cにより一電子還元されラジカルアニオン種となり、生じたIr(Ⅲ)イオン対4dを形成します。その後、光学活性アミノホスホニウムカチオンとの対カチオン交換によりIr(Ⅲ) 4aが再生するとともにキラルイオン対5aが生じます。キラルイオン対5aのラジカルアニオン種とアミノメチルラジカル1cがカップリングすることで、光学活性な目的物3を与えます。

2016-01-04_02-31-30

図3. 触媒サイクル

まとめ

本論文でイオン性ブレンステッド酸触媒であるキラルアミノホスホニウム塩を用いることで対カチオンによるラジカルアニオン種の不斉制御に初めて報告しました。本研究は不斉合成の新規方法論を開拓した革新的な反応と位置付けられると思います。

 

関連文献

  1. Uraguchi, D.; Sasaki, S.; Ooi, T. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 12392. DOI:  10.1021/ja075152+
  2. Uraguchi, D.; Ooi, T. Yuki Gosei Kagaku Kyokaishi 2010, 68, 1185.
  3. これまでにも様々な化学者が、光レドックス反応と不斉触媒反応を併せ用いることで、ラジカル反応の立体制御に成功している。 (a) Nicewicz, D. A.; MacMillan, D. W. C. Science 2008, 322, 77.  DOI: 10.1126/science.1161976 (b) DiRocco, D. A.; Rovis, T. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 8094. DOI: 10.1021/ja3030164 (c) Rono, L. J.; Yayla, H. G.; Wang, D. Y.; Armstrong, M. F.; Knowles, R. R. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 17735. DOI: 10.1021/ja4100595 (d) Du, J.; Skubi, K. L.; Schultz, D. M.; Yoon, T. P. Science 2014, 344, 392. DOI: 10.1126/science.1251511

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外部リンク

 

関連書籍

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