ポリペプチドやDNAといった天然に存在する高分子は、高度に制御された高分子鎖長や配列、キラリティーに由来して複雑な機能を発現することができます。
天然の高分子のように配列制御された高分子を化学的に合成する重合法の開発が長年行われています。
最近、MITのJonshonらによって立体規則性および配列を制御した新しい高分子合成法が報告されました。本手法では大量合成が可能であるとともに、従来の重合法では合成困難な構造を有する高分子も合成可能です。
“Iterative exponential growth of stereo- and sequence-controlled polymers”
Barnes, J. C.; Ehrlich, D. J. C.; Gao, A. X.; Leibfarth, F. A.; Jiang, Y.; Zhou, E.; Jamison, T. F.; Johnson, J. A.;Nature Chem. 2015, 7, 810.
DOI: 10.1038/nchem.2346
今回はこの論文について紹介しましょう。
配列を制御した高分子合成法
配列を制御した高分子合成法の一つとして、ペプチド固相合成法[1]が挙げられあす。
固相合成法では、ポリスチレンなどを固相として用い、固相にアミノ酸を結合させた後、縮合反応と脱保護を繰り返すことによって高分子鎖を伸長させます(図 1)。
合成した高分子を最終的に固相から切り離すことで、目的の高分子を得ることができます。精密に配列を制御したポリアミドなどを合成できるものの、n量体を合成する際には2n回の化学反応を行う必要があることや過剰の試薬を用いることから、大量合成が難しいことが難点です。
Iterative exponential growth (IEG)
配列を制御しつつ、大量合成可能な高分子合成法として、Jonsonらは「Iterative exponential growth (IEG) [2]」に着目しました。
IEG法は、分子の両末端を脱保護や官能基化によってそれぞれ異なる反応性基へと誘導し、生成した反応性基同士をカップリングさせることによって結合を形成します。これを繰り返すことによって高分子鎖を伸長させる手法です(図 2)。
本手法では高分子鎖長が指数関数的に増大するため、比較的少ない繰り返しサイクルで高い重合度の高分子を得ることができます。さらに、触媒的カップリング反応を用いた場合は過剰の試薬を必要としないことから、効率的で大量合成可能な重合反応となる可能性を秘めています。これまで、構造が明確なオリゴマーを合成する手法として主に用いられてきた手法ですが、このような利点を有することから配列制御された高分子を大量に合成できる重合反応になりうると著者らは考え、今回の重合法開発に至りました。
Iterative exponential growth plus side-chain (IEG+)
今回著者らは、立体規則性および配列が制御された重合法として、図3に示してあるIEG+法を提案しました。
IEG+法では、適切な官能基を有する高光学純度モノマーに対して、(i)置換反応、続く(ii)官能基化を行うことで反応性基を導入します。一方、同一のモノマーに対して(iii)脱保護を行い、先ほど導入した反応性基とカップリングする骨格を構築します。これらのモノマーを(iv)カップリング反応を用いて結合させることで二量体が得られます(図3)。
この4つの化学反応を繰り返し行うことで重合が進行します。指数関数的に重合度が増加するため、少ないサイクルで高い重合度の高分子が得られるだけでなく、高分子鎖長や配列、キラリティーが制御された高分子を合成することができることが特徴です。
具体的には、高光学純度のエポキシとアルキンを有するモノマーを用いており、ヒュスゲン環化反応によって二量体を構築しています。用いるモノマー中のエポキシの立体化学の違いにより、シンジオタクチックまたはイソタクチックといった高分子の立体規則性を狙い通り合成することができます。加えて、側鎖のアルコール部位がアセチル基もしくはベンジル基で保護されたものを狙って配列させることができることも示しています。これらの特徴を組み合わせることで、異なる立体規則性、配列を同一分子内に有する32量体(図 4)が合成できることが示されています。
まとめ
今回著者らは、高分子鎖長および配列、立体規則性を制御した高分子を効率的に合成できる新しい重合法を報告しました。本手法を用いることによって従来の重合法では合成することのできない骨格を構築することができます。構造と合成法いずれにおいても新しく、今後の応用が期待されます。
なお、この代表著者のJeremiah A. Johnson助教授はいまだ30代前半の若手化学者。最近矢継ぎ早にハイジャーナルに論文を出版しており、おそらく難しいMITでのテニュアも取れそうな予感です。今後の彼の活躍に注目したいと思います。
参考文献
- (a) Merrifield, R. B. J. Am. Chem. Soc. 1963, 85, 2149. (b) Chem-Station : メリフィールド ペプチド固相合成法
- (a) Binauld, S.; Damiron, D.; Connal, L. A.; Hawker, C. J.; Drockenmuller, E. Macromol. Rapid Commun. 2011, 32, 147. (b) Zhang, J.; Moore, J. S.; Xu, Z.; Aguirre, R. A. J. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 2273. DOI: 10.1021/ja00032a060 (c) Binauld, S.; Hawker, C. J.; Fleury, E.; Drockenmuller, E. Angew. Chem., Int. Ed. 2009, 48, 6654. DOI: 10.1002/anie.200903156