第14回目となるスポットライトリサーチは、米国からの紹介です。ハーバード大学Department of Chemistry and Chemical Biology (Emily Balskus研)の中村仁美さんにお願いしました。先日ホノルルで開催されたPacifichem2015学生ポスター賞受賞者の一人です。
中村さんは中・高・大・院とすべてを米国の教育機関で過ごされています。2015年には現代化学誌上にて「米国の大学:リアルレポート」と題する連載を担当されていたこともあり、日本でもご存じの方は多いのではないでしょうか。普段は地理的に全く離れた地で研究を行われていますが、このような形で皆さんにご紹介できるというのも、国際学会という世界中の優れた化学者が集う機会、そして地理的制約のないインターネット技術の素晴らしさがあってのことと感慨深く思います。
それでは今回受賞された研究についてお話を伺ってみました。ご覧ください!
Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
新しい酵素反応を効率的に特徴付けるため、我々は稀な構造や基質を持つ天然物の生合成経路の解明を遂行しています。シアノバクテリアが生成するシリンドロシクロファンは、天然物では非常に珍しいC2対称なパラシクロファン骨格を持っています。我々はシリンドロシクロファン生合成遺伝子群を探し出し、生合成仮説を立てた上で(図1)、その生合成経路を解明しました。得に注目したのが、パラシクロファン骨格の構成過程の最終ステップである、炭素—炭素結合を促進する酵素です。この研究により、我々は位置選択的かつ立体選択的に炭素—炭素結合を作る新しい酵素を発見することが出来ました。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
この研究テーマは、始めたころから現在に至るまで、ほぼ一人で研究を行ってきました。そのため、この研究を通じてシアノバクテリアの培養や遺伝子操作、また基質の有機合成など様々な分野の知識や技術を培うことが出来ました。色々と困難もありましたが、最終的には生合成に必要な全ての酵素の働きを特徴付けることができ、研究を遣り切ったという達成感が持てました。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
シリンドロシクロファンを生成しているシアノバクテリアは、遺伝子操作が困難な菌株なので、新しい酵素の働きを調べるためには大腸菌で酵素を一つずつ発現し、特徴付けるという手法を用いました。その中には発現が難しい酵素も複数あり、単離できるようになるまで3年ほど掛かったものもありました。失敗ばかり続くことも多かったですが、諦めずに地道に実験を続け、発現法を工夫することによって、酵素の発現に成功しました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
私は2016年の春に博士課程を終了する予定ですが、卒業後も科学者として研究を続けていきたいと思っています。酵素反応のメカニズムの研究や、酵素のバイオエンジニアリングなどに興味を持っているので、将来もこの分野の研究に貢献できればと思っています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
私は学部生のころは主に有機合成を行っていたので、大学院に入るまでは、酵素や細菌学については、ほぼ何も知りませんでした。その上、出来たばかりの研究室に入ったため、分からないことがある場合や困った時には、研究室内だけでなく、他の研究室の方々にもアドバイスを頂きました。実験自体は一人で行うにしても、たくさんの方々のサポートがあって、研究は成り立っているのだと実感しました。また、これから先、面白い研究を推進するには、複数の分野を融合する必要があるのではないかと思っています。なので、自分の分野外だからと排他的にならず、寛容な姿勢で様々な分野の研究に耳を傾けてみて下さい。
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研究者の略歴
所属:ハーバード大学 Department of Chemistry and Chemical Biology (Emily Balskus Group)
研究テーマ:シリンドロシクロファン生合成経路の解明