害虫として嫌われ者のゴキブリですが、太古の時代からしぶとく生き残っている実績を評価して(?)、災害用ロボットに使おうとする動きもあるようです。
今回は化学の中心からちょっと離れて、融合分野から、大型種のマダガスカルゴキブリをそのまま使ったバイオ燃料電池とセンシングについて紹介したいと思います。
ゴキブリで電池
これまでにも生体を使ったバイオ燃料電池は複数研究されていますが、大阪大学大学院工学研究科・森島研究室ではゴキブリを使った電池を発表しました。[1] なぜゴキブリなのか?放射線など環境に対する耐性が強いからだそうです。また、大型のゴキブリならばある程度の大きさの電池を作ることができます。今回用いられているのはマダガスカルゴキブリという大型種です。余談ですが、鳴き声を出します。羽が生えておらず飛ばないのでちょっと安心です。
燃料電池で起こる反応の概略図は文献からとってきたものです。燃料としてはゴキブリの体液にあるトレハロースをトレハラーゼで分解したβ-グルコースを用いています。
図中の略語はそれぞれ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ビタミンK3(VK3)、NADHデヒドロゲナーゼ(DI)、2,2′-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)です。
酵素による反応を介して、陽極ではグルコースがグルコノラクトン、陰極では酸素が水に変わることで電気が生じます。
最大電圧は0.75 V、電力は333 μVになり、これまでの埋め込み型の昆虫型電池よりも強力なのが特徴です。
ゴキブリでワイヤレスセンシング
バイオ燃料電池を生かす応用として、ゴキブリにセンサーを載せて取得データを無線転送させるワイヤレスセンシングが考えられています。文献中では電圧をチャージポンプICで2.5 V付近まで昇圧することでゴキブリ上のワイヤレスセンサーを駆動し、温度と湿度を1時間弱送り続けることに成功しています。
ゴキブリが動き回るのは嫌ですが、将来は調査が難しい狭い隙間や危険箇所でこのような生体センサーが活躍するかもしれませんね。
研究にかける意気込み
筆頭著者の博士課程学生・庄司 観さんから研究に対するコメントを頂きました。
私の研究では、昆虫自身がエネルギーを自ら創り出し、昆虫に搭載したセンサーを駆動させることで、自然調和・自律分散型センサーの創製を目指しています。身の回りにたくさんいる昆虫を利用することで、既存のシステムでは実現不可能であった、「自律分散型センサーネットワーク創製」という全く新しいコンセプトを提唱できるものと考えています。バイオ燃料電池の研究はその第一歩です。最初はゴキブリを用いた研究に抵抗がありましたが、今ではゴキブリなしの生活は考えられません。ゴキブリを毛嫌いしないでください。それは将来、あなたを捜索に来るゴキブリの先祖かもしれません。
文献
- “Biofuel cell backpacked insect and its application to wireless sensing”, Kan Shoji, Yoshitake Akiyama, Masato Suzuki, Nobuhumi Nakamura, Hiroyuki Ohno, Keisuke Morishima, Biosensors and Bioelectronics 2016, 78, 390-395. DOI: 10.1016/j.bios.2015.11.077