[スポンサーリンク]

一般的な話題

「サイエンスアワードエレクトロケミストリー賞」が気になったので調べてみた

[スポンサーリンク]

BASFとVW、第4回「サイエンス アワード エレクトロケミストリー」賞の受賞者を発表

ドイツの化学会社であるBASFとフォルクスワーゲン(VW)が主催する「第4回サイエンスアワード エレクトロケミストリー」賞の授賞式が、10月28日東京都内のホテルで開催された。今年は、カリフォルニア大学バークレー校のブライアン・マクロスキー氏が栄えある受賞を果たした(引用:レスポンスResponse.jp, 10月29日)。

 

ケムステではスタッフが化学のニュースを巡回してTwitterなどのSNSやケムステニュース、またこの化学者のつぶやきにてその内容を紹介しています。その際、気になったのが、上述に引用したニュースで報道された「サイエンスアワードエレクトロケミストリー賞」。

化学関連の若手国際賞はいくつかありますが(例:Reaxys Ph.D Prizeロレアル・ユネスコ女性科学者奨励賞ゴットフリード・ワグネル賞など)、この賞は聞いたことがありませんでした。化学の他分野を知る良い機会ですし、読者の皆さんに有益な情報かもしれないので、ちょっと調べてみました。

 

サイエンスアワードエレクトロケミストリー賞とは?

ホームページに記載がありました。

Electrochemistry is essential to improve energy storage, especially for mobility purposes. Only with high-performance and cost-efficient energy storage systems electric mobility will succeed. The Science Award Electrochemistry (www.science-award.com) was initiated by BASF and Volkswagen in 2012. It is presented annually and targets outstanding scientists in the global academic research community. The aim is to foster exceptional scientific and engineering achievements in electrochemistry and to provide an incentive for the development of highperformance energy stores. The total prize money is €100,000, with the first rank worth €50,000. (引用:Science Award Electrochemistry ウェブサイトプレスリリースより)

 

どうやら、電気化学分野の若手研究者に対する国際賞のようです。2012年にBASFとフォルクスワーゲンが創設して、今年で4回目。昨今の電気自動車、ハイブリッド車、エレクトロモビリティ技術の発展には、その基礎分野となるエネルギー貯蔵手段の開発が欠かせないことから、それらに関連する化学者(科学者)を表彰しているとのこと。賞金総額は10万ユーロ、そして、最優秀者には5万ユーロの賞金が贈られます。おおよそ650万円ほど。若手にとっては大変高額な賞ですね。どうやら、5人前後の研究者がファイナリストとして選ばれて、その中から最優秀研究者が選ばれるようです。

こんなトロフィーももらえる

こんなトロフィーももらえる

どんなひとが受賞している?

今年のファイナリストは、調べてみると以下の5名。米国スタンフォード大学のYi Cui准教授、インドの粉末冶金・新素材国際先端研究センターのSathiya mariyppan博士、米国カリフォルニアバークレー校のBryan McCloskey助教授、京都大学の折笠有基助教、スペイン国家研究評議会のAlexandre Ponrouch博士です。

ファイナリストの年齢をみてみると、博士取得直後から10年前後ぐらいと若手研究者であることがわかります。

2015-11-19_13-59-18

 

また、かなりの確率で日本人研究者が残っているようで、第一回目(2012年)には薮内直明助教(東京理科大学、現在東京電機大学准教授)が受賞しています。今年は、上記のファイナリストで最後にプレゼンテーションを行い、最終的にMcCloskey助教授が最優秀賞に選ばれました。

(出典:Science Award Electrochemistry)

最優秀賞を受賞したMcCloskey助教授(出典:Science Award Electrochemistry)

研究内容は“Studies in electrochemical processes to unravel the fundamental limitations of the nonaqueous lithium air batteries”(非水系リチウム空気電池の基本的な限界を解明するための電気化

学プロセスの研究)です。最近、Nature ChemistryScienceに論文を立て続けに発表しており(責任著者ではないですが..)、電気化学分野の注目の若手研究者です。

  • Aetukuri, N. B.; McCloskey, B. D.; Garcia, J. M.; Krupp, L. E.; Viswanathan, V.; Luntz, A. C. Nature Chem. 2015, 7, 50. DOI: 10.1038/nchem.2132
  • Garcia, J. M.; Jones, G. O.; Virwani, K.; McCloskey, B. D.; Boday, D. J.; ter Huurne, G. M.; Horn, H. W.; Coady, D. J.; Bintaleb, A. M.; Alabdulrahman, A. M. S.; Alsewailem, F.; Almegren, H. A. A.; Hedrick, J. L. Science 2014, 344, 732. DOI: 10.1126/science.1251484

 

BASFのとりくみ

  このような、賞を創設した、BASFとフォルクスワーゲン*。特に化学に密接に関係のある、BASFは今年創立150周年の世界最大の化学メーカーであり、その記念事業を多数行っています。ケムステでも2つほど取り上げましたが、ひとつはBASFの特製ヒストリーブックプレゼント!、もう一つはウェブサイトBASFクリエータースペース(CSO)の開設です。

BASFは化学業界でも最高の研究開発費を投入しており(2014年研究開発費約18.84億ユーロ)、その長い歴史を振り返っても大学や研究機関との共創に熱心に取り組んでいる会社です。

今年150周年を迎えたBASFは、その共創をテーマに掲げており、そのうちのひとつがCSOとなります。

CSOは、前回の記事で説明したように、地球規模の課題についてのアイデアをこの場で議論し、問題への回答の発見につなげる取り組みで、人々の多くの意見を募集しています。Chem-Stationでもいくつか投稿していますので、興味があればぜひ参加してみてください。登録は無料です

 

 

*フォルクスワーゲンはなにかといま問題を抱えており、化学でないので深くは述べません。

外部リンク

 

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第六回ケムステVシンポ「高機能性金属錯体が拓く触媒科学」
  2. 一人三役のリンイリドを駆使した連続光触媒反応の開発
  3. コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組…
  4. 膨潤が引き起こす架橋高分子のメカノクロミズム
  5. ヘテロ環ビルディングブロックキャンペーン
  6. ルテニウム触媒を用いたcis選択的開環メタセシス重合
  7. フラーレン〜ケージを拡張、時々、内包〜
  8. Arborisidineの初の全合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. ビニル位炭素-水素結合への形式的分子内カルベン挿入
  2. ナノ合金の結晶構造制御法の開発に成功 -革新的材料の創製へ-
  3. 抗生物質の誘導体が神経難病に有効 名大グループ確認
  4. アミール・ホベイダ Amir H. Hoveyda
  5. CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法
  6. 電気化学と金属触媒をあわせ用いてアルケンのジアジド化を制す
  7. シラン Silane
  8. カスケード反応で難関天然物をまとめて攻略!
  9. 科学は探究心を与え続けてくれるもの:2016 ロレアル–ユネスコ女性科学者 日本奨励賞
  10. 材料研究分野で挑戦、“ゆりかごから墓場まで”データフル活用の効果

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー