[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

エステルを使った新しいカップリング反応

[スポンサーリンク]

 

さて以前、ここ化学者のつぶやきで「スポットライトリサーチ」という新しい企画をはじめることをお知らせしました(記事:【予告】ケムステ新コンテンツ『CSスポットライトリサーチ』)。新企画の主役は、若手研究者・大学生・大学院生です。その後準備期間を経て、対象となる研究を発表された若手研究者達に声をかけはじめており、現在数人にお願いしているところです。まずは手始めに、自分のところの学生で恐縮ですが、どのような企画なのか例を示したいと思います。

というわけで、今回は、名古屋大学大学院理学研究科有機化学研究室伊丹健一郎教授)の博士課程3年、武藤慶さんにお願いしました。武藤さんは「ニッケル触媒を用いる新規クロスカップリング反応の開発」に従事し、数々のカップリング反応・新触媒の開発を行ってきました。研究室では優れた研究遂行能力と、持ち前のリーダーシップを発揮し学生を牽引しています。

その武藤さんが最近報告した、ニッケル触媒をもちいた新型カップリング反応に関する論文

Decarbonylative organoboron cross-coupling of esters by nickel catalysis

Muto, K.; Yamaguchi, J.; Musaev. D. G.; Itami, K. Nature Commun, 2015, 6, 7508. DOI: 10.1038/ncomms8508

に関してお話を伺いましたので紹介したいと思います。

 

Q1. 本研究はどんな研究ですか?簡単に説明してください

「エステルのC–C結合を切って、ボロン酸と新たなC–C結合を作る、新しいカップリング反応の開発」(図1)です。

ボロン酸を用いたクロスカップリング反応は鈴木–宮浦カップリングとして広く認知され、大学や企業で多用される反応です。これまで有機ハロゲン化物、フェノール誘導体やアニリン誘導体とボロン酸とのカップリング反応が多く報告されていますが、エステルを使ったクロスカップリングは例がありませんでした。今回、ニッケル触媒を用いることでエステルとボロン酸とのカップリング反応を実現しました。

エステルは市販試薬にも合成中間体にも多く見られる、合成化学者に最も馴染み深い化合物群であることから、今回の研究成果は今後の有機合成戦略を変えることができるのでは、と期待しています。

2015-09-17_11-01-47

図1 今回の研究: ニッケル触媒を用いたエステルのカップリング反応

 

Q2. 本研究テーマについて、工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください

このテーマは偶然から始まりました。もともとニッケル触媒を用いて別の反応を研究していた際、化合物1を得るつもりで実験をしていました[1]。しかし、全く予想していなかった別の化合物2が得られることがわかりました(図2)。これが「エステルがカップリング反応する」ことの発見です[2]

この反応を発見した時は、感動、驚き、困惑が入り混じり、解析中に「おぉーっ…お?」って言ってしまったことを覚えています。

ここからは今回の研究成果へと展開しました。この反応を使って様々なカップリング体を合成しましたが、気づいたら合成した化合物が50個を超えていた時は、実験項作成が大変になってしまう、と後悔した反面、この反応の基質適用範囲の広さを実感しました。

 

2015-09-17_11-02-14

図2 エステルカップリング反応の発見

 

Q3. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「武藤がいてよかった」、と思われるような成果を残したいです。有機化学は私にとって一生つきあっていくものだと考えています。それだけハマりました。その化学において、多分野に渡って活躍させられる「武藤反応」、「武藤分子」を世に送り出していきたいです。

 

Q4. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

好きこそ物の上手なれ」です。私は、化学が大好きだからたくさん実験して、寝る前には研究室で回っている反応の結果が楽しみになって寝るのが遅くなるくらいです。人それぞれ得手不得手あるかと思いますが、好きなこと、楽しめることが一番大事かなと思います。化学に限らず研究は苦難の連続ですが、好きなことであれば、自ずと挑戦できるのではないでしょうか。

「好き」という気持ちを大事に、化学を、サイエンスを楽しみましょう!

 

関連文献

  1. Muto, K.; Yamaguchi, J.; Itami, K. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 169. DOI: 10.1021/ja210249h
  2. Amaike, K.; Muto, K.; Yamaguchi, J. Itami, J. Am. Chem. Soc.2012134, 13573. DOI: 10.1021/ja306062c

 

関連リンク

 

研究者の略歴

2015-09-17_11-04-49武藤 慶

所属:名古屋大学大学院理学研究科 博士後期課程3年(日本学術振興会特別研究員DC1)

研究テーマ:ニッケル触媒を用いる新規クロスカップリング反応の開発

略歴:1988年愛知県生まれ。2011年名古屋大学理学部卒業後、修士課程に進学(2013年修士)、その後博士課程に進学、現在博士課程3年(9月末博士短縮修了予定)。2011年有機合成シンポジウムポスター賞、2012年有機合成化学セミナーポスター賞および有機金属討論会優秀ポスター賞、2013年名古屋大学大学院理学研究科顕彰、大津会議フェロー、2014年日本化学会春季年会優秀講演賞、2015年名古屋大学学術奨励賞など受賞多数。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 常温常圧でのアンモニア合成の実現
  2. ルテニウム触媒によるC-C結合活性化を介した水素移動付加環化型カ…
  3. スルホンアミドからスルホンアミドを合成する
  4. EDTA:分子か,双性イオンか
  5. 【追悼企画】カナダのライジングスター逝く
  6. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ③
  7. 2008年イグノーベル賞決定!
  8. タンパク質機能をチロシン選択的な修飾で可逆的に制御する

注目情報

ピックアップ記事

  1. 光C-Hザンチル化を起点とするLate-Stage変換法
  2. 第131回―「Nature出版社のテクニカルエディターとして」Laura Croft博士
  3. MRS Fall Meeting 2012に来ています
  4. ウォルフ転位 Wolff Rearrangement
  5. 第18回 出版業務が天職 – Catherine Goodman
  6. 塩にまつわるよもやま話
  7. Wiiで育てる科学の心
  8. 不斉アリル位アルキル化反応を利用した有機合成
  9. グリーンケミストリー Green Chemistry
  10. アジドインドリンを利用した深海細菌産生インドールアルカロイド骨格のワンポット構築

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー