学生の皆さんは夏休みですね。夏休みといえば自由研究。小中学生は必須、さらには高校でもあるところにはあるらしいです。そんな自由研究や教育用の教材として適した教材を紹介したいと思います(遅いよ!という声が聞こえてきそうですが)。
第一弾は「ルミノール反応実験キット」。
ルミノール反応?
ケムステをみている方にはいまさらという方も多いかもしれませんが、ルミノールは以下の化合物。IUPAC名だと5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-フタラジンジオンといいます。 3-ニトロフタル酸があれば、2工程で合成可能な分子です。
このルミノール、アルカリ性の水溶液中で過酸化水素を作用させると、遷移金属錯体やペルオキシダーゼなどの酵素を触媒とし以下のように反応します。この反応のことをルミノール反応といいます。反応機構は諸説ありますが[1]、図のようにジアザキノン中間体を経て、励起一重項3-アミノフタル酸ジアニオンに変化、これが基底状態に戻るときに紫青色に発光するといわれています。
実験的にはこの発光量を測定することで、過酸化水素や、金属の微量定量およびそれらの定性試験に利用されます。応用例としては、犯罪現場の血痕検出が有名でしょう。血液に含まれるヘモグロビンの鉄錯体が触媒となり、同様の発光を示すからです。
実験キットの開発経緯
さて、今回紹介する「ルミノール反応実験キット」は、和光純薬から発売されていますが、なんと宮崎県警/宮崎大学との共同開発品だそうです。どうやら、現場で簡単に調製できるキットを所望していたようで、実際に利用されているらしいですよ。ちなみに下図の左は宮崎県警のマスコット・みやけいちゃん。[訂正:宮城と宮崎を間違えておりましたので訂正しました。大変失礼しました]
ルミノール反応実験キットの使い方
“現場でも使える”だけあって操作は非常に簡単。ルミノールと過酸化ナトリウムを蒸留水に溶かして噴霧するだけ。冷蔵庫で遮光保存しておけば1週間程度は使えるそうです。
ルミノール溶液にサンプルを添加したり、殺人捜査のまねで血痕にふりかけてみたりするのもよし。また、イラストや文字を書いてみたりなど工夫していろいろ試してみてはいかがでしょうか。ルミノール反応の反応機構と面白い実験、考察があれば自由研究としてはばっちりですね。
ルミノール反応応用
これだけでは物足りない読者の皆様に、少しだけアドバンスな内容を。化学者ならば、超高感度分析のために化学発光度を向上させた「ルミノール誘導体」をつくれないか考えますよね。また、他の分子にくっつけて光らせたいなんてことも。もちろん昔から研究されています。
例えば、武田薬品で開発された高感度発光基質「L-012」もルミノール誘導体。これを使ったウエスタンブロット用化学発光試薬「イムノスターシリーズ」は高感度にウエスタンブロットのシグナル検出が可能です。タンパク質などのラベリングに使いたいなのならば、ルミノールの位置異性体イソルミノール誘導体であるABEIやTPB-Suc[2]。縮合反応でルミノール骨格をターゲット分子に導入できます。また、最近、蛍光色素BODIPYを導入して、蛍光共鳴エネルギー移動による蛍光を観測し、応用するなどなど様々なルミノール誘導体およびルミノール反応が活躍しています[3]。
というわけで、自由研究に最適なルミノール反応実験キットを紹介しました。おっと、そうこうしているうちに夏休みは終わってしまうかもしれませんが、第二弾も近日中に紹介します。
関連論文
- Bastos, E. L.; Ciscato, L. F. M. L.; Bartoloni, F. H.; Catalani, L. H.; Baader, W. J. Luminescence 2007, 22, 113-125. DOI: 10.1002/bio.934
- (a) Kawasaki, T.; Maeda, M.; Tsuji, A. J. Chromatogr., 1985, 328, 121. (b) Yoshida, H.; Nakao, R.; Matsuo, T.; Nohta, H. Yamaguchi, M. J. Chromatogr., 2001, A 907, 39.
- Bag, S.; Tseng, J. C.; Rochford, J. Org. Biomol. Chem. 2015, 13, 1763–1767. DOI: 10.1039/C4OB02413C
関連動画
外部リンク
- ルミノール反応実験キット:和光純薬
- ルミノール反応とはどんな反応ですか?|キリヤ化学
- イムノスターシリーズ:和光純薬