先日、博士課程在籍者の女性科学者で最高の賞、2015年のロレアル・ユネスコ女性科学者日本奨励賞の受賞者の一人山本久美子さんにインタビューをいただきました(記事:科学は夢!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2015)。
今回さらに、もう一人の物質科学分野受賞者吉村瑶子(よしむら・ようこ)さんにもインタビューをいただくことができましたので第二弾として紹介したいと思います。吉村さんは現在京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 ナノスピントロニクス研究室に所属し、
「低消費電力で高速動作する全く新しい情報記録装置の実用化に向けて貢献」
という研究で、受賞されました。女性科学者ならびに博士課程在籍者は必見です!
どんな研究を行っていますか?
本研究では、磁力ではなく電流によって磁石の向きを変えることで、これまでにない全く新しい記録装置を作ろうとしています。磁石のS極とN極の境界(より正確には磁区と磁区の境界でナノスケールで磁化がねじれている領域)を磁壁といいます。この磁壁を移動させると、S極であった場所がN極になったり、その逆のことが起きたりするため、磁石の向きを変えることができます。私たちのグループではこの磁壁が電流によってどのように移動するのか詳しく研究してきました(下図)。
その過程で私は、高速移動する磁壁を検出する新しい測定手法を完成させ、物質の構造を工夫することで新幹線よりも速く移動する磁壁の観測に成功しました。さらに、この系は材料を工夫することで低消費電力化も期待されています。本研究が完成されると、これまでに比べて消費電力が少なく、高速に動く新たな記録装置ができ、情報化社会に貢献できると考えています。
受賞者へ一問一答!
Q. なぜ「ロレアル・ユネスコ女性科学者日本奨励賞」に応募したのですか?
理由は三つあります。まず一つ目は、自分の研究者としての実力を知りたかったからです。「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、一次審査は書類選考、二次審査はプレゼンでした。自分の書類を書く能力やプレゼン能力がどこまで通じるのか試してみたいと思いました。二つ目は、自分の研究の客観的な評価を知りたいと思ったからです。これまで、学会や学術誌で研究内容を発表してきましたが、外の世界で自分の研究がどれほど評価されるものなのかはよく分かりませんでした。この賞を通して、自分の研究の社会での位置付けを再確認したいと思いました。三つ目は、他分野の方たちにも自分の研究を知ってもらい、興味を持っていただける良い機会だと思ったからです。
Q. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?
自分の興味のままに進み、気がつくと今の研究テーマに辿り着いていました。
私は学部時代に物性分野、特に、磁石、スピンといった磁性に興味を持ちました。磁性についてもっと詳しく知りたいと思い、大学院では、電子の電荷とスピンを融合したスピントロニクス分野の研究に進みました。この分野は、デバイス応用につながり、社会貢献できる点も魅力の一つでした。私は、スピントロニクス分野の中でも、磁壁の移動に関する研究を選びました。それは、直感的に分かりやすそう!と思ったからです。実際、研究を始めるとそんな簡単な世界ではなかったのですが、分からないことを先輩方に聞いて、学会や学術誌で情報を得ていくうちに、研究がどんどん楽しくなっていきました。
Q. あなたにとって「ロレアル・ユネスコ女性科学者日本奨励賞」とは?
博士後期課程の女子学生が挑戦できる最高の賞だと思います。このような賞があることは、日々研究していく中で、大変励みになります。私は、3回応募し、3回目でやっと受賞することができました。落選して悔しい思いをしてきましたが、来年こそは賞をとってやるぞ!と毎年強い思いを持って研究を続けることができました。この賞を受賞することがゴールではなく、今後もこの賞に恥じないように、女性科学者として活躍していきたいと考えています。
Q. 幼いときはどんな子供でしたか?
恥ずかしがり屋で、自分の気持ちを伝えられない性格でした。幼稚園では、母との別れが辛くて毎日泣いているような子どもでした。私にとって母と父の存在は大きく、理系の道に進んだのは、数学の教師をしていた父の影響が大きいのかもしれません。
Q. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えてください
高校時代に化学が好きだったので、大学は理学部の化学科に進みました。大学での授業では、知らない世界がこれほど広がっていたのだと驚かされました。そして、大学で研究されている先生方の新しいことを発見していく姿は、とてもかっこいいと思いました。私も、世界中のまだ誰も知らないことを発見したい、と思うようになりました。
Q6. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?
わくわくさせてくれるものです。
興味を持ったこと、不思議に思ったことを追求していくことはとても楽しいと思います。また、その研究が科学の発展だけでなく、社会生活の向上に貢献できる可能性はやりがいを与えてくれます。
Q. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?
特にありません。男性であろうと女性であろうと、研究を進めて行く上では、何も変わらないと思います。ただ、実験装置のバルブがきつく閉まっていて開けられないとか、身長が足りなくて装置を使いにくいとか、肉体的な面で違いを感じることはあります。それは、もちろん頼めば、バルブも開けてもらえますし、背が届かないところは、踏み台を利用すればいいので、問題ありません。
女性で良かったな、と思う点はあります。それは、私の研究分野では、研究室に女性一人(20人に1人ぐらい)といった割合ですので、外部の方たちにすぐに覚えてもらえることと、他の研究室の女子学生とすぐに仲良くなれるところです。これは、女性が少ないからこその利点だと思っています。
Q. 先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないと言われる日本の現状についてどう思いますか?
日本で女性科学者が少ない原因は、理系は難しい、男性に向いている、という固定概念があるからだと私は思っています。理系に進む女性が少ないということが認知されており、そのこと自体が敬遠を招く要因になっていると思います。
私は女性科学者の一人として、この固定概念を変えていきたいと考えています。
Q. どのような科学者になりたいと思いますか?
科学者として、高い専門性を有し、研究の面白さ、重要性を多くの人に伝えられる存在になりたいと思っています。世界中で活躍し、次世代を担う若者たちに影響を与えられる科学者になりたいと考えています。また、理系科目は苦手だという方たちに、少しでも興味を持ってもらえるきっかけになれたら嬉しいです。
Q. 科学者を目指す、後輩達にひと言メッセージをお願いします。
若いうちから専門分野を絞らずに、幅広い学問を学習することをオススメします。中学、高校での勉強と大学での勉強は全く違うものですから、高校で苦手だった科目を好きになることもあると思います(実際、私は中学生の頃に物理は難しいと感じ避けていましたが、今では物理を面白いと思っています)。幅広い知識があれば、科学者としての選択肢も広がります。
ただ、敬遠していた科目に興味を持つようになったら間に合わないのか、と言われると、それはそうでもないです。自分の興味を持った分野ですから、多少大変でも勉強は頑張れます。
遅いということはないので、自分で限界を決めてしまわずに、少しでも興味があることには何でも挑戦してほしいと思います。