反応経路はどうなっているのだろうか?反応遷移状態の構造は?
有機化学者なら、誰しも気にするところです。以前は、分光学的手法などを用いた実験化学的手法により反応経路をサポートすることが一般的でした。近年ではそれらに加え、理論計算によりサポートする論文が増えています。かなり使いやすくなっていますが、初心者にはまだまだ敷居の高い計算化学。興味はあるけれど始められないという人は多いと思います。
冒頭の疑問のように、1つの分子でなく、分子同士が反応する経路やその遷移状態を計算するとなると、ポチッとボタンを押すだけで計算できます!ってことはまだありません。反応の遷移状態を求めるのは計算化学者にとっても経験やいわゆる「勘」が必要な部分になります。
そこで登場したのが、HPCシステムズより先頃発売された『Reaction Plus』です。シンプルなインターフェースで、初心者でも高精度な計算化学が行なえます。本記事では、実際に試用した感想をまじえつつReaction Plusの紹介をしたいと思います。
Reaction Plusとは?
一言でいってしまえば、遷移状態(TS)構造の最適化ソフトウェアです。反応物と生成物と指定するだけで自動的に反応経路が求まります。ユーザの予想した反応経路がインプットに指定できるため、短時間で自然な反応経路を見つけることができます。
このReaction Plusの良さは、「シンプル」という一点につきます。もっともよく使われている計算ソフトウェアGaussianと比較しながら、Reaction Plusの良い点や改善して欲しい点を述べます。
反応遷移状態の自動探索が可能
Gaussianでは反応遷移状態探索を行なうときは、自分自身で反応遷移状態の構造を予想して計算の初期構造を作成しなければいけません。この作業には、有機化学の知識はもちろんのこと、ある種のテクニックが必要です。また自分の予想が間違っていた場合、予想できない場合などは永久に反応遷移状態を求めることは出来ません。
Reaction Plusでは、NEB法、STRING法という理論に基づいて、自動で反応経路を探索してくれます。必要なのは、反応の出発物、生成物の構造だけです。
詳しくは、こちらのページに書いてありますが、自動反応経路のメカニズムは次のようになっております。
- 出発物と生成物を指定すると、その2点が糸でつながれます。(上図の灰色の糸)
- その糸には等間隔でビーズが付いており、それぞれ糸と直行する方向へと転がっていきます。(上図の赤色の球)
- それぞれのビーズ収束したときの糸の状態が反応経路となります。(上図の黒色の糸)
input fileの作成が簡単!
これまでの計算ソフトでは、terminal上でinputファイルを作成することが一般的だったと思います。無機質な文字列と向かい合うのは、熟練者には早くて便利ですが、初心者には大変とっつきにくかったと思います。
Reaction Plusでは、Gauss View上で全ての操作を行なうことが出来ます。
ステップとしては、
1. Gauss view上で出発物、生成物の構造を描く。(〜10分程度)
2. Gauss view上で計算方法を指定する。(1〜2分で終わります。)
3. 計算を投げる
と、こんなにシンプルです。ほとんど文字を打ち込む必要がなく、見やすいインターフェース上で操作を完了できることは非常に大きなメリットと言えます。
詳しい操作は、こちらのページを見てください。
計算結果が見やすい
logファイルをGauss Viewで開くだけで、計算結果を確認することが出来ます。各ビーズの構造をコマ送りで見れるため、反応の出発物質から生成物までへの化学反応をパラパラ漫画のような感じで見ることができます。自分の行なっている化学反応を実際にGauss View上でコマ送りで見たときは、大変感動しました。(こちらのページのgif動画をご覧ください。)
複雑な計算にも対応
触媒反応や2点が同時に結合を生成するDiels Alder反応など様々な反応に対応しています。
また、熟練者であってもGaussianで求めることが難しい反応があります。特に、複数の点が同時に結合を生成するような反応はGaussianでは求めることが非常に困難であるため、Reaction Plusのような反応経路自動探索ソフトは、このような用途においてその特性を最大限発揮すると考えております。
実際の計算例はこちらのページをご覧ください。
改善して欲しい点
実際に試用した感想では、Gaussianに比べて計算速度が遅いというものが多かったです。しかし、これはどの全自動反応経路プログラムにも言えることです。筆者の個人的な意見では、熟練者はGaussianを使った方が早いが、初心者にはReaction Plusをお勧めと言ったところです。
実験に例えるならば、Gaussianに代えてReaction Plusを使うというのは、自分でカラムをかけず、分取条件まで探してくれる全自動カラムを使うと言ったところでしょうか?
まずは体験版から
真っ黒の画面だけだったパソコンが、マイクロソフトWindowsが発売され、グラフィカルインターフェイス(GUI)の搭載によりパソコンがマニアな製品から、家電へと変わっていたように、計算化学も化学者が簡単に道具として使えるツールがあれば、より普及すると考えられます。そんな試みがようやく最近増えてきました。今回紹介したReactionPlusもその試みの1つだと思いますし、同社が別途発売しているLinux操作を簡単にするソフトウェア「GaussRun」も同様です。そのため熟練者にはまどろっこしいソフトにみえることもありますが、このような試みが普及の発端となり、一般化していくものです。応援したいと思います。
Reaction Plusに興味のある方は、まずは期限付きの体験版から利用してみてはいかがでしょうか?基本的にアカデミック版はかなり安価で発売しているようです。
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