今月8日にロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞の授賞式が行われました(トップ画像:日本ロレアル提供)。これまでもケムステでは、博士課程の女子学生に対する賞の先駆けたるものとして応援してきました。過去の記事一覧は以下のとおり。
- 新風を巻き起こそう!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2014
- リケジョ注目!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞-2013
- 2011年ロレアル・ユネスコ女性科学者 日本奨励賞発表
- 2009年ロレアル・ユネスコ女性科学者 日本奨励賞発表
毎年、科学分野で4人しか受賞できず(特別賞を除く)、賞金100万円に加えて、ロレアル製品もいただけるという素晴らしい賞。今年の受賞者は以下の通りです。
■物質科学分野
山本久美子(やまもと・くみこ)
東京大学大学院 薬学系研究科 薬科学専攻 金井求研究室
社会と研究の接点:創薬・材料化学に展開可能な分子変換法の開発吉村瑶子(よしむら・ようこ)
京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 ナノスピントロニクス研究室
社会と研究の接点:情報保持の安定性と高速動作を兼ね備えたまったく新しい情報記録装置の実用化に向けて貢献■生命科学分野
林真妃(はやし・まき)
名古屋大学 理学研究科 生命理学専攻 植物生理学研究室
社会と研究の接点:植物の気孔が開くしくみをあきらかにし、植物の環境応答の理解と有用植物の作製に貢献向井理紗(むかい・りさ)
徳島文理大学香川薬学部(2015年4月~)
社会と研究の接点:ウイルス性白血病発症機構の解明に貢献■日本奨励賞 特別賞
知花くらら(ちばな・くらら)
国連WFP日本大使
日本初の国連WFP日本大使として、開発途上国における食と教育の啓発活動に貢献
今回は知花くららが特別賞を受賞したとのことで、多くの報道陣が詰めかけたようです。受賞者皆さんの研究に興味がありますが、今回は物質科学分野の山本久美子(東京大学大学院薬学研究科)さんにインタビューを頂いたので紹介したいと思います。私も学会会場などで何度か話したことがありますが、とても雰囲気のよい学生です。それではどうぞ!
どんな研究を行っていますか?
次世代ポリオール合成法の開発 ―触媒的多連続不斉アルドール反応
「分子」は生命活動・社会を支える根源要素です。したがって、分子の性質理解と機能創出は学問の発展を促し、社会をも変容させ得る基盤となります。しかし、その根幹を担う分子の合成は現在でもなお成熟しているとは言えません。私はこれまで革新的分子変換の実現により、合成の質と効率を飛躍的に高めるべく研究に取り組んできました。
博士学位研究ではポリオールという分子を選びました。ポリオールは医薬分子の基本構造の一つであり、またユニークな材料としても注目されています。炭素骨格に水酸基が規則的に並んだ構造でありながら、その長さ・空間的位置関係には無数の可能性があり、長足の進歩を遂げてきた現代有機化学をもってしてもその一挙かつ精密な合成は困難です。本研究では精密有機合成にポリマー合成の大胆さを融合させた反応を開発し、次世代ポリオール合成の端緒を開くことに成功しました。分子の特性をうまく利用し、シンプルでありながら精密に設計された反応を繰り返し用いることで、長さと立体を自在に制御しながらポリオールを合成できる可能性を秘めています。将来的には医薬品の迅速供給、高立体選択的な高分子合成の実現により、創薬・材料化学、双方の点で社会貢献が期待できます。
受賞者へ一問一答!
Q. なぜ「ロレアル・ユネスコ女性科学者日本奨励賞」に応募したのですか?
山本さん:大学院在籍中に、生命科学・物質科学という大きなくくりの中で自分の研究を評価していただく機会は非常に得難い経験です。周りの方々がこの上ない研究環境を整えて支えてくださっていることに感謝しつつ、一層の飛躍を目指したいと思い応募しました。
Q. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?
山本さん:“多連続アルドール反応でポリオールを作る”というのは私ではなく、金井教授のアイデアです。2011年4月1日、金井研究室の学生になった初日に「アルドール反応を連続的にやることでポリオールが作りたい」「フラスコの中に原料と触媒を入れておいて、次の日になったらゴテゴテと回っている高分子ポリオールが見たい」と言われたのが始まりです。ハイリスク・ハイリターンな夢のある大きなテーマをいただけて、私は運が良かったと思います。しかし、その実現は一筋縄では行かず、かなり苦労しました。共同研究者とともに、やっとその端緒が開けた段階で試行錯誤の日々です。まだまだやりたいこと、やるべきことが山積みですので、今後とも頑張っていきたいと思います。
Q. 幼いときはどんな子供でしたか?
山本さん:自由にのびのび育ててもらいました。無地のノートが好きで、体育と家庭科(特に調理実習)が得意科目でした。
Q. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えてください
山本さん:高校卒業時にはまだ自分のやりたいことが分からなかったので、大学に進学しようと思いました。文系学部でも良かったのですが、設備的な面で理系は大学に行かないと勉強できなさそうと思い、理学部を受けました。理学科のみの1学科制なのも魅力だったのですが、数学や物理は早々にドロップアウト、生物は何となく性に合わない気がして化学教室を選びました。そして学生実験が楽しかったので丸岡先生の研究室のドアをたたきました。
Q. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?
山本さん:夢。
Q. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?
山本さん:ありません。でも、学会に行くとマイノリティーなので顔と名前を覚えていただきやすく、ちょっと得をしているかもしれません。”女性だから厳しいことを言わないようにしよう”と意識されると損なので、できれば容赦なくアドバイスいただきたいです。
Q. 先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないと言われる日本の現状についてどう思いますか?
山本さん:それは知りませんでした。でも、単に割合だけ増やせばいいとは思いません。原因がジェンダーにあるのなら社会的な意識・概念の問題になりますし、次世代を惹きつけられていないのなら科学の魅力をもっと伝えられるような試みが必要ではないかと考えます。
ただ、そもそも大学院まで進学すると学費や生活費の点で男女問わず負担が大きいのが現状です。アメリカやヨーロッパでは大学院生に研究室から”お給料”が支払われるのが普通です。日本学術振興会の特別研究員制度をはじめ、TA/RA制度、各大学のプログラム、財団の奨学金などは非常にありがたく、この場を借りて感謝申し上げます。
Q. どのような科学者になりたいと思いますか?
山本さん:物事の本質を化学的側面から追究し、かつそれが科学の他分野にインパクトを与えるような仕事がしたいです。
Q. 科学者を目指す、後輩にひと言メッセージをお願いします。
山本さん:サイエンスと言うと無機質に感じられるかもしれませんが、実は人間味にあふれる温かいコミュニティがあります。私自身も、これまで所属してきた研究室の先生方、学生、研究員の皆様はもちろんのこと、学会で初めてお会いしたのに懇親会でお話ししてくださったり、困った時にスッと手を差し伸べてくださる先生方に沢山のサポートしていただきながら学生生活を送ってきました。あまり偉そうなことは言えませんが…そんなところで一緒に新しいサイエンスを切開いてみませんか?
【略歴】
山本久美子
京都大学理学部化学教室(丸岡啓二教授) 卒
東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻(金井求教授) 在籍
関連動画
関連リンク