以前重曹のお掃除のお話を書いたみねです。
忙しくて大分ご無沙汰していました。その後ネットをさまよってみると、重曹掃除の上級者はセスキ炭酸ナトリウム、通称セスキを使っていることがわかりました。セスキ炭酸ナトリウム、正直に言って知りませんでした。おそらく化学者でも相当知らないのではないかと思います。今日はこの「セスキ」にまつわるお話を。
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セスキ炭酸ナトリウムとは?
セスキ炭酸ナトリウムとは、Na3H(CO3)2 nH2Oで表される無機物で、こう書くよりもNa1.5H0.5CO3と書いた方が化学者としてはわかりやすいでしょう。組成式としては重曹と炭酸ナトリウムのちょうど間になりますが、混合物ではなく、この組成の相があるようです。他にもNa1.25H0.75CO3なんてのもあるそうです。重炭酸イオン(HCO3-)と炭酸イオン(CO32-)とが1:1で混ざった複塩です。
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ところでセスキってなんだ?
この耳慣れない接頭辞セスキ(Sesqui)は1と2の間、つまり1.5を表す接頭辞で、セスキと聞いて化学者が思い当たるのは、まずはセスキテルペンでしょうか。テルペン類は生物が体の中で合成する多様な化合物の基本骨格になるもので、10炭素のモノテルペンの中にはリモネンやメントール、シトロネロールや樟脳などがあります。これらはイソプレン(炭素五個)2つから生合成されるため、10個の炭素からなります。20炭素のジテルペン(タキソールなど)、30炭素のトリテルペン(スクアレンなど)もあり、長いものでは天然ゴムがテルペン(イソプレン)のポリマーであることは、高校でも習ったかもしれません。
もちろんそれ以外にもイソプレン1個とか、3個、5炭素や15炭素化合物もあり、この15炭素化合物がテルペン(10炭素)1.5個分ということでセスキテルペンと呼ばれます。
わざわざ10個ずつ数えているんだからモノテルペンやジテルペンが多いのかと思いきや、セスキテルペン類が最も多く見つかっているようです。
他にもあるセスキの利用
他にもありますセスキ。
シルセスキオキサン(Silsesquioxane)はケイ素・酸素と有機側鎖からなる化合物、シロキサンの仲間です。我々がよく目にする石英などは、SiO2という分子式からなる、3次元にがっちりつながった固体ですが、Si-O-Si-O-・・・の1次元の鎖の側鎖にアルキルがつながった一次元の鎖状の化合物はシロキサン(Siloxane)と呼ばれ、[SiOR2]という組成式であらわされます。これはシリコーンオイルなどの骨格で、滑らかな液体になるものが多いです。Siでシル(Sil)、Oがオキサ(oxa)、Rが(アルカンの)アン(ane)でシロキサンですね。
シルセスキオキサンはこのいわば中間の化合物で、[SiO1.5R]という組成式になり、シル-セスキオキサ-アンとなっているわけです。
シルセスキオキサンは有名な籠型骨格のような、おもしろい骨格構造を作ることが知られており、安定性、多様な骨格と物性などから現在でも盛んに研究されています。これもシリカとシリコーンのいわば中間の化合物と言えるでしょう。
他にもアルミや鉄の3価の金属の酸化物、例えばFe2O3はFeO1.5と書くことも出来るので、セスキオキシド(sesquioxide)と略されることもあるようです。
これなら2価の金属はFeOでモノオキシド、中途半端な3価の鉄ならFeO1.5でセスキオキシド、もしFeO2になったらジオキシド、わかりやすいですね。
一般的にも使います
他にセスキを使う言葉を調べてみたら150周年(Sesquicentennial、セスキ1世紀)とか75周年(Semisesquicentennail、半分のセスキ1世紀)なんて言葉もあるそうです。
ちなみに今年はBASF創立150周年、エントロピー命名150周年だそうです。
セスキ線形なんてものもありました。数学で線形と共線形があって、偶数と奇数に対応するようなもんでその中間なので、奇数の半分、1.5に対応するようなモノ、らしいです。
セスキというのは、この何ともややこしいモノを表すのに使うおもしろい接頭辞ですね。