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分子構造を 3D で観察しよう (3):新しい見せ方

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第 3 回となる今回は「Jmol で作ったモデルを、Jmol を使わずに 3D のまま観察できる方法」をご紹介したいと思います。この方法では 3D モデルを画面上でグリグリ動かすことができますので、これまでの画像観察より格段に、見る側に伝わりやすくなると思います。

化学系のみなさんにとっては「Jmol をダウンロードしさえすれば…」と言えば、それほど抵抗が無いかもしれません。しかし、一般の人にいちいち PDB ファイルを表示するためのソフトウェアをダウンロードしてもらったり、専門的な操作を覚えてもらったりすることは難しいでしょう。そこで、おそらく誰でも持っているソフトでモデルを表示できるようにしてみましょう。それは PDF ファイルに 3D モデルを埋め込んでしまうことです!

まずは、私が作った PDF ファイルをここで展示します。どうでしょう、興味を持っていただけたのではないでしょうか?

Adobe 製品以外で PDF を見ている場合はうまくいかないのですが、Adobe Reader または Adobe Acrobat のバージョン 8 以上であれば大丈夫です(最新の Adobe 製品は XI つまり 11 なので問題ありません。ただし、アンドロイド版や iOS 版の Adobe Reader は 3D 表示に対応していません)。こんなふうに PDF で 3D モデルを観察できるという事実を知っている人は、非常に少ないはずです。つまり、この方法を覚えれば他の人を驚かせられること間違い無し


Adobe
 

 

PDF で 3D モデルを観察するためのアプローチ

Jmol では、化学系に限らず幅広く用いられている 3D 形式のファイルを保存できます。いくつかの方法があるのですが、、残念なことに

  • 「フリーソフトだけを使う」
  • 「誰でも簡単」
  • 「綺麗なモデルを作れる」
  • 「どんな OS でも同じことができる」

という条件をすべて満たす方法は見つかりませんでした。複数の方法を紹介しますので、いちばん目的にあう方法を見つけてみてください。「フリーソフトだけを使う」と「どんな OS でも同じことができる」を満たす方法を追求した検討を私の個人ブログで続けてきたので、あわせて参考にしてみてください。聞き慣れない単語がいろいろと出てくるかもしれませんが、まだほとんど誰もやっていない方法なので当然だと思って、一度試してみてください。

 

1 つめの方法:「簡単」な方法

MeshLab というフリーの 3D メッシュ変換ソフトと、有料の PDF 作成・編集ソフトである Adobe Acrobat を使う方法です。

まずはおおざっぱに説明しましょう。Jmol を使うと VRML という 3D ファイル形式を出力できます。MeshLab は、この VRML 形式のファイルを U3D というファイル形式に変換できます。U3D というファイルは Adobe Acrobat の機能で PDF に埋め込むことができます。

では、やってみます。Jmol で VRML ファイルを出力するためにはコマンドを使います。第 2 回の記事で、画像をコマンドで保存しましたね。このときの .jpg を .wrl に置き換えるだけです。Mac なら次のようになります。

$ write /Users/ユーザ名/Desktop/1bna.wrl

 

こうすると、1bna.wrl という VRML ファイルがデスクトップにできます。これを MeshLab で開いてみましょう。MeshLab のインストールは、インストーラの指示に従うだけなので問題ないはずです。インストールしたら MeshLab を起動し、画面の中に 1bna.wrl をドラッグアンドドロップしてください。これでモデルが表示されます。

PDB-ChemStation03-01
 

「File > Export Mesh As…」で 3D モデルを変換できます。さまざまな形式がありますが、PDF に埋め込むためには U3D File Format (*.u3d) を選択します。ファイル名を指定して Save してください(ここでは meshlab-1bna.u3d としました)。次に Option という画面が現れますので、カラーの 3D モデルにするために Color にチェックを入れておきましょう。

PDB-ChemStation03-03
 

かなり時間がかかるかもしれませんが、根気よく待ちましょう。U3D ファイルができたら、これを PDF に埋め込むために Adobe Acrobat を使います。どんなソフトでもかまいませんので、説明文を書いてそのページの残りは空白、という PDF ファイルを作ってみましょう。

3D モデルは Acrobat の右端にある「ツール」メニューの「コンテンツ > マルチメディア」で挿入します。「3D…」をクリックすると、十字形のマークが出てきます。この状態で、表示している PDF の空白部分をドラッグして選択すると、その範囲がモデル表示用の窓になります。ファイル名を聞かれますので、できたばかりの meshlab-1bna.u3d を選択してみましょう。すると、すぐにその場に 3D モデルが表示されます!

PDB-ChemStation03-06
 

ただしこの方法では、棒球モデルにしたはずの原子の球が表示されませんでした。しかも、全体的に見た目の立体的な質感が感じられませんね。MeshLab はどうやら、ファイルを開いて表示するときに、もともとの見た目の質感を保つことができないようですね。

 

2 つめの方法:「フリーソフトだけ」「簡単」「綺麗」な方法

Bentley View V8i という Windows 専用のソフトを使う方法です。Jmol は OBJ 形式という 3D モデルファイルを出力できます。この OBJ ファイルは、Bentley View V8i を使えば普通の文書の「印刷」と同じ要領で、簡単に PDF 化することができます。

Jmol で入力するコマンドは以下のとおりです。

$ write /Users/ユーザ名/Desktop/1bna.obj

 

今回は OBJ ファイルと一緒に MTL ファイルもでてきます。立体モデルとその素材の情報が別々のファイルに書かれているだけですので、「2 つで一つのペア」だと思ってください。Bentley View を起動して OBJ ファイルを開きましょう。

PDB-ChemStation03-07
 

「File > Print to PDF…」を選びます。すると、次のような画面が現れますので、Print to 3D にチェックを入れて Print してください。こうすると、PDF ファイルになってでてきます。

PDB-ChemStation03-08
 

この方法では文章の説明を加えることはできませんが、簡単に 3D モデルを PDF で表示させることができます。質感も保たれていますね。実は、この方法を紹介した本があります!

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この本は、フリーソフトだけを使って顕微鏡システムを構築したり、3D モデルを観察したりしようという最新の情報を集めた野心的な本で、すぐに使える実用的な方法が詳細に検討されています。こちらの本で 3D モデルを観察する方法の一つとして紹介されているのが、Bentley View を使う方法でした。実際にこの方法を使った例が、同じ裳華房から出版されている以下の書籍のサポートページに掲載されています。

[amazonjs asin=”4785358416″ locale=”JP” title=”図解 分子細胞生物学”]

実際に手元で 3D モデルを観察できるとは、画期的だと思いませんか?

 

3 つめの方法:「フリーソフトだけ」「綺麗」「どんな OS でも同じ」な方法

上の書籍では Bentley View を使う方法以外に取り上げられていないのですが、もうひとつフリーソフトで PDF を作成する方法があります。ただしコマンド操作の割合が増えるので、慣れていない場合は戸惑うかもしれません。

Jmol で IDTF 形式のモデルを作り、これを IDTFConverter というソフトで U3D 形式に変換します。さらに組版システムである LaTeX を使用すると、PDF ファイルを作ることができます。LaTeX という化学・生物系にはなじみの薄いツール(以前ケムステでも紹介)を使うという点を除いては、申し分ない方法だと思います。この方法は説明がちょっと長くなってしまいますので、既に公開してある以下の記事を参照してください。

なお U3D ファイルを作ってしまえば、先ほど説明した 1 番目の方法の後半部分を参考に、有料の Adobe Acrobat を使って PDF を作ることもできます。

 

PDF に埋め込まない観察方法は?

今回は、3D モデルを PDF に埋め込む方法を紹介しました。ほかにも、3D モデルを見てもらうために使えるツールはいろいろあります。

Jmol とほとんど同じ操作法の JSmol というソフトは、JavaScript をベースにして動くので、Java をインストールする必要がありません(まぎらわしいですが、JavaScript は Java とは全く別物です)。ブラウザの上でサクサク動き、見る人が表示を切り替えることもできるので、PDF に添付するよりも見てもらいやすい場合もあるかもしれません。

PowerPoint のスライドに分子模型の 3D モデルを入れることもできます。こちらは Windows 専用ですが、Discovery Studio Visualizer というフリーソフトがあり、ActiveX Control という仕組みを使って 3D モデルを挿入できます。例えば以下のページを参照してください。

これらと比べたときの PDF のメリットは

  • 見る人に専門的なソフトの存在を意識させることなく、ただ見て楽しんでもらえる
  • PDF ファイルたった一つを持ち運べば、Adobe Reader の機能だけで見てもらえる

ということだと思います。逆に、PDF に埋め込む方法は、あまり原子が多すぎる複雑なモデルを扱うには非現実的です。原理的にはどんなモデルでも埋め込めるのですが、変換ソフトの能力の限界をこえてしまったり、Adobe Reader がモデルを表示するまでに莫大な時間を要してしまったりという問題が起こるかもしれません。まだまだ追求の余地がありますが、目的に応じて使い分ければインパクトのある発表資料を作るということもできると思います。実際に私も一度試してみましたが、この方法は好評でしたので、余裕があればぜひ試してみてください。

 

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工学(修士);専門は応用化学・生物物理学。会社員です。

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