言わずと知れた構造式作画ソフトChemDraw (現在はChemBioDrawと名を変えています)。
化学者にとって無くてはならないソフトの一つながら、機能を充分に使えている人は、少ないんではないでしょうか?筆者もそんな一人です。
そこでこのソフトについて勉強したことを記事にしてみることにしました。まだまだ勉強不足なところが多いですがご了承を(^_^;)
はじめに
ChemDrawを用いれば冒頭図のような構造式を、正確に美しく描くことができます。しかし、ChemDrawを使うには製品版を購入する必要があります。学割制度などもありますが、使用頻度が少ない人にとっては高価なソフトだと思います。学部の実験レポート作成にしか使わないなどであれば、まずはフリーソフトのMarvinSketchやChemSketchを試してみるのが良いでしょう。大学・研究室・会社のパソコンで使う機会を得た上で、購入を検討してみるのがいいと思います。
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筆者はver.13を使っていますので、それをもとに説明します(2015年1月現在のChemDraw最新版はver.14です)。構造式を書くという作業だけなら、バージョン間にさほど大きな変更はありません(たぶん)。
以下ではたくさんあるメニューのうち、使用頻度の高い代表的な機能を紹介しましょう。
①Fileメニュー
ファイルを開く、保存などを行うほか、文章の設定を行うことが出来ます。
Open Style Sheets : デフォルトのスタイルシートでは綺麗な構造式が書けないので、まずはここからジャーナル指定のスタイルを選んでおきましょう。初心者はACSフォーマットがおすすめです。詳しくはこちらの記事を参照。
Document Setting :構造式を含めた各種スタイル設定をここで行います。
→Layout : 立ち上げたまま構造式を書いていくとすぐにスペースが埋まってしまうことが多いと思います。Document Size→Height・Widthを広げて作業スペースを確保しておくといいです。
→Drawing: 変更することが多いのはBondsの項目だと思います。対応表は以下の通り。
→Text Caption、Atom Labels : フォントの大きさ設定を変える時に使います。普通のテキスト設定がCaption, 原子ラベル設定がLabelです。
→Colors : 背景色と図の色を変えられますが、よほどの理由がなければ白黒で良いんじゃ無いでしょうか・・・。
Apply Document Setting From : 部分的に他のスタイルシートの設定を使用したい場合に用います。other…で以前に作成したファイルを選択すれば、自前のChemDrawファイルの設定と同じにすることができます。論文用、パワーポイント用、ポスター用、ワード用などそれぞれ設定しなおす必要がないため、便利な機能です。
② Edit メニュー
コピペ、やり直し、オブジェクトの挿入などを行うメニューです。ChemDraw独自の機能がいくつかあります。
Copy as : 構造式をSMILE文字列、SLN文字列などに変換し、クリップボードに貼り付けることができます。
Paste Special : Copy asとは反対に、文字列を構造式に変換します。
Get 3D Model : 平面構造式から三次元分子モデルが出力されます。モデルはダブルクリックすればChem3Dで編集できます。
Insert File : 外部の画像ファイルなどを読み込みたいときに重宝します。使い勝手の良いメニューです。
③ Viewsメニュー
各種ツール窓のON/OFFを切り替えます。
Show Crosshair & Rulers : マス目、定規枠の表示。位置合わせをしたいときに便利です。
Show Main、General、Style Toolbar : この3つは構造式を書くために表示しておく必要があります。他は好みで良いでしょう。
Show Analysis、Chemical Properties : 化学構造式から得られる化学物性データ(分子量、精密質量分布、沸点など)を見積もれます。有機合成の現場ではかなりお世話になる機能です。
Show Character Map : ギリシャ文字をはじめとする特殊文字を打つ時にはこれを使います。Symbolフォントでも代用可ですが、こちらはいろんなフォントが使えます。
Show Chemical Warnings : 構造式作画中に価数の不正などを検出し、赤い枠で教えてくれる機能です。
Actual Size, Fit to Window, Magnify, Reduce : 画面表示の倍率の指定に関して。 Actual Sizeは100%の倍率。Fit to Windowは画面に収まるように表示。Magnifyは拡大。Reduceは縮小。
④ Objectメニュー
複数オブジェクト間の位置関係を操作したり、オブジェクトを修飾したりするメニューです。
Fixed Lengths & Angles : Drawing Settingで設定した線の長さ、結合角で結合を描くことを指定します。原則チェック済みのはずです。
Show Stereochemistry : 立体化学の表示(R, S, E, Z)の有無。筆者個人は煩わしいのでOFFにしています。
Align, Distribute : オブジェクトを整列させたり、等間隔に配列させます。とくにTableやSchemeの作成時に重宝します。
Add Frames : カッコや枠などを図に付け加えることが出来ます。
Group, Ungroup : 複数のオブジェクトをひとまとまりとして扱うための機能です。Ungroupがその解除。
Join : 2つの構造式で化学結合を選択し、それをオーバーラップさせた形の新しい構造を作り出します。下記具体例を見て頂くのが一番でしょう。連続的な反応式を書くときに実に便利です。
Bring to Front, Send to Back : 2つのオブジェクトの重ね合わせの前後関係を変える機能です。いちいちメニューから指定するよりは、ショートカットキー(WinならF2, F3)を覚えて使うほうが速いです。
Frip, Rotate, Scale : それぞれ図形の反転、回転、拡大縮小になります。Horizontalは左右方向、Verticalは天地方向という意味です。大変お世話になる機能です。
⑤ Structureメニュー
構造式に対する各種操作を行います。
Check Structure : 分子が正しく描かれているかを検査します。
Clean Up Structure : Document Settings Drawingで指定した結合の長さ、結合角を基準に整形をします。分子の一部分だけを整形することも可能です。
Expand Label :省略形で描いた置換基を展開する。
Contract Label : Expand Labelとは逆に、構造の一部を省略し文字列に置き換えることができる。
Add Multi-Center Attachment : 部分構造式をひとかたまりとして結合が存在している場合に使用できます。Cp環やπ-アリル種などの表記に。
Add Variable Attachment : いくつかの異性体を持つ化合物の構造を化学的に正しく描くことができます。
Predict 1H-NMR Shifts, 13C-NMR Shifts : 化学構造から1Hと13CのNMRシフトを予測する。
Convert Name to Structure, Convert Structure to Name : 化学名から構造を、構造から名前を決定します。
他のText、Curves、Colors、Helpメニューに関してはそのままの意味ですので、直感的に理解できると思います。
次回はこれらの機能を使う具体的な作図例をご紹介します。
(※本記事は2005年に公開されたものを、現代事情に沿うよう加筆修正したものです)
2005. 2. 13 ホットケーキ メイプル&マーガリン執筆
2015.1.19 cosine 加筆修正