[スポンサーリンク]

一般的な話題

息に含まれた0.0001%の成分で健康診断

[スポンサーリンク]

健康診断って長い待ち時間や前日の食事制限で結構大変ですよね。(もちろん病気の早期発見には必要不可欠ですが。)

ドラえもんのひみつ道具の「お医者さんカバン」の中に、聴診器を当てるだけですべての病気を診断できる道具がありますが、将来これに近い装置を使うようになる日が来るかもしれません。

必要なのは貴方の息

息を「ふーっ」と吹きこむだけで健康診断が出来れば楽ですよね。

過去記事(あなたの体の中の毒ガス)で紹介されているように、人間の体内には色々なガスが存在しており、そのガスの多くは呼吸をするときに息として排出されます。ガスの種類や量は健康状態と深く関係しているため、特定のガスをチェックすることで病気(ガン、糖尿病)や肝機能にタンパク代謝まで分かってしまいます。[1,2]

例えば糖尿病はガラスの洗浄でお馴染みのアセトンが指標になります。ただし、人間の息にはアセトンを含めて1ppm(0.0001%)程度の有機物が1000種類も含まれており、健常者と糖尿病患者の息に含まれるアセトン濃度の差は1ppm以下で、この違いを1000種類以上の成分が存在する中で嗅ぎ分ける必要があります[3]

 

1000種類の中から0.0001%を見分ける技術

大学の研究では息に含まれる成分の測定にSIFT-MSやPTR-MSと呼ばれる質量分析法が用いられています。[2,3] 1000種類以上の成分を正確に測定出来る優れものですが、サイズが大型の冷蔵庫ぐらいあり、お値段も結構(数千万以上?)します。残念ながら一家に一台という訳にはいきません。

そこで病気の診断に必要な成分だけを測定出来る様々なセンサーが研究されており実用化の一歩手前まで開発が進んでいます。

例えば息に含まれる0.1ppm以下のアセトンを他のガスに影響されることなく正確に測定できる金属酸化物(WO3)センサーを使った糖尿病の検査[3,4]や、特定のガスのみと反応し色が変わる数種類の試薬を下図1Aのように並べ、息を吹きかける前(下図1B)と吹きかけた後(下図1C)の色の違いから、ガスの種類と濃度を測定する方法が提案されています[5]

1

図1.比色分析を用いた肺がん検査用ポータブルセンサー 文献[5]より引用(一部改変)

これらのセンサーの開発が進めば将来、家庭で装置に息を吹き込むとセンサーがガスを計測、そのデータが病院に自動転送、数日後に診断結果をメールでお知らせなんてことが可能になります。また病院に行くと医師の問診前に、体温と吐く息を測定して健康状態を確認するのが普通になるかもしれません。

 

参考文献

[1] Cao, W.; Duan, Y., Breath Analysis: Potential for Clinical Diagnosis and Exposure Assessment. Chem. 2006, 52 (5), 800-811. DOI:10.1373/clinchem.2005.063545

[2] Risby, T. H.; Tittel, F. K., Current status of midinfrared quantum and interband cascade lasers for clinical breath analysis. Optical Engineering 2010, 49 (11), 111123-111123-14, DOI:10.1117/1.3498768.

[3] Righettoni, M.; Tricoli, A.; Gass, S.; Schmid, A.; Amann, A.; Pratsinis, S. E., Breath acetone monitoring by portable Si:WO3 gas sensors. Chim. Acta 2012, 738 (0), 69-75, DOI:10.1016/j.aca.2012.06.002.

[4] Righettoni, M.; Schmid, A.; Amann, A.; Pratsinis, S. E., Correlations between blood glucose and breath components from portable gas sensors and PTR-TOF-MS. Journal of Breath Research 2013, 7 (3), 03711, DOI:10.1088/1752-7155/7/3/037110.

[5] Mazzone, P. J.; Hammel, J.; Dweik, R.; Na, J.; Czich, C.; Laskowski, D.; Mekhail, T., Diagnosis of lung cancer by the analysis of exhaled breath with a colorimetric sensor array. Thorax 2007, 62 (7), 565-568, DOI:10.1136/thx.2006.072892.

 

関連書籍

[amazonjs asin=”9812562842″ locale=”JP” title=”Breath Analysis for Clinical Diagnosis And Therapeutic Monitoring”] [amazonjs asin=”4274086739″ locale=”JP” title=”センサ入門 (図解メカトロニクス入門シリーズ)”]

 

関連リンク

 

Ohno

投稿者の記事一覧

博士(理学)。ナノ材料に関心があります。

関連記事

  1. 2013年(第29回)日本国際賞 受賞記念講演会
  2. 全合成研究は創薬化学のトレーニングになり得るか?
  3. ブロック共重合体で無機ナノ構造を組み立てる
  4. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(7年目)(留学後編)…
  5. 局所的な“粘度”をプローブする羽ばたくFLAP蛍光分子
  6. ポンコツ博士の海外奮闘録④ ~博士,ろ過マトる~
  7. 地方の光る化学企業 ~根上工業殿~
  8. カメレオン変色のひみつ 最新の研究より

注目情報

ピックアップ記事

  1. ノーベル賞親子2代受賞、コーンバーグさんが東大で講演
  2. NMR管
  3. 第167回―「バイオ原料の活用を目指した重合法の開発」John Spevacek博士
  4. 相間移動触媒 Phase-Transfer Catalyst (PTC)
  5. 日本電子の米国法人、有機物を非破壊検出できるイオン源を開発
  6. フラグメント創薬 Fragment-Based Drug Discovery/Design (FBDD)
  7. スイスの博士課程ってどうなの?1〜ヨーロッパの博士課程を知る〜
  8. 三次元アクアナノシートの創製! 〜ジャイロイド構造が生み出す高速プロトン輸送〜
  9. “かぼちゃ分子”内で分子内Diels–Alder反応
  10. 東レ工場炎上2人重傷 名古屋

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP