先月23日にファイナリスト45名が決定した有機化学・無機錯体分野の若手研究者の国際賞、Reaxys Ph.D Prize 2014。
ついに最終受賞者の3名が決定しましたので世界に先駆けて発表したいと思います!栄えある受賞者は以下の3名です。
Zoey Herm from the Long group, University of California, Berkeley
Dawen Niu from the Hoye group, University of Minnesota
Changxia Yuan from the Siegel group, University of Texas at Austin
残念ながら今年も日本人の受賞はなりませんでしたが、540名の応募の頂点に立った3名の化学者達のお仕事を紹介してみようと思います。
ヘキサンの異性体や二酸化炭素と水素を分けるーZoey Hermさん
今回の受賞者のひとりHermさんはカルフォルニア大学バークレー校のLong研究室に在籍していました。そこでMOFを用いた有機化合物の分離の研究を行いました。これまで7報の論文に関与していますが、代表的な仕事は以下の2つ。1つめは下記の図の通り水素の中にある二酸化炭素をMOFを使って効率的に分離する方法です。特にMgとCuと有機化合物からなる?Mg2(dobdc) [dobdc =1,4-dioxido-2,5-benzenedicarboxylate?]とCu-BTTri [BTTri =?1,3,5-benzenetristriazolate]が水素と二酸化炭素の分離に有効だということです。
“Metal-Organic Frameworks as Adsorbents for Hydrogen Purification and Precombustion Carbon Dioxide Capture”
Herm, Z. R.; Swisher, J. A.; Smit, B.; Krishna, R; Long, J. R.?J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5664-5667.DOI: 10.1021/ja111411q
もうひとつは昨年Science誌に報告された、同じくMOFを用いたヘキサン位置異性体の分離です。炭素6個からなる炭化水素ヘキサン異性体をFe2(BDP)3 [BDP = 1,4benzenedipyrazolate]で構成された三角形のMOFによって分離を可能にしています(詳細は論文を御覧ください)。
(画像は論文から転載)
“Separation of Hexane Isomers in a Metal-Organic Framework with Triangular Channels”
Herm, Z. R; Wiers, B. M.; Mason, J. A; van Baten, J. M; Hudson, M. R; Zajdel, P.; Brown, C. M.; Masciocchi, N.; Krishna, R.; Long, J. R , Science,?2013, 340, 960-964. DOI: 10.1126/science.1234071
多くの研究者が精力的に研究を行っているこの分野でも、かなり特徴的な機能を示すことができないと、インパクトは低く、ハイジャーナルには通りくくなっています。MOFの性質をうまく使った気体の分離を試み、それを実現した点で注目すべき研究であるといえます。
2014年に学位を取得し、現在はETHのKretzschmar研究室で博士研究員を行っているようです。MOF以外でどのような研究を今後展開するのか、大変興味が持たれます。
3つのアルキンでDiels-Alder反応ーDawen Niuさん
?2人目の受賞者であるDawen Niuさんはミネソタ大学のHoye研究室出身。形式的に3つのアルキンからディールス・アルダー反応を進行させるヘキサデヒドロディールス・アルダー反応(HDDA)の開発で大変注目を浴びました(下図)。
“The hexadehydro-Diels-Alder reaction”
Hoye, T.R.; Baire, B.; Niu, D.; Willoughby, P. H.; Woods, B. P. Nature,?2012, 490, 208-212. DOI:10.1038/nature11518
この論文の第三著者に名前を残しているNiuさんは本反応の研究を進め、Nature、Nature Chem. Nature Protocolを含む6報の研究を発表しています。代表的な論文は以下の論文。
“Alkane desaturation by concerted double hydrogen atom transfer to benzyne”
Niu, D.; Willoughby, P. H.; Woods, B. P.; Baire, B.;Hoye, T. R.?Nature, 2013, 501, 531-534. DOI:10.1038/nature12492
分子内のトラップ剤を必要としていたHDDA反応をTHFやシクロアルカンなどのアルカンを2Hドナーとして用いることで解決しました。HDDA反応のオリジナル性が抜群でアルカンを2HドナーとしてフィーチャーさせたためNatureにアクセプトされています。このように独自性の高い研究で成果を出しているため、今後自身の研究を始めた時のプロポーザルがとってもきになるところですね。現在NiuさんはMITのBuchwald研究室で博士研究員を行っているようです。
金属フリーで複雑化合物のC-H結合を酸化ーChangxia Yuanさん
最後の受賞者はテキサス大学オースチン校のSiegel研究室出身のChangxia Yuanさん。全合成から素反応の開発と王道の研究を行っていたようです。代表的な論文はこちら。
“Metal-free oxidation of aromatic carbon-hydrogen bonds through a reverse-rebound mechanism.”
?Yuan, C.; Liang, Y.; Hernandez, T. M.;? Berriochoa, A.; Houk, K. N.; Siegel, D.?Nature 2013, 499, 192-196.DOI:10.1038/nature12284
フタル酸のペルオキシドを用いて、複雑化合物を含む芳香環をフェノールに変える反応です。個人的にはなぜNatureなんだろうと思いますが、複雑化合物にも適用できる基質一般性を有しています。それよりも以下のコンプラナジンAの全合成の第一著者であるとこも注目です。
“Synthesis of Complanadine A, an Inducer of Neurotrophic Factor Excretion.”
Yuan,C.; Chang, C.-T.; Axelrod, A.; Siegel D. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 5924-5925. DOI:10.1021/ja101956x
この化学者のつぶやきでも昔紹介したことがあります(過去記事:コンプラナジンAの全合成)が、この合成は合成化学的にかなり工夫が施された秀逸な合成であると言えます。現在Yuanさんはスクリプス研究所Baran研究室で博士研究員を行っているようで、行く末はアット驚かせるようなDe novo合成を含んだ全合成研究か、はたまた全く違う分野に飛び込むのか。合成ができる化学者はどこの分野でも活躍できるので注目したいと主ます。
Reaxys Ph.D Prizeにチャレンジ!
以上2014年のReaxys Ph.D Prize受賞者3人の研究内容について簡単に紹介しましたが、いずれもNatureやScienceのようなトップジャーナルの第一著者であり、その年に話題になった研究ということで非常にレベルの高い賞であることが伺えます。年々最後の3人まで残るのは厳しくなっていますが、応募は大変簡単なのでPh.Dを取得した、これから取得する人にはぜひともチャレンジしてもらいたいと思います。