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新風を巻き起こそう!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2014

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さて、先日7月3日、女性科学者注目の2014年ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞および特別賞の授賞式が行われました。今年で9度目となりますが、これまでもケムステでは博士課程の女子学生を応援するこの賞に共感を覚え、本賞及び受賞者の紹介を行ってきました(昨年はこちら)。自分の学生も受賞していますし、それらの記事をみて応募し晴れて受賞にいたった女性科学者もおり、筆者にとっても毎年楽しみにしている賞でもあります。

 

「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、ロレアルグループの日本法人である日本ロレアル株式会社が日本ユネスコ国内委員会の協力のもと、2005年11月に創設された賞です。博士後期課程に在籍あるいは、博士後期課程に進学予定の若手女性科学者が国内の研究・教育機関で一年間研究を継続できるよう奨励し、助成しています。これまでに32名の女性科学者が受賞しています。

 

毎年各科学分野で4人の優秀な学生しかもらえない素晴らしい賞であり、その奨励金は100万円。ロレアル関係の高価な品々も副賞としていただけます。今年の授賞式はフランス大使館で行われ、衆議院文部科学委員長小渕優子氏をプレゼンターしてむかえ各メディアの取材も訪れました。

さて、今年の栄えある受賞者は…すでにトップの画像に写真を掲載してありますが、こちら!

ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2014

中住友香さん(産業技術総合研究所 環境科学技術研究部門)

【研究内容】金属電極間を架橋した単分子の物性計測と光化学反応

八木亜樹子さん(名古屋大学大学院 理学研究科)

【研究内容】ナノカーボンを『分子』として合成することで、ナノサイエンスおよびナノテクノロジーの発展に貢献

垣本由布さん(東海大学医学部基盤診療学系

【研究内容】ホルマリン固定組織のタンパク質分析による急性心筋梗塞早期診断マーカーの発見

田淵紗和子さん(総合研究大学院大学 生命科学研究科 生理科学専攻)

【研究内容】任意のタイミングでオレキシン神経を脱落させる新たな遺伝子改変マウスを用いたナルコレプシー治療法の開発

ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞特別賞

進藤奈邦子さん(WHO(世界保健機関)メディカルオフィサー)

 

単分子計測の中住さんもナルコレプシーの田淵さんも気になるところですが、本記事では物質科学分野で受賞した八木亜樹子さんに注目してみたいと思います。

どんな研究を行っているのですか?

ナノカーボンを『分子』として合成・評価する

食品や薬、材料など、私たちの生活を支える物質の多くは『分子』という最小単位から成り立っています。そのため現象や物質について正しく理解するには、関与する分子の理解が必須です。しかし現在でも、その多くが分子として評価されておらず、サイエンスの進展に歯止めをかけています。カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノカーボンはその代表例です。金属に代わる次世代材料として非常に注目されている一方で、現在の製法で得られるナノカーボンは様々な構造をもつ分子の混合物であるうえに、それらの構造は正確にはわかっていません。

私はナノカーボンを分子として精密に合成することで、ナノカーボンのサイエンスを「混ざり物のアバウトな科学」から「分子レベルできちんと理解し活用する科学」へと飛躍させることに貢献しました。本研究では、世界で初めて、構造的に純粋な単一分子となる純度100%のナノカーボンの合成に成功し、材料の性能向上をはじめ、強度の高い繊維、電子デバイスや医療用材料など応用規模の拡大にもつながると期待されます。

2014-07-05_16-21-11.png

受賞者へ一問一答!

Q. なぜ「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」に応募したのですか?

A. 力試し、と思って応募しました。大変有名な賞であり、対象が物質科学という広い分野であるため、自分の研究がこの分野でどのように評価されるのか、価値をはかりたいと思いました。また、超一流の先生方による書類選考とプレゼン審査という経験は他では得難く、このプロセスが「化学を外に発信する」スキルを身につける良い機会だと思いました。

2014-07-05_16-47-15.png

受賞者と衆議院文部科学委員長小渕優子氏

Q. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?

A. 私が研究テーマを選んだのは、

1. 素敵な性質をもつナノカーボンに関わることがしたい

2. 自在に分子レベルのモノづくりができる有機化学が好き

3. 未開拓分野を切り開くというかっこいいことがしたい

という理由からです。

突き詰めれば、学部4年生の研究室配属の際、私が伊丹研究室を選んだ理由となります。

炭素と水素のみから構成されるシンプルな物質なのに優れた材料になる

フラーレンやカーボンナノチューブに代表されるナノカーボンの特筆すべきこの素敵な性質に心を奪われました。私の所属する伊丹研究室の主軸の研究に、

有機化学を使ってナノカーボンを精密に合成する

というテーマがあります。分子レベルのモノづくりができる有機化学にもまた面白さを感じていたので、大好きなナノカーボンにアプローチする方法が有機化学っていいな、と感じました。また、ナノカーボンサイエンスと有機化学の境界領域は未開拓だということで、そこに切り込むのってかっこいい!という単純な憧れもありました。

Q. あなたにとって「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」とは?

A. ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞という素晴らしい賞を頂けたことに対し、素直に嬉しく思います。私を支えてくださるすべての方々、特に研究室のメンバーや家族に深く感謝します。同時に、本賞に見合う研究成果を出さなければと身の引き締まる思いです。研究者として、賞に恥じない研究力と人間性を身につけていきたいと思います。

また、より大きな目標を見据えれば現在の研究成果は第一歩に過ぎず、まだまだ伸ばしていかなくてはいけない段階にあると考えています。本受賞は、まさに奨励賞の名の通り、今後の研究の進展と私の研究者人生を応援してくださっているものであると考えて、励みにさせていただきます。
2014-11-06_01-47-54

国際会議でポスター賞を受賞した際の八木さん

 

Q. 幼い時どんな子供でしたか?

A. とても頑固で負けず嫌いな子どもでした。それでいて不器用で力任せところは昔からです。一方で影響を受けやすく、将来なりたい職業や好きなものはコロコロ変わっていたように思います。でも理科だけは一貫して大好きだったことが、現在の進路にも大きく影響を与えています。

Q. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えて下さい

A. 高校で物理、化学、生物を学んだときに、なぜ?と思っても解決することができずテストでは暗記に頼ることが多かったので、大学でもっと科学の真髄を勉強したいと思って名古屋大学理学部へ進学しました。名古屋大学理学部化学科では、疑問を解決してくれる、面白くためになる講義が多いので、勉強を通して、もっと深く化学を知りたい、自分の手で新しいモノづくりをしてみたいと思っているうちに有機化学を専攻し、気がついたら科学者として研究していました。

2014-11-06_01-48-20ソフトボール大会の八木さんー遊びも運動も研究も全力で!

Q. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?

A. 私にとって科学とは、私達の生活を支える『力』です

自然は常に偉大で、私たちの生活を支えているだけでなく自然現象を通して多くのことを教えてくれます。しかし私たちはその自然の力をときに凌駕しなければ、自然と共存することは困難です。科学は現象の発見と理解を通じて、自然界にはないモノをつくりだし、自然と共存する術を与え、さらには私達の生活をよりよいものに導いてくれます。

私は自然には難しいモノづくり研究により、私達の生活をよりよくする新しい『力』に寄与したいと考えています。

Q. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?

A. 個人的には男性研究者に対して、劣等感を感じたりやりにくさを感じたりなど、ネガティブなことは何もありません。ただ、本来男女がもつ違いは、研究という仕事上でも表れるとは思います。例えば男性の方が、仕事で成果を出して高い評価を受けたいというアグレッシブさが強く見られる傾向にあるように感じます。

一方で女性は、持続的な努力ができたり現実的な考え方をする傾向があるように思います。つまり、男女は遺伝子的にも育ってきた環境にも違いがあるわけで、得手不得手や考え方、物事の進め方などである程度の傾向があるのは至極当たり前だと思うんです。違いがあると認めた上で、男女の研究者がお互いの長所をうまく取り入れる努力ができたらいいですね。

 

Q.先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないといわれる日本の現状についてどう思いますか?

A. 女性科学者の比率が増えることが世の中にとって本当に利益をもたらすことなのかわからないので、一口に女性科学者の割合を増やすべきだ、とは思いません。ただ、女性科学者の比率が少ないことが日本の若い女性の進路選択を狭めている原因であるのだとしたら、比率を増やすことでイメージを改善して、進路の幅を広くさせてあげるべきだと思います。

 

Q.どのような科学者になりたいと思いますか?

A. 世界中を幸せにできる科学者になりたいです。私は今この瞬間ここに生きていることをとても幸せに感じています。この幸せは自分以外の多く生物や自然の力、すなわち科学によって成り立っていると思っています。今生きている生物や今後生まれてくる生物にも同じ幸せを感じてもらえるように、明るい未来を提供できる研究を展開する科学者として働きたいです。

2014-11-06_01-48-52

実験中の八木さんー毎年大晦日から元旦にかけても実験してます(年越し実験)

 

Q.科学者を目指す、後輩の女性達にひと言メッセージをお願いします。

A. 人生一回なので、自分の興味に忠実に生きてください!数ある職業のなかでも、科学者は自分の好きなことに触れていられる時間の長い幸せな職業だと思います。偉大な自然界についてまだまだわからないことは多く、常に刺激があるので飽きることがありません。それに、科学の世界で女性が少ない現状は逆にラッキーかもしれませんよ。マイナーである分、名前を憶えてもらえたり注目されやすかったりといいこともたくさんあります。ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞みたいな賞があるのも嬉しいことですね。

未だ男性の多い科学界に、女性ならではの視点で新しい風を吹かせてやる!くらいの勢いで来てほしいです。

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所属研究室である伊丹研究室の皆とー前列3列目右から4番目が八木さん

最後に

さて、今回の受賞者の八木亜樹子さんのインタビューを紹介いたしましたが、分かる人はわかると思いますが、筆者の所属している伊丹研究室の学生です。2011年にも受賞しており同研究室から2人目となります。筆者のテーマをやっているわけではないですが、3年生のころから目をつけていた学生でした。

学生実験のときは本当に実験がヘタクソで(苦笑)、この子成績いいのに大丈夫か?と思っていました。ただその時から化学に対する気持ちや知識は人よりも何十倍も高く、化学の話をしたときの彼女の目はいつも輝いていました。研究室に所属して好きなナノカーボンのテーマになり、その丁寧さと粘り強さから彼女しかできない研究を進めていきました。大晦日も実験してしまう頑張り屋さんであるだけでなく、ソフトボールでも女子枠の枠を超えて大活躍、遊びも率先して計画する非常にアクティブな研究者です。一緒に働いていて彼女の成長っぷりはいつもよい刺激になっています。

八木さん曰く、

「今は自分の生活から研究を取ったら何も残らないほど研究漬けなので、やめる想像ができません…。自分の研究が誰かから求められている限りは研究を続けたいです。」

だそうです。ごく最近アカデミックの道に進むことを決めて、現在困難な研究テーマをたててバリバリ研究を行っています。

彼女の夢は、

「オリジナルな研究で世界中を喜ばせることと、自分の子どもからかっこいいお母さん(さらにはおばあさん)と言われること」

目標

「『Chem-station』というウェブサイトと『夢の扉』というテレビ番組で取り上げられるような研究者になること」

だそうです。嬉しい限りです。ぜひChem-Stationの研究者のインタビューにのって、さらには夢の扉で紹介されるような素敵な科学者になってほしいと思います。

というわけで、今年の受賞者の紹介をさせていただきました。冒頭の写真、皆本当にいい表情をしていますね。科学の世界に女性ならではの新風を巻き起こして欲しいと思います。改めてこの度はおめでとうございます!

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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