少し前に就職活動に関する記事(下記参照)がありましたが、企業でリクルーター活動をしている筆者には触発されるものがありました。そこで今回は就職活動についてつぶやきたいと思います。
筆者は企業の研究開発部門に勤めており、先の記事に書かれている様な「研究ができ、目の前の研究テーマを大切にしてくれる人」に入社してきて欲しいと強く思っています。しかし、所属企業の採用活動にリクルーターとして関わっていますが、そういった人材を確保する戦略をもう少し練っても良いのではないかと常々感じています。そこで、現場の研究員・リクルーターとして、そして最近まで学生だった身として、具体的に下記の二つの提案をしたいと思います。
提案1「研究内容のプレゼン・議論をする時間を充分に確保する」
提案2「採用担当者に技術系出身者を参画させる」
1.研究内容のプレゼン・議論をする時間を充分に確保する
筆者が学生時代に受けた、ある企業の採用面談では、研究内容の説明に与えられた時間はわずか2分間で、さらにその研究に対する質問は1つのみで質疑応答が1分もかからずに終了してしまいました。論文投稿や年会発表もあって忙しい中、時間を確保して研究概要をまとめた上で面接に臨んだので、面接の内容に拍子抜けしてしまったことを覚えています。これでは、学生の研究能力を充分に評価することは難しいと考えます。
そこで、最終の個人面接等の比較的時間がある面接では、最低でも年会と同じ7分間の研究発表を課し、5~10分程度の質疑応答の時間を設け、しっかりと議論する形式を採用することを提案します。この様に研究発表及びそれを受けた質疑応答の時間を確保する選考方法の最大のメリットは、「研究内容自体のインパクトではなく、その学生自身の研究に対する取り組み方を知ることができる」点にあります。例えば仮に、「論文掲載された雑誌のインパクトファクター」を選考基準の一つに採用した場合、客観的に実績を知ることができる指標という点では優れていますが、「”その学生当人”の研究に対する貢献度」を図るのが難しい側面があります。というのも実際には、先生や先輩の寄与がほとんど支配的というケースもあるためです。企業側が見極めたいのは、「”研究内容そのもの”ではなく、”その学生当人”の研究能力や意欲」ですから、技術的な観点で対話する時間を充分に確保する必要があると考えます。
またこの選考方法の間接的な効果として、「年会(日本化学会、日本薬学会年会等)に参加している、より研究に前向きな(傾向にある)学生達が不利にならない。」という点も挙げておきます。学生の視点で考えると、面接直前の時期に年会に参加することが負担になる部分はあると思います。企業側としても、研究に対してより積極的な学生を採用したいわけですから、「年会には参加せずに、面接の準備をしてください」と主張するのは本末転倒です。しかし、もし年会と同形式の発表が面接で課されるとなれば、年会で使用したスライドを基に発表資料を簡単に準備できます。さらに、学会で話している分、その内容も良く頭に入った状態で面接に臨めるため、年会に参加することの負担が無くなります(少なくとも大きく軽減されます)。
なお、この提案の様な面接形式に関しては、一部の総合化学企業や製薬企業などでは既に実施されていています。ただ、筆者の知る限りではまだまだマイナーな面接形式だと感じ、提案させていただきました。
2.採用担当者に技術系出身者を参画させる
そもそも、学生が属するアカデミックの世界というのは、非技術系出身の方からすれば特殊な環境であるため、どうしても一般の採用活動のシステムとのミスマッチが生じてしまういます。そこで根本的な解決策の一助として、「採用担当者に技術系出身者を参画させる」ことを提案します。
筆者自身、リクルーター活動を行っていて、人事部門所属の採用担当者との認識の乖離が大きいことを感じています。採用方針を考える段階で、学生の居るアカデミックの世界の近況を知る人間が意見を発信できれば、より現場の実態にあった、研究熱心な学生を効率的に採用できるのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。この様な採用活動を実施することには難しさが伴うことも出てくるかもしれませんが、自社の研究開発部門の能力を高めていくためにも、検討する価値は充分にあると考えます。企業で採用活動に参画されている方、もしくはその様な方々と関係のある方は御一考いただけますと幸いです。
最後に学生の皆さんへ
入社前後に複数の先輩社員から言われたことに、「大学の研究と企業の開発は内容的にかなり離れていることが多い。だから大学で頑張ってきた研究は企業では役に立たないと思っている方が良いよ」という話がありました。確かに前半部分の、大学と企業でやる内容は異なることが多いのは事実だと思いますが、この言葉はそのまま学生さんに伝えると語弊が生じてしまうと思っています。
「大学での研究内容は企業では役に立たないと思っている方が良い」というのは、あくまで「”直接的には”役に立たないケースがある」ことを指しています。一方で、研究内容そのものでなく、研究する上で学んできた「研究の進め方(データの読み方、考察の手順、報告書の作成手法、プレゼンの仕方、等々)」は間違いなく役立ちます。
当然ですが、大多数の企業では、大学ほどの充実した教育を受けることはできません(中には、とても熱心で効果的な研修プログラムを用意しておられる企業もありますが、恐らく少数派です)。そのため、入社してすぐの研究員はもちろん、入社後数年間は、研究室で培ってきた実力そのままで開発に従事しなければならないこともありえます。ですから、「入社直後の時期に研究能力をどれだけ有しているか」というのは研究者としての人生を考える上で非常に重要なことです。そして、その「研究能力」を養っておくほとんど唯一の方法は、やはり大学・大学院での研究に真剣に取り組むことになるのでしょう。
この様に書くと学生さんは、大学の先生方の回し者が書いた記事の様に思われるかもしれませんが、改めて筆者は企業の人間であることを強調しておきます(笑)。ただ企業で働く上でも、「大学で真剣に取り組んだ中で培ってきたものは必ず役に立つ」と思う次第です。この記事に最後までお付き合いくださった学生さんには、就職活動の前後有無に関わらず、熱心に研究に取り組んでいただけると幸いです。