[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ブロック共重合体で無機ナノ構造を組み立てる

[スポンサーリンク]

有機材料・無機材料いずれの領域でも、「ナノスケール構造の精密制御された素材創出法」は重要研究課題とされています。

とりわけ近年では、次世代エネルギー技術(色素増感太陽電池、バッテリー、燃料電池etc)がその有望な応用先とされています。これら技術に内在する諸問題(エネルギー効率向上など)を解決しうる、共通かつ有効な手立てと考えられているためです。

今回はブロックコポリマーを用いた構造制御法の一つ「CASH法」をご紹介します[1]。

ブロックコポリマーとは、各モノマーが各々長く連続する複数の領域を持つポリマーのことです。2領域から構成される場合はジブロック体、3領域ならトリブロック体・・・と呼ばれます。

各領域がそれぞれ相反する親水性・疎水性を持つ両親媒性である場合には、ポリマー鎖がモノマー構造・構成比などに応じた特定の形状に自己組織化することが知られています。

この組織化構造を支持体として、無機材料orハイブリッド材料のナノ構造を簡便に構築する方法がCASH法(combined assembly by soft and hard chemistry method)と呼ばれるものです。

両親媒性ジブロック共重合体の親水性部分は、特に金属原料と親和性が高いため、比率を適切に変えて混合することで、無機材料を様々な形状に自己組織化出来ます。これはすなわち、デバイスに応じた最適ナノ構造を簡便に作れると言うことです。

CASH_1

さらにこの自己組織化体を熱処理することで、ポリマー部分をグラファイトへと変換します。こうすることで構造崩壊を防ぎ、無機材料の結晶性を高めることも出来ます。酸素雰囲気で熱処理を行えば、支持体としてのポリマーを除去することも容易です。

CASH_2

具体的応用の詳細については総説[1]をご覧頂きたいですが、従来の構造制御法と異なり、ナノ構造の表面積を高められる、構造体の方向制御が3次元的にできる、支持ブロックポリマーが備える機能も付与可能、非酸化物金属でもナノ構造を維持出来 などの特徴があるようです。

CASH_3

安定化配位子を組み込み、金属Ptナノ粒子をメソポーラス型に自己組織化させた例[2]

現状はジブロック共重合体を用いる展開が主のようですが、今後はトリブロック体を使ったより複雑かつ精密な構造制御、ナノスケールよりもさらに大きなマクロスケールでの構造制御を組み合わせることを目標としているようです。

トップダウン法では不可能な構造制御が行えるため、エネルギー伝達ロスの低減目的などには向きそうな手法だと思えます。また弱い結合に依拠する自己組織化体は得てして構造不安定さに悩まされるのですが、これを熱処理によって固めてしまうことで、材料応用に必要な強度を捻出して応用範囲を広げる発想も興味深いと思えます。

ブロックポリマー自体は古典的技術ですが、これをナノスケールでの基礎研究・ハイブリッド材料へと上手く展開させ、新しい応用を切り開いている好例と言えるでしょう。今後の発展が期待されます。

(画像は総説[1]およびWiesner Groupホームページから引用しました)

 

関連文献

[1]”Block copolymer based composition and morphology control in nanostructured hybrid materials for energy conversion and storage: solar cells, batteries, and fuel cells” Orilall, M. C.; Wiesner, U. Chem. Soc. Rev. 2011, 40, 520. DOI: 10.1039/C0CS00034E
[2] “Ordered Mesoporous Materials from Metal Nanoparticle-Block Copolymer Self-Assembly” Wiesner, U. et al. Science 2008, 320, 1748. DOI: 10.1126/science.1159950

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B000QF4D6Q” locale=”JP” title=”Block Copolymers: Synthetic Strategies, Physical Properties, and Applications: Synthetic Strategies, Physical Properties and Applications”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑭: 液タブ …
  2. 第3の生命鎖、糖鎖の意味を解明する!【ケムステ×Hey!Labo…
  3. リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功
  4. 天然物界70年の謎に終止符
  5. ウッドワード・ホフマン則を打ち破る『力学的活性化』
  6. 第六回ケムステVシンポ「高機能性金属錯体が拓く触媒科学」
  7. 金属を超えるダイヤモンド ーボロンドープダイヤモンドー
  8. 有機合成化学協会誌2019年9月号:炭素–水素結合ケイ素化・脱フ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ゴム状硫黄は何色?
  2. 3色に変化する熱活性化遅延蛍光材料の開発
  3. 【十全化学】核酸医薬のGMP製造への挑戦
  4. ライセルト インドール合成 Reissert Indole Synthesis
  5. 臭素系難燃剤など8種を禁止 有害化学物質の規制条約
  6. トリフルオロ酢酸パラジウム(II) : Palladium(II) Trifluoroacetate
  7. 今年は Carl Bosch 生誕 150周年です
  8. 『夏休み子ども化学実験ショー2019』8月3日(土)~4日(日)、科学技術館にて開催
  9. ジアゾニウム塩が開始剤と捕捉剤を“兼務”する
  10. ChemDrawの開発秘話〜SciFinder連携機能レビュー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
2425262728  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー