[スポンサーリンク]

一般的な話題

インフルエンザ対策最前線

[スポンサーリンク]

 今年のインフルエンザシーズンは終息に向かいつつあるようです。しかし油断は禁物。春に向けて寒暖差が激しくなり、体調を崩しがちです。研究発表や学会の時期にも入ってくるので、万全の対策をしておきたいところ。
インフルエンザ予防といえば、まずは基本的な手洗いうがい、マスクの着用。予防接種も受けて、あとは人の多い場所は避けるといったところでしょうか。しかし今年はインフル治療薬に耐性を持つウイルス株も出現しており、油断はできません。そんな「できるだけ注意はしているけど、それだけでは心許ない‥‥」という方、今晩はお魚にしてはいかがでしょう。

魚を食べるとインフルエンザに強くなる?

 魚にはDHAに代表されるn-3系高度不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、中性脂肪低下など健康に良い効果が多く知られています。近年ではDHAが体内で変換されてできるプロテクチンD1(PD1)という脂質メディエーターが高い炎症収束作用や神経保護作用を示すことが報告されています[1]。またPD1がインフルエンザウイルスの増殖を抑制することが見出されており、新たな治療法として注目されています[2]。

DHA to PD1

PD1は12/15-lipoxygenaseによりDHAから生成され、炎症収束のシグナル伝達などに働く。

著者らはインフルエンザの増殖抑制作用を有する物質を探索するため、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸に由来する代謝物のスクリーニングを行い、その結果、最も増殖抑制効果の高いものとしてPD1を見出しました。

lipid mediators screening.jpg論文[2]より引用
インフルエンザウイルスの増殖に対する高度不飽和脂肪酸代謝物のスクリーニング結果

PD1の新規メカニズム

注目すべきはそのメカニズムで、PD1は宿主細胞で複製されたウイルスRNAの核外輸送のみを特異的に阻害していることが分かりました。

flu infection.jpg

インフルエンザの感染経路とPD1作用機構

 現在インフルエンザに対する治療薬はすべてノイラミニダーゼ阻害薬です。これはインフルエンザウイルスが宿主細胞で増殖した後、細胞外に放出される際に働くノイラミニダーゼを阻害することで、それ以上のウイルスの拡散を防ぐというものです。しかしこれらの治療薬には、感染後48時間以内でなければ効果を発揮しないという大きな弱点があります。一方でPD1には感染から48時間を過ぎても抑制効果がありました。また従来の治療薬と作用機序が異なるため併用治療も有効と考えられます。実際にノイラミニダーゼ阻害薬ペラミビル(商品名ラピアクタ)とPD1を併用した場合、それぞれ単独の場合よりもマウスの生存率が大幅に上昇しました。 

どのようにしてPD1が宿主細胞のRNAとウイルスRNAを区別し、特異的に阻害しているかは明らかにされていません。さらなる研究、そしてインフルエンザの新たな治療薬としての活用に期待がかかります。
だからといってインフルエンザにかかってから慌てて魚を食べても、すぐに治る訳ではありませんのでご注意を。結局のところ、日頃の食生活に気をつけることが一番の予防ということですね。

 

関連文献

  1. Anti-inflammatory actions of neuroprotectin D1/protectin D1 and its natural stereoisomers: assignments of dihydroxy-containing docosatrienes.?Serhan, C. N. et al. J. Immunol.176, 3 (2006):1848-59.
  2. The lipid mediator protectin D1 inhibits influenza virus replication and improves severe influenza. Morita, M. et al. Cell. 153,1 (2013):112-25. doi: 10.1016/j.cell.2013.02.027.

がらがらどん

投稿者の記事一覧

博士後期課程で悪戦苦闘中。専門は栄養生理学や農芸化学で、合成や物性に関しては素人であります。でも構造式を眺めるのは好き。記事については天然物や生体分子についてお伝えしていけたらと思います。 将来は科学コミュニケーションに携われたらと考えていますが、まずは学位奪取を目指して精進します。

関連記事

  1. 第27回 国際複素環化学会議 (27th ISHC)
  2. リンダウ会議に行ってきた①
  3. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑥(解答編…
  4. 第五回ケムステVシンポジウム「最先端ケムバイオ」開催報告
  5. アカデミックから民間企業への転職について考えてみる
  6. 生化学実験:プラスチック器具のコンタミにご用心
  7. Reaxys Prize 2017ファイナリスト発表
  8. 「機能性3Dソフトマテリアルの創出」ーライプニッツ研究所・Möl…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 学会風景2001
  2. 第38 回化学反応討論会でケムステをみたキャンペーン
  3. THE PHD MOVIE
  4. 三菱化学、より自然光に近い白色LED用の材料開発
  5. カール・ダイセロス Karl Deisseroth
  6. 【マイクロ波化学(株)ウェビナー】 #環境 #SDGs マイクロ波によるサステナブルなものづくり (プラ分解、フロー合成、フィルム、乾燥、焼成)
  7. アルメニア初の化学系国際学会に行ってきた!③
  8. 理研の研究者が考える“実験ロボット”の未来とは?
  9. 浜地 格 Itaru Hamachi
  10. 推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
2425262728  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー