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【書籍】「ルールを変える思考法」から化学的ビジネス理論を学ぶ

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著者の川上量生氏は、ニコニコ動画創設者であり、ドワンゴ社(現KADOKAWA・DWANGO)の代表取締役会長。先日「新卒就活に受験料を課す」と発表したことでも話題を呼びました。

当人は京大工学部卒、実は化学を専門にしていたらしい。はたまたジブリに弟子入りした経験まで持つという・・・。

「なんだそりゃ、そんな面白い人なのか!」と思い、最近発売された本書を買って読んでみたところ、期待に違わず大変面白かったワケです。思考がありきたりで無いのはもちろん、レベル高いこともきっちり押さえた上でシビアに先を見すえる姿勢がともかく素晴らしい。

一見化学と関係ない書籍をなぜこの「つぶやき」で取りあげるかというと、本書に載ってた「エネルギー遷移図を使ったビジネス理論」が、筆者にとってあまりにスマートヒットしたからです。これは紹介せねばならない!・・・と思いました。

「触媒」と「ΔE」の重要性を説く川上理論

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化学反応論の世界で汎用されているエネルギー遷移図。学術用途にしか役立たないとされてきましたが、「ビジネスの成功に必要なエネルギー投入戦略」を説くべくこれを援用したのが【川上理論】(と勝手に名付けさせていただきました)です。中身はこの記事に詳しいので、引きつつ簡単に説明してみましょう (画像は記事より引用)。

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化学反応図をサービスビジネスのマーケットになぞらえます。縦軸がエネルギー(リソース)、横軸が時間経過、Aが「流行る前」、Bが「流行った後」の状態です。

「ΔE」は、投資や維持に回せる利潤・リターンと捉えることができます。成長的・持続的なサービス構築のためには、把握不可避な要素です。ゲインが大きければ良い(=進行しやすい)とする見方は、化学反応と同じです。時代に即したものほどΔEのゲインは大きくなる傾向があります。

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あるサービスがブレイクするには、C山を越えるための「活性化エネルギー」を投入する必要があります。普及のための広報努力だとか、サービスの質的向上だとか、社員集めだとかですね。

ここで重要なのは「ΔEが大きく活性化エネルギーの低いもの(=参入障壁の低いマーケット)は誰もがやりたがる」という視点です。

川上氏はこの上で、

「活性化エネルギーが低いビジネスはみんな狙うから競争になってしんどいよね、できれば自分だけがエネルギー下げられる独自の『触媒』が欲しいよね」

と説きます。「触媒」に相当するものを明確に指すのは難しいですが、ユニークな人脈だとか、他社と差別化できる技術、独自のアイデアなんかはそれに相当するでしょう。ドワンゴはそういうビジネスを狙っているとも述べています。

記事中では明言されていませんが、「触媒の有無で活性化エネルギーは変わるが、ΔEは変わらない」とする化学とのアナロジーも、あまりに卓越したものに思えます。食えるパイの総量はマーケットごとに決まっている(つまりある程度の周期でビジネスを変えなければならない)とする見方なのですから。

各種単語を置き換えることで、研究テーマ選びにも応用可能だと思えます。

化学研究にも流行・ニッチはあります。流行領域は注目を集めることが容易な反面、競争が激しくリソース勝負になりやすく、体力のある大規模ラボが圧倒しやすい事情があります。

ですからオリジナル要素を武器に、自分だけが活性化エネルギーの山を越えられる研究分野を探す目線はとても重要です。特に使えるリソースが限られる駆け出しの若手化学者にとっては、死活問題ともいえます。大御所がさんざんやって既にmatureなところに、何の手も無く切り込んでいっても返り討ちされてお終いですから・・・。

ビジネス界では既に有名なキャズム理論の修正版とも取れますが、相当に表現が難しい事象を「化学図」からのアナロジーで明快に整理し言語化している様は、まさしく「非凡」の一言に尽きると思えます。

この一例だけとっても、現在取り組んでいる専門分野をしっかり理解して、いろんな目線を持っておくことの重要性が分かるのではないでしょうか。全然関係ない職に付くことが例え分かっていたとしてもです。「教養の生み出す優れたアウトプット」の模範とすべき例でしょう。

 

おことわり:中身はあくまでゲームとネットとビジネスの本です

化学者向けにわざとトリミングしましたが、実は「ビジネスのエネルギー遷移図」に絡む記述は、ごく一部しかありません。

本書は化学トピックとは全く無縁な独自のビジネスエッセイです。そもそもが4Gamer.netの対談記事をまとめ直した書籍ですから、大半はゲーム・ゲーマー・ニコニコ動画の話ばかり。ゲームをやらない人にとっては何じゃそりゃ??な内容もあるかと思います。

しかし「時代性」を重視した目線からは学べる点が数多く有り、化学者にも通ずる内容が沢山ちりばめられています。

ビジネス全体に通じる栄枯盛衰パターンやニコニコ動画の起源に興味ある方々、はたまた他人と同じことをやるのが遺伝子レベルで嫌な研究者の方々、就活中の学生はもちろん、厳しい生存競争に置かれる先端化学者やビジネスマンにとっても、広く指針を得るためのヒントになる書籍だと思います。(ゲーム用語に興味のない方は、そこは読み飛ばせば良いでしょう)

かつて化学を専門としてた方からでも、こんな思考と人生が飛び出してくるものなのか・・・と筆者は大いに感銘を受けました。「自由な心のあり方」というものの重要性を考えさせられた次第です。すこし化学とは毛色の違う本ですが良書ですし、化学者にも興味を持って貰うべく今回あえてこういった形で取り上げてみました。知的刺激のあるトピック満載の本書を是非お楽しみください!

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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