Extreme様コモンズ素材引用(”超兄貴~聖なるプロテイン伝説”より 「サムソン」) サイトはこちら → ●
Tshozoです。 (本件を修正・加筆した新しい記事を起こしました[2021.4.29]→ リンク)
今回書店を回っていて、ふと目についた筋肉隆々の彼ら。およそ普通に暮らしている限りはなかなか見かけないので、思わず手に取ってじっと見つめてしまいました。『超兄貴 ~聖なるプロテイン伝説~』というゲーム(こちら → ●)を頭に浮かべた方も多いのではないでしょうか。
思わず「兄貴」と呼びたくなるその身体 Wikipediaより引用 → ●
実は筆者の知合いが学生時代にハマり、そちらの方向に(彼の)ベクトルが向いたことがあったため一応無縁なものではありませんでした。そこで今回どうしてそんなに筋骨隆々になれたのか。同様の記事は筆者が尊敬する「有機化学美術館」にも取り上げられていますが(こちら → ●)、今回少しその化学物質や背景を突っ込んで記載してみます。
【注:本記事を以て、ボディビルそのもの及びボディビルダーの方々を侮辱する意図は一切御座いません・あくまでボディビルにおける化学物質の位置付けにつき記載しております・同様に、本記事を以ってボディビルダーの方々のトレーニングにかける努力や想いを否定するものでは絶対に御座いません】
まずボディビルの歴史から。Wikipedia(英語版)から大雑把に引用しましょう。
◎1. 古くは古代エジプトやギリシャの石運びコンテストから始まるが、正式に競技として始まったのは19世紀終盤。“Eugen Sandow”(「ボディビルダーの父」)によるパフォーマンス(大道芸のようなもの)からスタートした模様。1901年にはイギリスで大々的なコンテストを開き、大成功を収める。
◎2. 1930年~1950年にかけ順調にビルダー人口は増えていき、中でも「ウィダー in ゼリー」にもその名が残る”Joe Weider”の出版物や栄養素を前面に出した活動により(注:様々な批判も巻き起こした)爆発的にトレーニング人気が高まる。 “Mr. Universe” “Mr, Olympia”等のタイトルが出来たのもこの頃。
◎3. 1970年代、のちの俳優”Arnold Schwarzenegger”の出現を皮切りにボディビルディングの人気は決定的なものとなる。ニュージェネレーション世代として、著名なボディビルダーとしてはドリアン・イェーツ、ロニー・コールマン、日本人では山本義徳がいた(下図)。
ボディビルダーの開祖 E. ザンドウ(一番左)
及び1970年代~最近の著名ボディビルダー(左より敬称略:A. シュワルツェネッガー, D. イエーツ, R. コールマン, 山本義徳)
これらの歴史を代表的な選手別に並べてみると上図のようになります。見るだに凄まじい筋肉量で、一体どれだけの厳しいトレーニングをこなしてきたのかと驚かされます。このクラスのボディビルダーが5人揃うと、そこらの軽自動車など簡単にリフトアップして移動してしまえるのですから驚きです。
・・・その一方で、一目でお気づきと思いますが、シュワルツェネッガー以降、体が凄まじく大型化していることがわかります。また、全員ではありませんが、腹部が大きく盛り上がり(内臓肥大)、よく見ると胸部乳頭が屹立している(乳房女性化)選手が多数いることもわかります。もちろん、トレーニング技術が高レベルになったこと、高タンパク質食品(プロテイン粉末など)が手に入りやすくなったことがまず第一としてあります。しかしそれだけではありません。
そう、「公然の秘密」なのですが、ザンドウ以外の彼らは全員ステロイド、特に「タンパク同化ステロイド=アナボリックステロイド」を投与又は使用している(いた)のです。
ステロイドはもともと人体内で合成される特定の生理活性作用を引き起こす材料で、一般に体内脂質であるコレステロールから合成され(下図)、主に人体の性的作用や免疫作用を含めた生理に多面的に関わっているもようです。特に数々の体内酵素(CYP17等)を通して合成されるTestosteroneは成長ホルモンとも言われます。
体内のTestosteroneまでの合成経路(図はこちらより引用 → ●)
一番右は、かのベン・ジョンソンが使用していたの合成ステロイド「Stanozolol」
なお根本的に成分は異なりますが、医薬品内「成分」の名称としてもよく知られているステロイドは「副腎皮質ホルモン」で、アトピー皮膚炎などに対する免疫抑制剤としての用途が有名です。一方、以下に「ステロイド」と記載するのは「性腺ホルモン」を対象としますのでご注意ください。なおここらへんの区別はこちらの日本薬剤師会が発表した「ステロイドって何?」に詳しいのでそちらをご覧ください。
何故、彼らはステロイドを使用したのでしょう。結論から先に言いますと「筋肉量を増やすため」です。
筋肉が増えるには、3つの要素、つまり①栄養(タンパク質) ②ストレス(トレーニング) に加え、③ホルモン の3要素が必要です。①②だけでも筋肉が増えそうなイメージがありますが、そうではありません。実は人間の筋肉量(筋繊維量)は、生まれた時から大きくは変わらないという特徴があります。トレーニングすると腕がパンパンになって太くなり、筋肉量が増えたように見えますがあれは(基本的には)血管が膨らんだり、血管部や筋肉損傷部にタンパク質が補修されて膨れただけ。①②だけでは元々の筋肉量はほとんど変わらないのです。ここに体内で合成される微量な③が加わって、僅かに筋肉量を増やすことが出来ます。上記のTestosteroneなどは、③として、つまり体内のタンパク同化ステロイドとして筋肉形成に重要な役割を果たします。
筋肉の基本的な構成図 筋繊維=Muscle Fiberのこと(引用はこちらより → ●)
タンパク同化ステロイドはこの筋繊維を増やす作用を持つ
この体内分に加え、タンパク同化ステロイドを外部から大量投与するとどうなるか。即ち、タンパク質をもっと取り込みやすくして筋繊維(量・質ともに)を増やしてしまうことが出来るようになります。これにより、筋肉量が凄まじい量まで増やせるようになるわけです。もちろんステロイドだけでトップクラスになれるわけがなく、非常識とも言える厳しいトレーニングが大前提となります。
一方、これらのステロイドを人体外から大量に投与した場合に上記の身体的外観の変形が副作用として起こることがわかっています。この他、腎不全、攻撃性の上昇、前立腺肥大及び前立腺がん、無精子症、陰茎収縮、不眠症、脱毛等の症例も認められています。
ステロイド使用/不使用時代の境界線にいたセルジオ・オリバ(Wikipediaより引用 → ●)
漫画「グラップラー刃牙」のアンチェイン・オリバのモデルとして有名
更に、ステロイドには細胞内に水分を貯め込む作用があり、筋肉の質が落ちて見える場合があります。この水分を抜いて筋肉のキレ感を出すため、コンテスト直前には利尿剤を大量服用する選手までいます。また、ステロイドメーカの中には「Safety Steroid Use」と称して安全に使用するためのレクチャーを行っているところもあるようで・・・。
こうした化学物質を多用する昨今の状況を見るにつけ、人間の肉体美をどう評価するかについてのモノサシが何か変な方向に行っているんではないかという気がしてなりません。つまり、筋肉のバランスに加え、筋肉の大きさ、リジッド感で他人より優位に立つためには今やこうした化学物質を利用しないと競争できない状態になっているのだと思います。
多用されている利尿剤の一例 残念ながら詳細な生理作用は専門外です・・・
「薬を飲めば奴らと戦える。それだったら使おう・・・」気持ちは理解はできますが、承服は出来ない。正直筋肉美に憧れたことのある筆者としては、努力されるボディビルダーの方々に対して、そんな複雑な気分を持ちながらこの系統の雑誌を眺めていた次第です。
なお、これらステロイドに関する問題は、要は「ドーピング問題」ということでよく取り上げられていますが、ボディビルの場合はその使用に明確な制限はなく、本人のポリシーによって使用するしないを決める、ちょっと特殊なケースだと思います(「ナチュラル」という、ステロイドを一切使用しないボディビルダーも存在する)。
もちろんドーピングは色々なところに蔓延しており、MLBホームラン世界記録を立てたマグワイヤ(Wikipediaにステロイド使用前の身体の写真が載っています → ●)が使用していたのは記憶に新しいところです。MLBやオリンピック、自転車競技などは騒動があってからかなり厳格化されましたが、一部の格闘技ではまだ厳密に行われてはいないようで す。特に日本の国技でも、小さな大力士であった某横綱出現以降、高い割合で乳頭屹立、乳房肥大が見られるようになりました。先日国営テレビをよく見てみて最近の乳頭屹立、乳房肥大がみられる力士をカウントしてみたのですが、おそらく9割以上の方が何らかを処方していると推測される結果でした。これはある意味おそろしいことである気がします。
しかし、この状況はは外国人が参加し、パワーで絶対的に敵わない分を補うよう になったためだと推定されます。これら競技中の化学物質使用の是非について意見を申し上げることは差し控えますが、やはりどうしても「不自然」ではないかなぁと いう感覚を覚えています。もっとも、筆者のこの感覚は選手たちの置かれた厳しい現実に即してないためかもしれませんけど。
それでは今回はこんなところで。
(続編はこちら)