11月6日、今年もカニ漁が解禁されました!
カニといえば硬い殻で覆われた姿を想像すると思います。一見するとプラスチックのように見えますが、実は多糖類の繊維の複合体(キチン質)でできています。主成分となるキチンは、おおざっぱにいえば紙などに代表されるセルロースと同じような分子構造です。
食べたら捨ててしまうカニの殻やそこらへんにあふれている紙、これらは再生材料として大いに注目されています。そこで今回はキチンとセルロース、バイオナノファイバーについて書いてみたいと思います。
バイオナノファイバーとは?
バイオナノファイバーとはその名の通り、解繊によりナノスケールまで細くした繊維状の生体高分子のことです。代表的な物はキチンとセルロースで、それぞれ10-20ナノメートルの太さで均一に細くしたものが報告されています。近年は東京大学の磯貝研からTEMPO酸化セルロースナノファイバーが報告されており、[1] この方法では3-4ナノメートルまで細くすることが可能です。
バイオナノファイバーの優れた特徴としては、原料が豊富に存在する他、引っ張り強度や熱膨張率の低さなどが挙げられます。例えばプラスチックの透明シートに混ぜ込むことで、成型性や曲げ強度の上昇が見込めるそうです。
透明なカニ
写真は参考文献[2]より
プラスチックの透明シートにカニや紙なんか混ぜ込んで本当に透明になるの?と疑問に思われるかもしれません。2011年、京都大学生存圏研究所の矢野先生の研究室がインパクトある方法で証明してくれました。透明なカニ殻です![2]
作る手順は簡単、カニ殻からまず塩酸で炭酸カルシウム、次に水酸化ナトリウムでタンパク質を取り除き、残ったキチンナノファイバー(20-25質量パーセント)に透明樹脂を染みこませると完成です!
型をとっただけだろうと疑われたそうですが、実際そう思われても仕方がない完成度。初めて実物を見たときは感動しました。透明なエビなどのバリエーションもあるようです。
透明な紙
写真は参考文献[3]より
元矢野先生のグループで現在は大阪大学に所属する能木先生は、透明な紙を2009年に発表しました。[3] それまでにもセルロースナノファイバーを混ぜ込んだ透明シートは発表されていましたが、[4] これはなんと紙だけでできています!
透明な材料を作る際に透過率を下げる原因となる光の散乱は、波長の1/10より大きい構造・ドメインによって主に引き起こされます(ミー散乱)。直径15ナノメートルまで細くできたからこそ実現できた素材です。
こちらも透明プラスチック素材の強化などへの応用が進められています。
サイエンスアゴラ・ケムステブースで見られます!
ケムステは今週末9-10日にサイエンスアゴラに出展します(記事その1・その2)。今回はなんとなんと、矢野先生のご厚意で貸していただいた「透明なカニ」も展示します!ぜひ、日本科学未来館まで足を運んで驚いてみてください!
参考文献
- “TEMPO-oxidized cellulose nanofibers”, Akira Isogai, Tsuguyuki Saito and Hayaka Fukuzumi, Nanoscale, 3, 71-85 (2011). doi:10.1039/C0NR00583E
- “The transparent crab: preparation and nanostructural implications for bioinspired optically transparent nanocomposites”, Md. Iftekhar Shams, Masaya Nogi, Lars A. Berglund and Hiroyuki Yano, Soft Matter, 8, 1369-1373 (2012). doi:10.1039/C1SM06785K
- “Optically Transparent Nanofiber Paper”, Masaya Nogi, Shinichiro Iwamoto, Antonio Norio Nakagaito and Hiroyuki Yano, Advanced Materials, 21, 1595-1598 (2009). doi:10.1002/adma.200803174
- “Optically Transparent Composites Reinforced with Networks of Bacterial Nanofibers”, Hiroyuki Yano, Junji Sugiyama, Antonio Norio Nakagaito, Masaya Nogi, Tohru Matsuura, Makoto Hikita and Keishin Handa, Advanced Materials, 17, 153-155 (2005). doi:10.1002/adma.200400597