少し前にはなりますが、(独)科学技術振興機構 理数学習支援センターから平成24年度の中学校理解教育実態調査の集計結果が発表されました。(PDFファイル)今時の初等理解教育の実態が見えてくるこの調査結果ですが、少なからず心配になるようなデータもありました。
ケムステ読者の皆様はいわゆる理系の方が多いと思います。もしかして生徒時代には学校の科学部所属でした?そんな科学部が今風前の灯というのはどう思われますか?
小学校とは違い、中学からは理科が物理、化学、生物、地学とより具体的に内容が分かれ、授業も理科専門の先生が教えるようになります。よって理系の道へ進むようになるか否かは中学の理科の先生によるところが大きいのではないでしょうか。かくいう私も思いかえせば中学の理科1(化学、物理)の先生に大きな影響を受けています。
調査に対して400校、1200名を超える有効回答が得られています。団塊の世代の教員が退職していることから教員の採用が増加しており、理科教員平均年齢も低下の傾向にあります。ここも少し重要なポイントになっています。では現在の理科教育の実態をデータを通して覗いてみましょう。(引用内の太字は筆者)
理科を教える教員の勤務形態については,正規採用教員(初任教員を含む)が 3人の学校の割合が最も高く32%である。
なるほど概ね専門の先生がいてくれているようです。
平成24年度の学校予算(公費)で,理科全体の設備備品費の平均は19.3万円で,H20中理調査の平均15.7万円よりも増加した。0円と回答した学校の割合は23%でH20中理調査と同程度である。
増加は嬉しいですが、その反面約4分の1の学校で設備の拡充がないというのも寂しい限りです。
「整備が期待される実験機器等がない」と回答した学校の割合が50%を超える項目は,「物理・放射能鉱物標本」(77%),「生物・DNAモデル」(73%),「地学・月球儀」(63%),「生物・無脊椎動物解剖標本」(63%),「生物・無脊椎動物分類標本」(63%),「物理・放射温度計」(62%),「化学・分子運動モデル実験器」(60%),「物理・放射線測定器」(59%),「地学・簡易 気象観測セット」(59%),「物理・ラジオメーター」(56%),「化学・電気泳動装置」(53%)である。
分子運動モデル実験器とはなんぞやと思い調べてみると、シリンダー内を動き回る硬球によって模式的に気体の分子運動を観察できる装置のようですね。
画像はケニス(株)のHPよりhttp://www.kenis.co.jp/onlineshop/2012/05/1138720.html
これは私が学生だったときにもありませんでした。電気泳動は化学というか、生化学では当たり前のように使う機械なのでぜひとも拡充して欲しいところです。
「学校に科学部がない」と回答した学校の割合は73%であり,H20中理調査の 66%よりもやや高くなっている。また,「ある」と回答した学校で,科学部に所属する生徒の平均人数は16人である。
科学部を設置していない学校で,設置するとしたときに,障害になると考えられることで,選択された割合が高い項目は,「顧問となる教員の不足」(69%),「集まる生徒の人数不足」 (44%),「運動部と兼ねて所属できないこと」(25%),「活動費の不足」(24%)である。
えーと、この国は科学技術創造立国じゃなかったっけ?4年前より科学部がないところが増えているではありませんか。集まる生徒が少ない、運動部と兼ねられないは仕方ないとしても、顧問となる教員が不足、活動費が不足とはいかがなものでしょうか。理科の先生は各校3人いるのが一番多かったはずでは?理科の先生も運動部の顧問にかり出されているとか?若い先生は科学部の顧問やりたがらないとか?
この辺や、活動費については政治的にどうにでもなりそうなものではありませんか。このおかげで、
「中学校で所属している部活動」について,「科学部」と回答した生徒の割合は1%である。
「科学部に入部した理由」については,「活動がおもしろそうだから」が 49%で最も高く,次いで「他の部より活動の負担が少ないから」42%,「科学が好きだから」36%,「運動が好きではないから」34%となっている。
1%!! 1学年が120万人位でしょうから、1.2万人ですか。これでいいんですかね?「他の部より活動の負担が少ないから」には少しくすっとしました。
「あなたが理科の観察や実験を行うにあたって,障害となっていること」として,「準備や片付けの時間が不足」と回答した理科教員の割合が66%と高く,「設備備品の不足」が54%,「実験室の不足」が34%となっている。
「あなたの理科授業で学校予算(公費)以外から観察や実験のための教材費の支出がありましたか」に対して,今回の調査では「生徒からの徴収」16%,「自己負担」71%となり,「生徒からの徴収」が,H20中理調査の25%よりも9ポイント低くなっている。
とにかく中学理科の先生が資金不足にあえいでいるさまがまじまじと伝わってきます。「自己負担」ってポケットマネーということですよね?そうまでしなきゃならんとはどう考えてもおかしいでしょう?そもそも実験室が不足しているところが3分の1にも上るってどういうことでしょうか?一刻も早い拡充が望まれます。
「将来,理科や科学技術に関係する職業につきたい」という質問に対して「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と肯定的に回答した生徒の割合は,20%である。
これはほぼ理系の道に進みたいと考えているのが約2割という衝撃のデータです。一方で、
のようなデータもあり、自分では理系かなと自覚している生徒は約3割います。よって、狙い目は「よくわからない」と解答している残りの3割の生徒をなんとかこっち側に引っ張り込むことでしょうね。
理科の各領域の指導が「得意」か「やや得意」と感じている理科教員の割合は,「化学」が86%と最も高く,「生物」72%,「物理」68%,「地学」57%,「情報通信技術の活用(ICT)」50%である。
幸いにも「化学」を教えるのが得意と答えていらっしゃる先生が多数おります。我々としては嬉しいデータです。ぜひとも生徒さんに化学の楽しさを伝えていただければと思います。そして最後に
「今年度,理科の自由研究をしなかった理由」については,「しなくてもよかったから」が 45%で最も高く,次いで「時間がなかったから」37%,「興味がなかったから」33%,「自分が自由研究で調べてみたい事がらがなかったから」27%,「どうしたらよいかわからなかったから」25%となっている。
「しなくてもよかったから」は仕方ないですが、「どうしたらよいかわからなかったから」ですと?
それなら今週末はサイエンスアゴラに参加して、科学ってどんなもんかを身近に触れてみることをお薦めいたします!!
ケムステも出展いたしますのでぜひ会場でお会いしましょう!
- 関連書籍