秋晴れが続いております。皆さまご清祥のこととお喜び申し上げます。と、10月になりましたね。
10月1日といえば、大学では後期が始まり、大学生の皆さんは長かった夏休みですべてを忘れていることでしょう。内定式の方もおおいのではないでしょうか。大学教員の皆さんは9月の討論会時期を過ぎ、1ヶ月後の科研費を見据えて腰を据えていることでしょう。企業の皆さんはいつもどおりといったところでしょうか。世の中では消費税アップの表明があるとかないとか。いやいや10月1日といえば、天一の日でしょう!と思うのは筆者だけでしょうか。かれこれ学生時代から、アメリカ滞在時以外は無料券をもらうために、1杯…..
いやいや話がそれにそれました。こんな話をしたいわけではないのです。
10月1日といえば、アカデミックの世界では大型予算が発表される日!戦略的な研究開発の推進をおこなう科学技術振興機構(JST)の事業が発表される日なのです。若手の個人独立研究を推進する「さきがけ」、チームで革新的技術を創出する「CREST」、そして、卓越したリーダーの下、独創性に富んだ課題達成型基礎研究を推進し、新しい科学技術の源流の創出を目指す「ERATO」の研究テーマおよび研究代表者が公表されます。
特にERATOは一人の研究者に5年で十◯億円の研究費を与えるわけですから、並大抵の研究者では選ばれません。
そしてたった今、この3つの事業の今年の採択内容が公開されました!→ こちら! 詳細情報はこちら (順次更新予定)
その中で、このたびこのERATOに題名通り、筆者のボスである伊丹健一郎氏が選ばれました!
その名も、伊丹分子ナノカーボンプロジェクト!当たり前ですが情報が沢山入ってくるまたとない機会*ですので、是非その内容を紹介したいと思います!
*注: 筆者自身はこのERATOに関与していないため、宣伝ではありません。伊丹さんの実力ならばここで紹介しなくともすぐに広がるので。
伊丹「分子ナノカーボン」プロジェクトとは?
ひとことで言えば、
「混合物」サイエンスであるナノカーボン科学を、純粋なナノカーボンという分子で扱える「分子ナノカーボン科学」という新分野を確立しましょう!
というプロジェクトです。以下研究概要となります。
ナノメートルサイズの炭素物質(ナノカーボン)は、1990年代から次世代材料として脚光を浴び続けて来ました。しかしながら、カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノカーボンは単一の分子として分離・精製することが困難であり、「構造的に純粋な分子」として取り扱えていないという現実があるため、ナノカーボン科学は様々な構造をもつ分子の「混合物」としてのサイエンスに留まっています。
このような背景のもと、本研究領域では、未踏・新奇なナノカーボンを構造的に純粋な分子として設計・合成するとともに、それらを基盤として圧倒的に優れた機能性材料を創成し、それらの応用展開まで図ることにより、「分子ナノカーボン科学」という新分野の確立と、イノベーションの創出を目指します。
具体的には、次の3つのテーマに取り組みます。
第1のテーマとして、構造が明確に定まったカーボンナノチューブとグラフェンナノリボン、さらには新奇な3次元湾曲ナノカーボンの精密合成法を開発するとともに、その応用展開を図ります。一例として、化学合成により構築したナノカーボン分子をテンプレートとして化学気相成長法などの手法を用い精密成長させ、巨大なナノカーボン分子を得ることを目指します。また、第4のナノカーボンと位置づけられる3次元湾曲ナノカーボンを太陽電池、ユニバーサル有機エレクトロニクス材料、バイオイメージングに応用することも行います。
第2のテーマとして、走査型プローブ顕微鏡、単一ナノ構造近接場分光イメージング、単一光子計数技術ならびにX線結晶構造解析を駆使した単一ナノカーボンの構造・物性解析を行い、ナノカーボンの構造・物性やナノカーボン間の相互作用を明らかにします。
第3のテーマとして、ナノカーボン分子の集合体や単結晶のユニークな特徴を活かした新しい吸着・磁性・光学マテリアルの創出を目指します。
これらの研究を通じて、ナノカーボンを単一の分子として理解して活用するとともに、炭素材料の潜在能力を引き出す新たな標準を構築し、画期的な分子ナノカーボンマテリアルの創製により、産業界にも貢献することを目指します。
というわけです。バックグラウンドには同氏がオリジナルアイデアで推進した代表的な結果である(1)カーボンナノリング(カーボンナノチューブの最短部分骨格)の自在合成とこれをテンプレートに用いたカーボンナノチューブの選択的合成法の確立[1]、(2)多環芳香族炭化水素の直接π拡張法の開発とナノグラフェンの精密合成[2]、(3)3次元に湾曲した「ワープド・ナノグラフェン」の世界初の合成[3]、(4)分子触媒を用いたフラーレン誘導体の自在合成法の開発[4]
が背景となります。
続いて、伊丹教授にこの「分子ナノカーボン」プロジェクトに対する熱い思いを聞いてきましたので紹介したいと思います。
伊丹さんの意気込み!
このプロジェクトは私の研究人生の中でもとても重要なものになると考えています。画期的な成果が期待できるとか、そのような成果を必ず出さないといけないとかいう次元ではなく、高い志をもったかけがえのない仲間とともに大きな夢に向かって異分野融合研究ができるチャンスに恵まれたからです。
このERATOプロジェクトでは、未踏・新奇なナノカーボンを構造的に純粋な分子として設計・合成するとともに、それらを基盤とした圧倒的に優れた機能性材料を創製したいと思っています。化学的手法と物理的手法の融合によるナノカーボンの精密合成に加え、分子配列・配向制御、構造・機能解明、デバイス・バイオ応用が一体となった異分野融合研究を推進します。
ナノカーボンを分子として合成し活用できる学術基盤を追求して、いまだ「混合物」の科学に留まっているナノカーボンの科学を「分子科学」ができるレベルにまで昇華させる駆動力にこのプロジェクトがなればと願っています。
「分子ナノカーボン科学」ともいうべき新分野ができれば本当にうれしいです。 優れたコンセプトに科学や社会は共鳴します。そして純粋で美しい構造に機能は宿ると信じています。DNAの分子構造の発見で分子生物学が飛躍的に進展したのと同様のインパクトと可能性が分子ナノカーボン科学にはあると考えています。
このプロジェクトはナノカーボンに焦点を当てていますが、「分子をつなげて価値を生み、世界を変えたい」という私の夢の一部であります。
ERATOとは別に私が関わっているもうひとつの大きなプロジェクトにITbM(WPIトランスフォーマティブ生命分子研究所)があります。ITbMの方向性は合成化学の力を結集させて生命科学(植物と動物のシステム生命科学)に展開することで、ERATOとは一見違うように感じられるかもしれません。しかし、私の中では、志、合成化学を基盤にしていること、「分子」にこだわっている点で同じなのです。
私がERATOに一番魅力を感じる特徴は、目標に向かって他分野の研究者と一丸となって取り組める点です。一般的に学部や研究科がベースとなる大学の研究室においては、所属する学生や研究員のバックグラウンドはかなり均一になります。そのため異分野融合研究を大学の研究室で効果的に行うのは容易ではありません。私はへテロな空間でこそ生まれるブレークスルーを強く信じており、これが可能なERATOという枠組みに強い憧れと期待を抱いてきました。問題意識を共有した研究者が、自由に夢を語り合い、斬新なアイディアを迅速に実行に移すことのできる「舞台」をここにつくりたいと思います。様々な背景と強みをもつ研究者が集結する本プロジェクトは、人とアイディアと研究の融合を加速し、さらには分野に囚われない次世代研究者を育成することにつながればこれ以上の喜びはないかもしれません。
このようなプロジェクトは1人の力でできるものではありません。既にこのプロジェクトが採択されるまでに、極めて多くの方々のご協力とご支援を頂くことができました。かけがえのない共同研究者にも恵まれました。感謝の気持ちばかりで、自分はつくづく幸せ者だと感じています。特に日々私を支えてくれている研究室メンバーと家族への最大限の感謝の意を表したいと思います。関係する全ての人の想いをのせて、「謙虚」にかつ「大胆」に本ERATOプロジェクトを推進したいと思います。よろしくお願いします!
いまだ手にしていない新物質「イタミン」を夢見て。
2013年10月1日 伊丹健一郎
メンバーの意気込み紹介!
ERATOにはチームリーダーという、それぞれの研究を推進する番頭的な役割の人がいます。誰とはいまだいえませんが、最後に「候補者」とその関係者にすでに意気込みと応援メッセージを聞いてきましたので紹介したいと思います!(実はこれをやりたかったのですわかる人にはわかってしまうかも?)
Aさん
このプロジェクトが目指す「分子ナノカーボン科学分野の確立」においては、有機合成化学による分子ナノカーボンの精密合成が絶対に欠かせません。
有機合成の力を駆使して、またときには既存の有機合成を枠を打ち破って、新たな科学の発展に貢献したいと思います。様々な分野の研究者が入り交じる環境においてこそ生まれるブレイクスルーがあると信じて、今からわくわくしています。
自分の得意技を「分子ナノカーボン科学」に生かしたい人、異分野融合の環境で成長したい人、大歓迎です。名古屋で世界を変える研究をしましょう!
Bさん
誰が見ても奇麗で面白い分子カーボンナノリング、自分も合成してみたいと強く思ったのが2年前伊丹研究室へ来たきっかけの一つです。自分のバックグラウンドはもともと有機金属化学でしたが、思い切って分野を変えてみたい伊丹教授に言ったところ、「いいと思うよ、でも有機金属化学、天然物化学、材料化学、高分子化学とか細かい分野に分けて考えてしまうと結果的に小さくまとまってしまう」、また「合成化学はひとつ」と言われ、その信念に非常に強く感銘を受けたのを今でも覚えています。
実際伊丹研究室ではカーボンナノリング合成、天然物合成、触媒反応開発、錯体化学と広く研究を行っていますが、「分子を自在につくる」という大きな目標のもと分野にこだわらず研究が行われていることは明白でした。
研究もさることながら、一番の魅力的な所は伊丹教授の類い稀なる求心力、人望、人を見る目です。伊丹教授を慕って学生、留学生、ポスドク、スタッフが次から次へと集まり、心はすっかりイタマイズ(itamize)され、共に夢をみて喜びを分かち合い、研究が加速する、そんな素敵な研究室だからこそ今回のERATOプロジェクトの発足につながったのだと確信しています。
そして今回も例に漏れず、様々な分野の魅力的なERATOメンバーが集いました。これらを最大限に活かし「合成化学はひとつ」の御旗のもと、多角的視野から新しいナノカーボン類をどんどん生み出して世界を変えていきます!!
Cさん
ナノサイエンス・ナノテクノロジーにおける大きな夢は、伝統的な化学の範疇を超え、原子1つ1つとそのつながりを自在に操り、あらゆる機能を持つマクロな物質を作り出し、それを応用することです。
リチャード・ファインマンがナノテクノロジーの概念を初めて提唱したのが1959年。それから50年以上経った2013年の現在でも、人類の科学は未だ到底その域には達していません。しかしながら、そう遠くない未来、そのようなことが夢では無くなった時代に、歴史の分岐点としてこの「分子ナノカーボン」プロジェクトが人々に記憶されている、そんな未来を伊丹先生と多様なバックグラウンドを持つ仲間達と共にならたぐり寄せられるかもしれない、そう思ってこのプロジェクトへの参加を決意しました。
このプロジェクトにおける挑戦は、私の研究人生の中でもおそらく最もチャレンジングなものになると思いますが、有限の人生の中で、伊丹先生を始め超一流の研究者の方々と共に「人類の科学を飛躍的に前進させる挑戦」に参加するエキサイティングな機会を得た幸運に感謝しつつ、化学者の方々とはまた違った視点から、本プロジェクトを全力で推進していきたいと思います。
Dさん
カーボンナノリングやカーボンナノケージの美しさに魅了されてきた一人として、このERATOプロジェクトに参画できることを非常に光栄に思っております。
結晶性錯体化合物から始まり、その後現在までカーボンマテリアル、という変遷を辿ってきた私にとって、「はっきりと分子構造がわかる、純粋で均一な分子ナノカーボン」は、まさに夢見続けていた物質であり、自身のこれまでの研究キャリアの合流点に位置していることから、「次は絶対これをやりたい!」と分子ナノカーボンを対象とした研究を熱望していました。
そのオリジネーターの方々とこれから一緒に、夢を現実にする研究ができることに、心躍らないわけがありません。このERATOプロジェクトにおける私のミッションは、最高の合成チームが作り出す分子を「いかに使うか」を追求し、「最高の分子ナノカーボン」の域にまで高めることです。さまざまな手法で、
分子ナノカーボンの集積・配列・配向制御を行い、機能発現と、その機構解明を目指します。扱うのは明確に構造がわかるカーボンですから、そして強力なメンバーが揃っていますから、きっとうまく出来ると信じています。ERATO は “era to”とも読めます。これから始まるプロジェクト期間が、何に向かう時代、何のための時代になりうるでしょうか?それは合成・キャラクタライズ・応用すべてを包括した「分子ナノカーボン科学」の確立であり、本プロジェクトはまさに新時代を切り拓くためのものであると思っています。分子ナノカーボンは実在の物質としてはまだまだ新しい概念なので、有機合成化学だけでなく本当にさまざまな分野の研究者が各々の経験を活かしパイオニアとして活躍できるチャンスが無限にあります。「分子ナノカーボンで何かできそう!」とピンときた方、一緒に新時代への風穴を開けましょう。
Eさん
2005年、当時、化学者がまだ手にしていない化合物、“わっか分子”(CPP)の合成、さらにカーボンナノチューブの精密合成について、伊丹さんと熱く語りあい、彼の夢に共鳴して8年。ついにこの時が来た。
本プロジェクトの特徴は、「分子ナノカーボン」をキーワードに、化学だけでなく、物理、応用物理など様々な分野の異分野融合による研究推進です。本プロジェクトは、様々な分野の新進気鋭の若者を魅了し、引きつけてしまう、卓越した求心力をもつ伊丹さんがリーダーだからこそ遂行できるものだと思います。高い志をもつ研究者が結集し、それぞれがタッグを組んで、個々の才能を120%引き出すことにより、間違いなく「分子ナノカーボン科学」の新時代を切り拓くことができるものと信じています。本プロジェクトでは、夢の分子「イタミン」を手にすることにより、人類のエネルギー問題、資源問題解決に道を拓きます。
H原さん(応援メッセージ)
ITbMのH原と申します。ERATOメンバーのW宮(またの名をEさん)君とは、大学の同期です。私の結婚式の三次会でベロベロになりながら、W宮君は機能性材料、私は生命分子の分野で、それぞれ化学の力で世界を変えていこうと熱く語り合ったのが思い出されます。あれから早8年、ITbMとERATOのメンバーとして伊丹教授のもとに集い、近くで研究できることに運命的なものを感じています。新物質「イタミン」の持つ恐るべき力の一つかもしれません。これからお互い切磋琢磨しながら夢の実現に邁進できることを本当に楽しみにしています。
最後のおっさんのおかげで、Eさんがバレバレですが、皆さんとっても気合が入っています。
研究はヒトが行うもの。熱意が研究の方向性や行く末を変えることだって往々にしてあります。だからこそ、ぜひ自身の言葉を忘れずに邁進していただきたいと思います!
なお、ここでは紹介できませんでしたが、伊丹教授と同時に東北大の磯部寛之教授も今年のERATOに採択され(縮退π集積)、化学から2つのERATOが同時に生まれたこととなります。分野もとっても似通っていますね。切磋琢磨してナノカーボンイノベーションを起こしてほしいと切に祈ります!
関連文献
[1] (a) Itami et al, Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6112. DOI: 10.1002/anie.200902617 . (b) Nat. Chem. 2013, 5, 572–576. DOI: 10.1038/NCHEM.1655 [2] Itami et al. J. Am .Chem .Soc. 2011, 133, 10716-10719. DOI: 10.1021/ja202975w [3] Itami et al. Nat. Chem. 2013, 5, 739-744. doi: 10.1038/nchem.1704 [4] Itami et al. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8080-8081. DOI: 10.1021/ja073042x
関連書籍
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