アルメニア初の化学国際会議、ArmChemFront2013の参加レポート!
今回は学会内容について紹介します(前回の記事はこちら)。
どんな学会だったの?
アルメニアで化学系国際会議を開くのは、今回が初めてなのだそうです。今後この学会が継続的に開催されるかどうか、これはもちろん評判(参加者の第一印象)で決まります。
しかしアルメニアは人口300万人という小国であり、お世辞にも化学レベルが高い国とは言えません。これまで国際会議を運営したことが無い事情もうなずけます。世界中から多様なバックグラウンドを持つ人間が来訪するわけですし、規模の大小に依らず学会運営は実に大変だろうことは想像に難くありません。
しかし実際に参加してみた印象として、初回開催と思えないほど体裁はしっかりしており、各種進行もスムーズでした。どうやら秘訣は「共同運営方式」にあったようです。つまり経験に乏しい現地のエレヴァン州立大学が、ノウハウを持つオランダのフローニンゲン大学と協力する体制で執り仕切られていたのです。
この上で様々なエネルギーが注ぎ込まれた結果、国家レベルのイベントとも言うべき様相を呈していました。国の規模を考えれば、これだけの意気込みは必要なのでしょうし、またその価値もあるのでしょう。
その気合いの入れようは、これ以降の記事をご覧いただければお分かりになるかと思います。
どんな講演・発表があったの?
学会のトピックは化学全般。
えらく漠然としてるようですが、ふたを開けてみるとショートオーラルやポスター発表の多くは有機化学からでした。協賛側のトップBen Feringa教授(=有機化学が専門)の人脈を使って、講演者を招待していたことが一因のようです。
しかし招待講演者のレベルは総じて高く、米国・ヨーロッパの一線級研究者ばかりが登場。
傑出した全合成研究を続けるScott Snyder, Eric Sorensen, Brian Stoltz、超分子システム構築で傑出した業績を挙げるBert Meijer、タンパク質修飾で気鋭の研究を行うBen Davis、グリーン触媒の旗手Matthias Bellerなどなど、分野外にも名前の知れ渡る化学者が多数講演していました。日本人の招待講演者も中村栄一教授、林民生教授、大井貴史教授と圧巻です(特に中村教授は学会の大トリでした)。中国からの参加者がゼロだったのは、イマドキ学会としては珍しいことでしょうか。
筆者もそんな方々の前で最近の結果を15分口頭発表して来ましたが、ネイティブ英語を操る彼らと比較して、「越えられないプレゼンの壁」を感じざるを得ませんでした・・・(まぁ、気にしたところで今更ですが)。
とにもかくにも、専門領域の優れた講演を期待通り堪能できたわけです。良い発表者を呼ぶことで、印象の向上を狙った方針は功を奏していたといえるでしょう。筆者も講演者に魅力を感じて参加を決めたクチですし・・・。
ただ、ハイレベルな口頭発表の裏返しとして、現地アルメニアからの口頭発表はゼロ。この点は「お察し」でしょうか・・・一方のポスター発表では、現地大学からの「ご当地発表」も沢山ありました。
マイナ国ハイレベル学会の良いところ?
この学会、とにかく日本人の参加者が少なかったです。筆者と招待講演者を含めても総勢6名(参加者総数はおよそ200名)。
「こんな面白そうな学会になぜみんな来ないのよ?」と当初は思ったものですが、有機化学系であればOMCOSやAsian Chemical Congressなど、他の選択肢が多くあったのも一因のようです。わざわざ怪しげな国アルメニアをチョイスする理由は薄かったのでしょう・・・。
しかし日本人の少なさ自体は悪いことでは無く、むしろ筆者にとってはプラスに感じられました。
というのも、無名若手の立場からはゆっくり話す機会が持ちづらい、有名科学者とお話出来る機会が多かったからです。ポピュラーな大規模学会の場合、そういった有名人はかねてよりの知り合いや取り巻きと話すばかりなわけで、こちらとしては割って入るタイミングも見つけづらいもの。マイナ学会ではそんな方々との距離が近く、だいぶ気軽に話せます。もちろんこれは日本人化学者に限った話ではありません。
マイナ国の学会には、それなりに「狭く深く」な利点があるわけですね。
次回は交流イベントの様子をご紹介します。